“K-1の生みの親”石井館長「格闘業界は遅れてる」 選手の報酬にも言及「変えてあげないと」
K-1アドバイザーに就任した“K-1の生みの親”石井和義館長が取材陣を集め、緊急囲み記者会見を都内で行った。その際、石井館長は過去の経験を踏まえた上で、現状の分析と未来に向けての展望、K-1の今後の方向性や可能性などを熱弁した。会見後、石井館長を単独取材。他のエンタメに比べ、格闘技界は進んでいるのか否かを聞いた。
底辺層の拡大を目的に活動中の石井館長
K-1アドバイザーに就任した“K-1の生みの親”石井和義館長が取材陣を集め、緊急囲み記者会見を都内で行った。その際、石井館長は過去の経験を踏まえた上で、現状の分析と未来に向けての展望、K-1の今後の方向性や可能性などを熱弁した。会見後、石井館長を単独取材。他のエンタメに比べ、格闘技界は進んでいるのか否かを聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
最初に断っていくと、緊急囲み会見は90分に渡ったが、石井館長の格闘技愛あふれる言葉の羅列には驚きを隠せなかった。その流れで、石井館長には、あくまで娯楽という観点で、他のエンタメに比べ、格闘技界は進んでいるのか、それとも遅れているのか。その部分の見解を聞いた。
この問いに対し石井館長は、「エンタメ業界に比べて格闘業界はメチャメチャ遅れていますよね」との見解を示した。
石井館長は言う。
「イベントの件にしても、選手の管理にしても、あるいは選手への報酬にしてもそうだし。あくまでも選手はアマチュアの延長みたいなことで、自分たちで頑張って、自分たちでスポンサーをつけて、自分たちで生活しながら、自分たちで練習して行っているよね。そこはやっぱり変えてあげないとね。そうしないと、格闘技を頑張ろうっていう子たちがなかなか出てこないよね」と自論を展開した。
さらに石井館長は、他のスポーツ競技の世界とも比較しながら話を進める。
「子どもたちが小学校・中学校の時代から、才能のある子たちは野球とかサッカー、バレーとかバスケットボールに取られて行って、なかなか格闘技には来ないもんね。それを目指すためには、あくまでも(格闘技は)個人競技なので、そこのマーケットはある程度考えなくちゃいけない。そのなかで(格闘技を)やる子たちは命懸けでやっているから、その子たちが輝けるような、そういう舞台と仕組みを格闘技のプロの人たちはつくってあげないといけない」と語り、現在、底辺層の拡大を目的としてアマチュアを中心に活動中の石井館長流の分析をしてみせた。
生産性を持たせるために大会がある
「日本では武道は盛んだけど、武道はプロではないからね。あくまでも自分の内側で、自分自身と向き合って、自分を鍛えるものであって、自分が鍛えることで自分が社会について何ができるか。それを考えるのが武道の考え方でしょ。一方、闘いをマーケットにして生産性にあるものに変えていくっていうのがプロスポーツなので、その時に闘いの生産性は何か、ということを考えていく。物事に生産性がないものは、民主主義では悪だから、生産性は必要だよね」(石井館長)
闘いの生産性とはどういうことか。石井館長の話を続けよう。
「だから闘いにおける生産性とはなにかを考えて、そこに付随するもの。見る者がいればやる者もいる。プロがいればアマチュアがいる。ファンがいればグッズが売れる。だけど、そこにマーケットがなければ、他の企業が入ってこないでしょう。企業が入ってこなければ、そこにお金は集まらないよね。例えば、キックパンツひとつ買ったら、それが何年も持つような感じじゃあ、意味がないでしょう。ウェア自体を考えなくちゃいけない。グローブなんかのギアもそうだし。空手なんか道着と帯があれば10年くらいはもつからね。『エイヤー!』なんて言ってさ。しかも、ちょっと古いほうがカッコいい、なんてなったら、どこにお金(生産性)が発生するのって感じでしょう。そうすると、やっぱり世界が広がらないよねえ」
では、生産性を持たせるためにどうするか。石井館長は、「そのために大会があり、試合が実施される」と説く。
「だからジュニアの大会がたくさんあって、そこには出場料が発生して、広告を取ったりしながらマーケットが生まれていく。だけどエンタメとかそういう世界は、最初からマーケットがある。メディアがあって、そこに露出をして、芸があってショーをして、映画に出たりしていいイメージをつくる。話題作に出れば、その話題作のイメージがその人のイメージになって、企業が起用してスポンサーになっていく。あるいはYouTubeで自分たちも稼げたりする。そうやってマーケットをマネジメントする側と選手を作る側がちゃんと考えてやっているのがエンタメ業界だよね。格闘技界は個人個人、みんなバラバラだから、そこをトータル的にプロデュースできる人たちがいるよね」
石井館長流「徳分スタイル」
日本の芸能界だと大きな芸能プロダクションが存在するが、最近はそこから独立して個人会社を作るパターンも増えた。格闘技の場合は、大きなプロダクションはあったほうがよいのか。
「そこは難しいよね。ただ、大きな舞台は必要だよね。一番いいのはマーケットはあって、そこに舞台は個々にあると。そこで選手を抱えているマネジメント会社があって、そこには弁護士がいて、公認会計士がいて。ある程度のスポンサーがいて。その人たちが選手を抱えてマネジメントしていく。それをジム単位でやっていたわけだけど、そうじゃなくて、ジムはあくまでレッスンを受けるところ。その代わり、レッスンに関してはシビアにお金を取るよ、みたいな感じかな。もちろん、ジム側がそういう体制をつくれるのであれば、ジム側がそれをやってもいいんだけど、そうしないのであれば、そういう人たち(マネジメント会社)が選手を抱えて、営業のタイアップとして、各プロダクションに営業をお願いしていく。そうやってちゃんとカタチをつくってあげないと、選手が営業してマネジメントして自分で動いている状況だと、なかなか伸びないよね。だけど芸能界だと、旧ジャニーズ事務所や吉本だとそれができたわけよ」(石井館長)
「その代わり、旧ジャニーズ事務所だって、すごくいろいろなことにお金を投資してきたわけだからね。だから何百億円という土台のなかに旧ジャニーズはあったわけだから。タレントたちが一人で頑張ったわけじゃないのよ。いや、もちろんタレントたちも頑張ったんだろうけど、それ以外に、タレントを支えるマネジャーがいて、営業する人がいて、そのなかにはいろんなお付き合いがあって、いろんなことをやりながら今まで成り立ってきたのが、SNSが流行ってきたら、みんな『個人が個人が…』になっちゃっているので、そこは皆さん、勘違いをしちゃいけないところだよね」
石井館長の真意は、仮に突出した誰かがいたとしても、それはその一人の力ではなく、周囲の支えや謙虚さがあってこそ、初めてたどり着くことができる領域なのだ、という話だと思う。それは人としての礼節や当たり前の感謝があってこそ、という根本的な“姿勢”の話になる。そんな石井館長がアドバイザーとはいえ、正式に帰ってきたK-1。今後は今まで以上にK-1から目が離せない状況が続くとみた。
なお、石井館長に対し、最近、全日本プロレスの三冠ヘビー級王者・中嶋勝彦が「闘魂スタイル」を掲げたことで、アントニオ猪木関連の肖像権を管理する猪木元気工場(IGF)から「警告書」を送られ、騒動になっている。このことを伝えると、「そんなことになっているんだね。僕は“徳分スタイル”だけどなー」と答えたことも付け加えておく。