大谷翔平の声明発表で感じた「危機管理チーム」への不安 新通訳はなぜ「聞き返した」のか
ドジャース・大谷翔平が25日午後2時45分(日本時間26日午前6時45分)、元通訳・水原一平氏が違法賭博に関連して解雇された件に関して、声明を発表した。「僕自身、何かに賭けたり、スポーツイベントに賭けたり、頼んだこともないですし、送金を依頼したこともありません」と断言。「数日前まで、彼がそうしていたことも知りませんでした。結論から言うと、彼が(大谷の)口座からお金を盗んで、僕の周り、みんなにうそをついていた」などと語った。だが、会見の映像を見た元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、新通訳の仕草に違和感を覚えていた。
西脇亨輔弁護士が分析
ドジャース・大谷翔平が25日午後2時45分(日本時間26日午前6時45分)、元通訳・水原一平氏が違法賭博に関連して解雇された件に関して、声明を発表した。「僕自身、何かに賭けたり、スポーツイベントに賭けたり、頼んだこともないですし、送金を依頼したこともありません」と断言。「数日前まで、彼がそうしていたことも知りませんでした。結論から言うと、彼が(大谷の)口座からお金を盗んで、僕の周り、みんなにうそをついていた」などと語った。だが、会見の映像を見た元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、新通訳の仕草に違和感を覚えていた。
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声明発表の冒頭、新通訳と2人で着席した大谷選手が「まず、皆さん来ていただいてありがとうございます。僕も話したかったので、うれしく思っていますし」と口を開いた。それを見た私はふと違和感を覚えた。
隣の新通訳が、懸命にメモを取っていたからだ。
「あれ、話す内容の原稿を事前に通訳に渡していないのかな?」。それでも、「最初のあいさつだから、大谷選手が原稿なしで話しているのだろう」と思っていたら、途中で大谷選手が「今日、ここに詳細をまとめた、分かりやすく皆さんにお伝えするためにまとめたメモがありますので、そちらの方に従って何があったのかというのをまず、説明させていただきたいなと思います」と言い、手元のメモに目をやった。
私は「ここからは通訳とも話す内容が共有されているんだ」と安心しかけた。しかし、そうではなかった。
大谷選手がメモをもとに説明し始めてからもずっと、新通訳は大谷選手の発言を逐一その場でメモに取り、翻訳し始めたのだ。
そして、水原元通訳が「大谷選手が借金を肩代わりしてくれた」とESPNに話した当初のインタビューについて、大谷選手が「一平さんは取材依頼のことも僕にはもちろん、その時伝えていなかったです。代理人の人達に対しても、えー、僕はすでに彼(水原氏)と話して、彼と話してコミュニケーションを取っていたということをウソをついていました」と説明した時のことだった。
その冒頭を通訳した後、新通訳は途中で通訳を止め、日本語で大谷選手に聞き返した。
「代表に対して?」
これを聞いた大谷選手は、新通訳に対して、説明を始めた。
「僕もそうだし、代表、チームもそうですね。代理人の人達に対しても、僕とコミュニケーションを取っていたという風にウソをついていました」
新通訳は大谷選手の説明にうなずいてメモを取ると、残りの通訳を再開した。この場面ではっきりした。
大谷選手の日本語での声明発表を、新通訳はその場のアドリブで英訳している。日本語と英語の文章を事前に固め、大谷選手と通訳がそれぞれを読み上げるという方式をとっていない。通訳の手元には、英文のメモはなさそうだ。
そして、大谷選手が説明した声明の「メモ」にしても、日本の官公庁や企業の発表であるような『全て文章になっていて、ただ読み上げればいい』という形にはなっておらず、要点だけをまとめたメモのようにも思えた。大谷選手は日本の記者会見に多い「棒読み」ではなく、自分で言葉を探し、言い直す場面も多かったからだ。
それは一番肝心な、「大谷選手が違法賭博業者への送金に関わったのか」についての説明にも現れた。
「僕は彼の借金返済にも、もちろん同意、その時も同意していませんし、ブックメーカーに対して『彼に送金をしてくれ』と頼んだことも、許可したことももちろんないです」
しかし、この日本語自体は、送金を頼んだり許可した相手が「ブックメーカー」とも「彼(水原氏)」とも読めてしまうあいまいなもので、「彼に対してブックメーカーに送金してくれと頼んだことも」とした方が明確だったと思う。
そして、水原元通訳が大谷選手の貯金を窃盗したという核心部分の説明では、こう語っていた。
「彼はその時、私に、え、僕の口座を勝手に、僕の口座に勝手にアクセスして、ブックメーカーに送信、あー、送金していたということを僕に伝えました」
最も自信をもって否定すべきところで、言葉が乱れているようにも感じられてしまう。少なくともこれらの部分はコメントの文章を事前にきっちり固めた方が良かったのではないか。
ここで感じたのは、「大谷選手の危機管理チームはどうなっているのだろうか」という疑問だった。
この声明発表は、大谷選手が違法賭博に関与していたかどうかについて初めて公式に説明する場だ。捜査機関の捜査が行われている事案でもあり、この段階で公にどのような発言をするかは事前に慎重に準備を重ねる必要がある。また、米国メディアの注目も集めているのだから、英語でどう表現するかについても間違いがないよう事前にチェックする必要がある。
危機管理を巡る不思議な動き
日本風の「文書を棒読みする」というやり方が良いとは言わないが、私が大谷選手の危機管理チームだとしたら、現時点で説明できる内容を日本語と英語で事前に文章にまとめ、大谷選手の日本語と通訳の英語で交互に円滑に発表できるように段取りをしたと思う。
大谷選手側の危機管理を巡っては、これまでも不思議な動きが目立っていた。
水原元通訳が「大谷選手に借金を肩代わりしてもらった」と明かした最初のテレビインタビューについて、取材したESPNは「大谷選手のスポークスマンがアレンジした」と報じた。またESPNは「当初、大谷選手のスポークスマンはESPNに対し、大谷選手が水原氏のギャンブルの借金をカバーするために資金を送金したと語った」とも報じていた。
しかし、これらは全て撤回され、現在に至る迷走を生んでいる。今、大谷選手の周りには危機管理をきちんと仕切る人がいるのだろうか。この深刻な事態を前に、大谷選手は孤軍奮闘しているのだろうか。だとしたら、言葉が十分に通じない場所では危険すぎると思う。
信頼できる周囲の体制を固めることも含めて、慎重に丁寧にステップを踏んでいくことが、大谷選手にとって今本当に大切なのだと思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。