新型コロナ抑え込みに成功した台湾の現状 第二波もおさえ“収束した感”強まっている
国内旅行は宿泊予約も困難なほどみんな旅行を楽しんでいる
生活が平常に戻りつつある中、みんな次に考えるのは旅行だ。海外渡航は実質難しいというのが現状、そのためか今年は国内旅行が人気だ。これから夏休みということもあって観光スポットは週末はすでに予約がいっぱいだという。
台湾鉄道、高速鉄道(新幹線)も今は車内飲食が可能になったほか、一時は中止されていた自由席の販売も再開された。
地下鉄はまだマスク必須でチェックされる
防疫対策は次々と解除の方向に向かってはいるが、いくつかのポイントではしっかり継続もしている。
たとえば、公共の交通機関。MRT(地下鉄)ではマスクの着用が必須で、改札では係員が乗客を1人ずつチェックしている。バスは他人との間隔を1.5メートル取ることを条件にマスクなしでもかまわないが、現実的にこれは難しい。だから、やはりマスクは必要ということになる。屋台でもこれと同様に間隔1.5メートルが呼びかけられている。
このほか多くの会社、政府機関、銀行、店舗などでは入口で係員が入場者の体温測定をしたり、サーモグラフィーカメラを設置したり。中には記名を要求しているところもある。
こうした対策に対して台湾の人たちは概ね協力的で、不満をいう人はほとんど見かけない。その根底には17年前に流行したSARSで被害を受けた経験があるからかもしれない。防疫対策はみんなで守らなければならないという教訓が自然と体に染みついているように見える。
台湾内では収束した感、海外からの入境緩和には慎重
いろいろと台湾の現状を紹介してきたが、実際に生活していて感じることは、新型コロナウイルスは減速を通り越して「収束した感」が強くなっているということだ。
もっとも、これは台湾の中に限るということはだれもが認識している。今後はどのタイミングで海外との壁を取り除くのかということに関心は移っていくだろうが、台湾は中国やイタリアに比べ慎重だ。
6月22日、中央政府は感染状況が比較的落ち着いている一部の国を対象に、短期ビジネス客の入境を条件付きで緩和した。日本も感染が中~低リスクの第2グループで一応は対象国に入っているが、自己負担によるPCR検査の実施や7日間の隔離などハードルは低いとはいえない。
台湾がコロナ押さえ込みに成功した最大の原因は
今回台湾が新型コロナウイルスの抑え込みに成功した最大の原因は、いち早く2月6日から、中国からの入境者をシャットアウトしたことにあると思う(日本が中国全土からの入国を拒否したのは4月3日~)。背景には、1月11日に行われた台湾総統選挙で、中国に強硬姿勢をとる民進党の蔡英文の当選を阻止したい中国が、数か月前から中国人の台湾渡航を禁止したという政治的な意図があった。これらが結果として防疫効果を上げたといえる。
その後、日本も含めて感染が蔓延する国や地域からの入境を次々と遮断。元栓を閉めた状態で防疫対策を徹底してきた。
ただ、この状態をいつまでも続けるわけにはいかない。どこかで元栓を完全に開かなければいけない。それが現状ではいつになるのか、まったく予想がついていない。
日本では台湾に先立って一部の国からの入境をスタートさせた。そのリストの中に台湾は入っていない。残念でもあるが、慎重さを要することも多くの人が理解している。ただ、「早く日本に遊びに行きたい」。多くの台湾人こう思っているのも事実で、僕としては1日も早くその日が訪れてほしいと切に願っている。
□木下諄一(きのした・じゅんいち) 1961年2月25日、愛知県生まれ。1980年に初めて台湾訪問。その後、商社勤務を経て1989年、台湾移住。2011年に中国語で書いた小説「蒲公英之絮(タンポポの綿毛)」(印刻文化出版)で台北文学賞受賞。2013年に台湾最大発行部数を誇る新聞「自由時報」の連載エッセイをまとめた「随筆台湾日子(エッセイ・台湾の日々)」(木馬文化出版)、2017年に日本語で書いた小説「アリガト謝謝」(講談社)を出版。2020年秋、「自由時報」の連載エッセイを小説化した「記憶中的影子(記憶の中の影)」を出版予定。