セクシー女優・霜月るなの「証言」を検証 松本人志問題がカオス化している

松本人志と週刊文春の発行元・文藝春秋社との裁判開始を目前に控えた今月3日、松本氏の飲み会に参加したことがあるというセクシー女優・霜月るなが、週刊文春の報道内容を「デタラメ」だとXで投稿した。7日にも飲み会について新たに投稿し、文春記事に登場する女性の証言を「それも嘘です」と記した。こうした動きに著名人やメディアが反応しているが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「せめて週刊文春を読んでから発信しよう」と指摘した。

ダウンタウン・松本人志【写真:ENCOUNT編集部】
ダウンタウン・松本人志【写真:ENCOUNT編集部】

元テレビ朝日法務部長、西脇亨輔弁護士が指摘

 松本人志と週刊文春の発行元・文藝春秋社との裁判開始を目前に控えた今月3日、松本氏の飲み会に参加したことがあるというセクシー女優・霜月るなが、週刊文春の報道内容を「デタラメ」だとXで投稿した。7日にも飲み会について新たに投稿し、文春記事に登場する女性の証言を「それも嘘です」と記した。こうした動きに著名人やメディアが反応しているが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「せめて週刊文春を読んでから発信しよう」と指摘した。

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 霜月氏は今月3日にXを更新し、「松本人志さんの件について私はあんな嘘だらけの記事の内容に対して許せないから書きます。私は大阪のリッツカールトンでの飲み会に参加していました。記事に書いてあったギャルっぽいAV女優は私の事です」と明かした。その上で「携帯を没収なんで言われてもないし」「たむけんタイムなんてありませんでした」「あんなデタラメな記事を見たら私も黙ってられないし私は松本人志さんが大好きやし、これからも活躍してほしいし救いたいしこんな私の発言が少しでも意味があるなら良いなぁって思って今これを書きました」などとつづっていた。

 これに著名人も次々言及し、霜月氏の投稿は拡散。「文春記事の信頼性が大きく揺らいだ」と言い始める人も出た。

 しかし、この一連の「盛り上がり」には肝心の点が欠けている。それは前提となる「事実の確認」だ。この件を拡散する著名人の発信を見ると強く思う。

「せめて週刊文春を読んでから発信しよう」

 実は既に一部で指摘されている通り、霜月氏は週刊文春の記事を「デタラメ」としていながら、実はその投稿内容は文春記事と矛盾しておらず、逆に合致している。

 霜月氏が参加したのは、今回裁判になっている東京での飲み会の話ではなく、「リッツカールトン大阪」でのたむらけんじ氏主催の飲み会だった。週刊文春は2月15日号でこの飲み会に参加したJ子さんという女性の証言を報じたが、3月7日に新たに出された霜月氏の投稿も文春記事とは食い違っていなかった。

 霜月氏は新たな投稿でこう述べている。

「記事には、部屋飲みと知っていたら絶対に付いていかなかった。と書いてありましたが。それも嘘です。なぜなら、私は事前にJ子さんにリッツカールトンで飲み会やけど大丈夫かな?っと事前に聞いてます。それもJ子さんからOKもらってましたし」

 一方、週刊文春には、J子さんの証言としてこう書かれている。

「ザ・リッツ・カールトン大阪で飲むことは、当日LINEで送られてきましたが、私はホテル内のレストランで会食するものと思っていた。ところが、夜8時頃、エントランスでたむらさんに迎えられ、向かった先はスイートルーム。その場では『なぜ部屋なんですか』とは聞けない雰囲気だった」(J子さん)」

 文春記事にも「リッツカールトンで飲み会だとJ子さんが聞いていた」という霜月氏の主張はそのまま書かれていて、その上で「部屋の中」での飲み会と伝えていたかどうかを問題としている。それなのに霜月氏は「部屋の中」と伝えたかどうかという肝心な点を説明しないまま、この文春記事を「嘘」と決めつけている。

 実は同じようなことは3月3日の霜月氏の最初の投稿でも起きていた。この投稿で霜月氏は「飲み会は事前に松本さんとの飲み会と聞いていた」と主張したが、霜月氏が「聞いていた」としても、J子さんが「聞いていた」とは限らない。

 霜月氏は「飲み会で携帯電話の没収や利用禁止とは言われていない」と主張したが、記事にはスマホを触ってはいけない「雰囲気」だったとしか書かれておらず、携帯電話の「没収」「禁止」とは述べられていない。

 そして、霜月氏は飲み会で「たむけんタイム」(たむら氏がリードして、松本氏とも性的な雰囲気を高める時間帯のこと)はなかったと主張しているが、記事のJ子さんも「たむけんタイム」があったとは一言も証言していない(週刊文春で「たむけんタイム」を証言したのは霜月氏と関係ない別の飲み会の参加者)。

 そして、文春記事が報じているJ子さん証言のメインは「松本氏が来る飲み会とは聞かされずにホテルの部屋の中に誘い込まれ、その後、場が性的な雰囲気になった」という内容だ。この点については、霜月氏は何も否定していない。

 3月7日深夜には、霜月氏に呼応してたむら氏もJ子さんについて「どうして彼女はこんなにたくさんの嘘をついたのか?」とする長文の投稿を出した。しかし、たむら氏の投稿も、このメインの点は全く否定していない。

 2人とも、投稿で言及しているのはJ子さん証言の「メインではない部分」だけで、逆に「松本氏がいるホテルの部屋の中に誘い込まれた」というところまでは、J子さんの証言の「裏付け」になっている。

 それなのに「嘘だらけの記事」という言葉だけが独り歩きした。

 このことは週刊文春2月15日号を出してきて霜月氏の投稿と見比べれば、瞬時に分かる。

 ただ、霜月氏が飲み会の目撃者として声を上げることは批判すべきではない。それが実は文春記事と同じ事実を違う視点から話しているだけだったとしても、報道などの専門家ではない以上はとがめられることではないと思う。

 問題は、メディアや著名人による霜月氏の発信の持ち上げ方だ。

 文春記事と実は同じ内容を述べながら「記事はデタラメだ」と誤解している霜月氏の投稿を殊更に持ち上げて拡散することは、誤解を世間に広めミスリードにつながる。それを影響力ある専門家や著名人が行うと、フェイクニュースが生まれかねない。

 また、被害者と同じくらい霜月氏の証言も大きく報じるべきという意見もある。それはもっともな面もあるが、一方で注意もしなければならない。

 松本氏の問題の本質は、意に沿わない性的行為があったかどうか。そして、女性をモノのように扱う飲み会や上納システムがあったかどうかだ。

 性的行為があったかなどの「事実の有無」についてはどの関係者の証言も同じ重みを持つが、その先の、飲み会が「人をモノ扱い」する不快なものだったかどうか、性的行為が「意に反した」かどうかなどについては、被害者にしか語れない部分がある。10人中9人が楽しんだ飲み会でも、残る1人が「だまされた」と感じれば「不適切」だし、1人でも不本意な性的行為を受けていれば「犯罪」になり得る。

 その意味で被害者の声は、霜月氏など他の人と同じ重みではなく、特に丁寧に耳を傾けなければならないはずだ。

 影響力ある人物の公の発信には責任が伴う。だから、発信する前に事実関係を確認し、問題の本質を理解することは必須だと思う。今回であれば、せめて投稿と文春記事を読み比べるくらいはしておくべきだろう。その土台がないままイメージで議論を始めると、待っているのは混沌しかない。松本人志氏の問題がカオスとなることなく冷静に論じられることを願うばかりだ。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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