「メダル首からかけていいですか」に五輪メダリストが抱いた複雑な感情「そこにリスペクトはあるか?」
2008年北京、12年ロンドンと柔道男子日本代表として五輪に2大会連続で出場したオリンピアンの平岡拓晃氏(39)。北京五輪の初戦負けでは、当時ネット全盛ではなかったが「日本の恥」など多くの中傷が届いた。そんな平岡が柔道以外の場でも活躍の場を広げるウルフ・アロンや高藤直寿への思いを語った。
求められる観客側のリテラシー「スポーツを見る人も責任を持つべき」
2008年北京、12年ロンドンと柔道男子日本代表として五輪に2大会連続で出場したオリンピアンの平岡拓晃氏(39)。北京五輪の初戦負けでは、当時ネット全盛ではなかったが「日本の恥」など多くの中傷が届いた。そんな平岡が柔道以外の場でも活躍の場を広げるウルフ・アロンや高藤直寿への思いを語った。(取材・文=島田将斗)
2021年に行われた東京五輪で金メダルを獲得した高藤とウルフ。コロナ禍の暗かった日本に多くの希望を与えた。大会後、ウルフのバラエティー番組出演は急増し、YouTubeチャンネルも特集されることが増えた。高藤も大人気ゲーム「フォートナイト」の配信やeスポーツの活動が注目されるようになった。
2人の活動は柔道の認知度上昇につながっているが、ネット上には批判の声も上がる。大会の結果が伴わなくなると「チャラチャラしてたからだ」などさらにその声は大きくなっていった。平岡は観客側のリテラシーについて口にした。
「スポーツを見る人も責任を持つべきだなって思っています。ただ盛り上がってるときにだけ興味を持って、その選手が勝たなくなったから全く反応しなくなるのはファンではなく野次馬に近い部分があるのではと感じます」
さらにこう続ける。
「分かりやすく言うとホームランを何本も打って活躍していた野球選手がケガで手術をしてしまうと、一気に世間の反応が悪くなってしまう。それって選手に対して失礼な部分があるんじゃないかと思ってしまいます」
情報の消費スピードが早い世の中になっている。見たもの、感じたもの、思ったことをすぐにネットに発信できる世界は便利になった一方で、本来人との交流で大事なリスペクトの気持ちが薄れつつある。平岡氏はオフラインでもそれを感じていた。
「この前柔道教室に行ったときに、メダルを持っていって子どもたちに触ってもらっていたんです。そのなかで大人の方に『メダルを首からかけていいですか』と言われ、僕はたくさん子どももいる中でこの方だけ特別にというわけにはいかないと思って断ったんですよ。でも、その言葉に他者の努力に対するリスペクトの気持ちはありますか? とも正直思ってしまいました。
アスリートが頑張っているのを自分の私生活の都合のいい部分に当てはめて、結果が出なくなったら批判する。こういう見方はスポーツ自体を悪くしているように思えるんですよね」
「周りの目を気にしすぎると本当にきつい。パフォーマンスも落ちちゃうし」と自身の現役生活を振り返る。野村忠宏を破って手にした北京五輪の切符。初戦負けでの世間の風当たりの強さは身をもって経験している。
「プロ選手・アスリートはすごくやりづらい。感覚的に五輪を目指したり前に出る子は減ったような気がするんです。金メダリストもSNSで叩かれるということが分かってしまっているからです。もちろんよくない行動であれば話は別ですが」
だからこそ高藤やウルフの活動を心から応援している。「崖っぷち」と言われていたウルフはパリ五輪代表に内定した。「ウルフとか高藤はタフだと思いますよ。この状況も批判されるのも受け入れて挑戦している。あの2人はすごいです。さすが金メダリストと思います」と手放しに称賛していた。
※高藤直寿の「高」の正式表記ははしごだか