水原一平通訳の供述が二転三転の謎…ポイントは「賭博業者に送金したのは大谷選手か窃盗か」

朝一番に衝撃が走った。大リーグ・ドジャース大谷翔平の通訳・水原一平氏が解雇され、大谷の弁護士から「賭博業者に送金するために、大谷選手から大規模な窃盗をした」と告発されたと、複数の米メディアが報じた。このニュースを受け、元テレビ朝日の西脇亨輔弁護士が報道内容を分析し、今後、考えられる展開を解説した。

大谷翔平(左)と水原一平氏【写真:ロイター】
大谷翔平(左)と水原一平氏【写真:ロイター】

米メディア報道を西脇亨輔弁護士が分析

 朝一番に衝撃が走った。大リーグ・ドジャース大谷翔平の通訳・水原一平氏が解雇され、大谷の弁護士から「賭博業者に送金するために、大谷選手から大規模な窃盗をした」と告発されたと、複数の米メディアが報じた。このニュースを受け、元テレビ朝日の西脇亨輔弁護士が報道内容を分析し、今後、考えられる展開を解説した。

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 このニュースを聞いた直後、私が思ったのはこうした疑問だった。

「いくら仲がいい水原通訳でも、大谷選手の口座から勝手にお金を引き出して、盗めるのかな」

 第一報を報じた米メディアの記事を確認すると、驚くべき内容が書かれていた。水原氏は解雇報道の前と後で大きく言い分を変えたと報じられているのだ。この「変化」はある問題と密接に関係していた。それは「賭博業者に送金したのは、水原氏なのか、大谷選手なのか」という問題だ。

 今回の件については、米国からの報道を待つしかないが、米スポーツ専門テレビ局のESPNによると、米国連邦捜査当局が南カリフォルニアの賭博業者を捜査する中で取材したところ、大谷選手の口座から賭博業者関係者に電信送金されていたという。一方で、大谷選手自身は賭博を一切しておらず、水原氏が賭博をしていたらしいことが分かったとも報じられている。

 問題はその先だ。水原氏は19日、ESPNの90分間のインタビューに応じたという。そして、日本の一部メディアは、水原氏がESPNに語ったコメントから以下の部分を抜き出して紹介している。

「ショウヘイが賭博にまったく関与していなかったということをみんなに知ってもらいたい。これが違法であるとは知らなかったということを知ってほしい。私は苦労して教訓を学んだ。スポーツ賭博は2度とやりたくない」

 ただ、このコメントだけだと一体何があったと水原氏が説明しているのかよく分からない。実はESPNの報道にはこの前後に説明が書かれている。主な報道内容は以下の通りだ。

 大谷の広報担当が手配した19日のインタビューで、水原氏は「昨年、大谷にギャンブルでの借金を返済するよう求めた」と語っている。複数の関係筋によると、その借金は少なくとも450万ドル(約6億8000万円)に膨れ上がっていたという。

 水原氏は19日のESPNのインタビューにこう答えた。

「明らかに彼(大谷選手)はそのことに満足しておらず、2度とこのようなことをしないように私を助けると言った。彼は私のためにそれを返済することに決めました」

 しかし、20日の午後になって、水原氏はESPNに対し「大谷選手がギャンブルでの借金について何も知らず、ブックメーカーの店員に送金していない」と語り、以前の発言を撤回した。

 これはあくまでESPNの報道内容なのでインタビュー内容の確認はできないが、この記事によれば、水原氏は19日の段階では「大谷選手は、水原氏の賭博業者への借金を代わりに返してくれた」と答えていた。だが、20日になって「大谷選手は、賭博の借金の話など何も知らなかった」と説明が変わったということになる。この記事を米国の他メディアも引用している。

 その上で、水原氏が大谷選手の口座から勝手にお金を「盗まれた」という今回の報道の情報発信源は米国の警察や裁判所ではない。地元紙「ロサンゼルス・タイムズ」はこの件を「Shohei Ohtani’s attorneys accuse」、つまり「大谷翔平の弁護士が告発した」という書き出しで報じている。これはあくまで「大谷選手側の弁護士」による広報の内容だ。

 もしも、水原氏が大谷選手のお金を勝手に盗んで賭博業者に送金したのではなく、大谷選手が水原氏の借金を気の毒に思って賭博業者に送金してあげたと「仮定」すると、それは「友人の借金の肩代わり」という優しさの現れである反面、「警察の捜査を受けている賭博業者に、賭博に関連する現金を供給した」という見方もできてしまう。

 トップスポーツ選手は違法の疑いがある賭博業者とは一切関わり合いを持たない方が望ましいだろう。特に今回の業者はスポーツ関連賭博を扱っていたと報じられており、大谷選手側の弁護士の広報内容は大谷選手と賭博業者の関わりを徹底して否定するものになっている。

 水原氏が勝手に大谷選手のお金を「窃盗」し、勝手にギャンブルの借金返済に充てたのなら、大谷選手は何も関係がなく、水原氏は当初のインタビューで事実を述べていなかったことになる。だが、もしそうでないのなら大谷選手が何を知っていたのかが大きな焦点になる。

 メジャーリーグ開幕戦翌日の激震だが、衝撃に流されることなく、一つ一つのニュースが「誰のサイドから出たどのような内容のものか」を見極めながら推移を見守りたい。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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