「あんなに親身に怒ってくれる人はいない」 秒殺負けの中谷優我が明かした青木真也への感謝

“闘魂継承者”として期待された21歳があっけなく負けた。ABEMAのドキュメンタリー番組『格闘代理戦争-THE MAX-』の準決勝が19日、都内で行われ、「TEAM青木真也」の中谷優我は柔術世界3位の格上である「TEAMイゴール・タナベ」のトミー矢野と対戦。入場時間よりも短いわずか18秒で一本負けを喫した。

試合後、控室で振り返る中谷優我【写真:ENCOUNT編集部】
試合後、控室で振り返る中谷優我【写真:ENCOUNT編集部】

大学からMMA挑戦「自分がどこまでやれんのか」

“闘魂継承者”として期待された21歳があっけなく負けた。ABEMAのドキュメンタリー番組『格闘代理戦争-THE MAX-』の準決勝が19日、都内で行われ、「TEAM青木真也」の中谷優我は柔術世界3位の格上である「TEAMイゴール・タナベ」のトミー矢野と対戦。入場時間よりも短いわずか18秒で一本負けを喫した。(取材・文=島田将斗)

 バルセロナ五輪金メダリストの吉田秀彦氏が師範を務める吉田道場で柔道を始め、高校は東京の名門・明治大学付属中野高校へ。その後、明治大に進学も柔道は続けず、青木や自分の見てきた格闘界のレジェンドの背中を追いかけMMAの世界に飛び込んだ。「4年間で自分がどこまでやれんのか」。東京・御茶ノ水にある大学に通いながら授業前後に週6回の練習。最後の1年の、最初に挑戦したのがこの『格闘代理戦争』だった。

 大学生とは思えないほど魂を燃やした春休みだった。

 ケツメイシの『GENKI DESUKA?』が会場にかかると「しゃ!」と自分を鼓舞するように吠え、入場する。ケージまでの距離は短い。1分間の花道、観客を見渡すことなく視線を下に、集中するようにケージインした。

 ケージのなかで青木監督から何かを耳打ちされ表情がより引き締まる。相手は柔術世界大会3位の実力。金網に入ってくるとグローブタッチを求められるが、まるで見えていないかのようにこれを拒否。優しい自分を殺した。

 ゴングが鳴る。「自分からアクションしなきゃ」と頭では考えていたが、いきなりタックルを受ける形になる。これを内股のような形で対処するが、結果的にこの動きが致命的な一手となった。グラウンドの展開で足を奪われ、膝十字の形に。開始から18秒、たまらずタップし試合は終わった。

 入場よりも短い試合時間。あまりに一瞬の出来事に座ったまま動けず顔の前で手を合わせる。そのまま無言のまま会場を去った。

 試合直後の控室は無音。息をするのも躊躇(ちゅうちょ)してしまうほど張りつめた空気だった。パイプ椅子に座ってうなだれている中谷はタオルを顔に当て、なにもない一点をただ見つめている。それでもインタビューを受けた。

 勢いそのままに持っていかれてしまった試合。「本当にああいうところです。僕の弱さが出た試合だった。ファーストコンタクトで先に行かれました」と声を震わせる。

 メンタルの弱さは放送開始当初からの課題だった。皇治のジムで行った元K-1の平山迅との立ち技スパーリングではローキックを受け痛そうな顔をし、下がり、自分から倒れてしまう。直後に青木監督から「格闘技に向かない」と叱責され大粒の涙を流していた。

「気持ちのトレーニングは大事。僕に一番必要なことだったんですけどね……」

「TEAM青木真也」【写真:徳原隆元】
「TEAM青木真也」【写真:徳原隆元】

格闘界のレジェンドらと昭和を彷彿とさせるトレーニング

 1回戦は完勝。準決勝前には自然いっぱいの千葉・九十九里にある“野獣”藤田和之の豪邸を訪れ、青木監督、“悪魔仮面”ケンドー・カシンの4人でトレーニング。最先端のMMAや技術の練習ではない。

 雑草や木が無造作に生えるなかにある200段の階段でダッシュ10本。足がプルプルと震えて倒れそうになると藤田から「顔作んなくていいよ、行けオラ!」と叱咤激励が飛ぶ。カシンとはまき割りで背筋力と耐久力を鍛える。

 そして最後は荒波押し寄せる九十九里浜へ。「張れ!」と藤田に追いつめられるが中谷はペチっと優しくビンタ。「こうやってやるんだよ」と重たいビンタを受ける。他の参戦選手とは違う泥臭い1か月を送ってきた。

「僕が15年間やってきた格闘技のなかで一番濃い時間でしたし、一番成長できる時間でした。僕に対してあんなに親身になって指導して怒ってくれる人ってあまりいないじゃないですか。僕の弱いところを伝えてくれて、一緒に成長しようって途中段階で……」

 試合前のグローブタッチを拒否したのはこの日が初めて。いつもなら必ずするがこの日は違った。「今から“俺”が闘う相手。弱い自分を出さないというか、優しい心は排除して格闘技はやらなきゃいけない。たぶん、あれは気持ちの表れですよね。『やるぞ』っていう」。

 瞳から大粒の涙が一粒、こぼれ落ちた。

「悔しいですよね……。結果で……青木さんに恩返ししたかったです」

 厳しく指導した青木監督はチームを組んでいた期間に「(中谷に)嫌われたかもしれない」と漏らしていた。中谷本人にとっては感謝しかない。

「一緒にいて心強いし、愛を感じます。今まで怒られてきていないわけではないんですけど、性格の弱さを指摘してもらえたのは初めて」

 今回の負けに「今後は分からない」とショックは隠せない。この4月から大学4年生、就職活動も始まっている。一生懸命やっても結果は必ずついてこない。一足先に社会の厳しさを学んだ中谷は『格闘代理戦争』で一皮むけたに違いない。

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