「生き残るために蹴落とさないと」 競争社会が如実に表れる韓国オーディション番組、日本との違いとは

個人がアイドルのお祝い広告や応援広告を出す韓国発祥の文化「センイル広告」。近年では、日本でもはやりの兆しを見せている。11人組のME:I(ミーアイ)を生み出したガールズグループオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS(以下、日プ女子)』も影響し、日プ女子の練習生に向けたセンイル広告も出されている。文字通り、韓国文化が伝わった形だ。今回、渡韓経験が豊富で韓国事務所や韓国企業とやり取りがあり、センイル広告を手掛けるセンイルJAPAN(運営会社:株式会社IW)の代表・増田雅人さんと、スタッフで韓国オーディション番組に詳しい宮原日奈さんに、韓国エンタメの特徴と強みを聞いた。

韓国発祥の文化「センイル広告」が日本ではやり始めている【写真提供:センイルJAPAN】
韓国発祥の文化「センイル広告」が日本ではやり始めている【写真提供:センイルJAPAN】

韓国エンタメの特徴と強み

 個人がアイドルのお祝い広告や応援広告を出す韓国発祥の文化「センイル広告」。近年では、日本でもはやりの兆しを見せている。11人組のME:I(ミーアイ)を生み出したガールズグループオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS(以下、日プ女子)』も影響し、日プ女子の練習生に向けたセンイル広告も出されている。文字通り、韓国文化が伝わった形だ。

 今回、渡韓経験が豊富で韓国事務所や韓国企業とやり取りがあり、センイル広告を手掛けるセンイルJAPAN(運営会社:株式会社IW)の代表・増田雅人さんと、スタッフで韓国オーディション番組に詳しい宮原日奈さんに、韓国エンタメの特徴と強みを聞いた。(取材・構成=コティマム)

――2023年10月から12月まで放送された『日プ女子』は、もともと韓国のオーディション番組発祥です。デビューするために練習生が数々の課題に挑みます。“まばたき対決”で順位の席を奪いあったり、チームメンバーの引き抜きで状況が逆転したりと、残酷で厳しい印象がありました。韓国の番組では当たり前なのでしょうか。

宮原さん「日プ女子は、韓国のオーディション番組に比べるとすごく優しいです」

――そうなのですか。厳しい印象を受けましたが。

宮原さん「日プ女子の初回では、練習生による『まばたき対決』で1位の席を代わる場面がありましたが、韓国のオーディションでは、上の順位の練習生が『そこに座りたい』『その曲・そのパートをしたい』と言った場合に、下の順位の子を蹴落とすのが定番です。もちろん、番組によって違いはありますが、下の順位の子も『下だから仕方ないか』と納得する。『やりたいことをやりたいなら、上に上がってこい』という感じです」

増田さん「韓国の競争社会が如実に表れています」

宮原さん「それに日プ女子はトレーナー陣もすごく優しい。韓国のオーディション番組では、練習不足や経験不足の練習生がかなり厳しく指摘や注意される印象です。トレーナーから『あれ、いたの?』『君がこのステージをダメにしてる』と言われることもあります。『経験がない、歴が浅いかどうか』は一切関係なく、『チームなんだから、遅れを取っている子や悪目立ちする子は100倍練習しなさい』『チームメイトでアドバイスして上達させなさい』というスタンスです。日プ女子は優しく感じました(笑)」

――日プ女子の練習生はK-POPの楽曲やダンスをほぼ知っていて、韓国語が話せる子も多い印象です。一方で、日本の楽曲を知らない練習生も多く、韓国エンタメの影響が大きくなっていると感じました。

増田さん「センイル広告をやっていても、問い合わせや申し込みはK-POPアーティストへのものが8割です。理由は、韓国アイドルやアーティストのクオリティーの高さだと思います。ダンスひとつをとっても、キレやそろい具合など、圧倒的なパフォーマンスを見せますから」

人生を懸けるアイドルと「ファンの応援が届きやすい」ビジネスモデル

――クオリティーの高さを生み出すために、韓国エンタメ業界で取り組んでいることとは。

増田さん「これは歴史や政策的な面もあります。僕は1997年のアジア通貨危機が契機になっていると考えています。韓国は経済危機に陥った際、『国内だけ見てはダメだ』とあらため、インターネットを導入して英語などの語学教育を強化しました。さらに、K-POPや韓流ドラマなどを含めた韓国エンタメに力を入れる『文化産業振興基本法』を1999年に打ち出し、2003年までの4年間に5,000億ウォン(約498億円)を投資しています。『韓国のエンタメをコンテンツとして世界に売っていく(収入源とする)こと』を、国として推しています。世界で通用するためにはクオリティーが高くないといけないので、練習生たちの教育も熱心です」

――力の入れ方がすごいですね。

増田さん「ハングリー精神がありますよね。企業分析を専門とする『韓国CXO研究所』が発表した『2019年、大企業集団64グループが韓国経済に及ぼす影響力の分析』によると、サムスン電子などを含む大企業64社の系列企業2284社の総売上高は、韓国の名目GDPの84.3%。しかし、その64グループに雇用されている全職員数は158万人で、これは全体の雇用保険加入者数の11.4%に留まっています。つまり、国の84%の売上が国民の11%の人たちに集中しているということです。ですので、貧富の差が激しい。受験戦争が激しいのもその11%に入らないといけないからです」

――過酷な世界です。

増田さん「いい大学に行くために、勉強をめちゃくちゃしないといけない。だから、他の人を構っていられない。『自分が生き残るために蹴落とさないといけない』という競争精神が実際にあるんです。先ほどのオーディション番組にも、社会の構図が出ていますよね。でも、競争社会だからこそトップのレベルが高く、世界で通用するのだと思います」

宮原さん「韓国のアイドルは人生を懸けています。芸能(芸術)高校に通っている練習生は学校の朝礼だけ出るか、早退して事務所で深夜0時まで練習して、朝6時に起きて学校に行く。数時間、学校に行っている間も他の練習生が練習していると不安になり、中退する子も多いです。それほどに人生を懸けています」

――すさまじいです。

宮原さん「事務所では『月末評価』というのがあって、練習生は月に1回、歌とダンスが評価され、そこで落とされることもあります。日プ女子の練習生でME:Iのメンバーに選ばれた山本すずさんは、『韓国の事務所を切られた身』と言っていましたが、『月末評価』で『見込みがない』と捨てられることはよくあります」

――落とされた練習生はどうなるのですか。

宮原さん「別の事務所のオーディションを受けて、そこでまた練習生になれるかどうか。有名な事務所からデビューしている子でも、2~3個事務所をたらい回しにされてやっとデビューできたという子もいる。日本でK-POPや韓国のアイドルが人気なのは、韓国アイドルの本気度や人生を懸けているところが、魅力的に見えるからかもしれません。日本人が韓国でアイドルを目指すのも、その熱量に憧れるんだと思います」

――本気度にファンも魅了されるのかもしれませんね。

増田さん「ビジネスモデルの面でも、韓国のエンタメ業界はシステマチックです。韓国の音楽番組はアルバムの売り上げ、音源の他にYouTube再生数、ファン投票、放送得点、音源のストリーミング数などによって、各音楽番組で1位に選ばれるかどうかが決まります」

宮原さん「『音源チャート』と『音盤チャート』はスコアの割合が大きく、K-POPアイドルが音楽番組で1位を取るためには、ここの成績を伸ばす必要があります。“1位になる=ファンの頑張りの証し”なので、アイドル自身も音楽番組で1位になることができるかドキドキしています」

――売り上げや音源チャートなどの結果が番組に影響するのですね。

増田さん「韓国では新曲を発売することを『カムバック』と言いますが、カムバックではリリース前にティザー広告を出して予告し、『カムバックします』と大々的にプロモーションをかけていきます」

宮原さん「アルバムの売り上げを上げるために、アイドルと映像通話ができる『ヨントン』などのリリースイベントも行います」

増田さん「またファンは、『スミン』と言って推しの楽曲のストリーミング再生をたくさんして、チャート内で自分の推しの順位を上げます」

宮原さん「音源成績はスコアの割合の35~60%を占めているため、ファンのスミンがとても重要です。スミンをして順位を上げると、必然的にその曲を目にする人が増えます。アルバムをたくさん買って、売り上げ枚数で記録を作ればニュースなどにも取り上げられます。『推しに喜んで欲しい』というファンの努力が、『推しが注目されること』につながるんです」

増田さん「『事務所が推したい人の露出だけが増える』のではなくて、『ファンが推していけば、自分の推しの露出が増える可能性がある』という仕組みになっています」

――ファンの活動や思いが届きやすいと。

増田さん「応援や感謝をセンイル広告で伝えたり、『推せば貢献できる』という仕組みが整っていたりと、『ファンの活動が推しの活躍につながりやすい』ので、韓国エンタメに魅了される人が多いのかもしれません」

□センイルJAPAN(運営会社:株式会社IW) 代表・増田雅人氏。学生時代の2015年に個人事業主として開業し、18年に法人化。訪日外国人観光客向けメディア事業、海外インフルエンサーマッチング事業などを展開。同年12月より「センイルJAPAN」のサービス名でセンイル・応援広告代理事業をスタート。22年からは、ファンが広告資金を集めることがクラウドファンディング「センイルクラファン」も展開している。所在地・福岡市。

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