斉藤由貴、異端の名俳優が今も抱く違和感 芸能生活40年「死ぬまで演技者でいたい」

土屋太鳳主演の映画『マッチング』(内田英治監督、2月23日公開)に出演した俳優・歌手の斉藤由貴(57)。1984年に芸能界デビューし、今年は40周年。映画での原点について語った。

1985年に『雪の断章 -情熱-』で映画デビューした斉藤由貴【写真:冨田味我】
1985年に『雪の断章 -情熱-』で映画デビューした斉藤由貴【写真:冨田味我】

映画『マッチング』ではナゾめいたキーマンを演じる

 土屋太鳳主演の映画『マッチング』(内田英治監督、2月23日公開)に出演した俳優・歌手の斉藤由貴(57)。1984年に芸能界デビューし、今年は40周年。映画での原点について語った。(取材・文=平辻哲也)

 ウエディングプランナーのヒロイン輪花(土屋)がマッチングアプリで結婚した新婚カップルに降りかかる事件に巻き込まれる『マッチング』では、ナゾめいたキーマンを演じた斉藤。映画デビューは、故・相米慎二監督(2001年死去)の『雪の断章 -情熱-』(1985年)になる。

 同作は二千万円テレビ懸賞小説佳作入選作が原作で、2人の男に育てられた孤児のヒロイン・伊織(斉藤)が殺人事件に巻き込まれながらも大人になる姿を描く。

「相当苦しかったですね。デビュー作の映画だったので、私にしては珍しくセリフもちゃんと覚えて、入念に準備していったつもりなんです。だけど、あまりにもリハーサルをしすぎて、どこかの瞬間からセリフが出てこなくなるんですよね。撮影中はずっと胃炎を患っている感じで、お腹も痛いし、ずっとドキドキしていました。10円ハゲみたいな感じにもなってしまって、相当追い詰められました。そういう体験は後にも先にも、あの現場だけだったと思います」

 映画主演の前には、『卒業』での歌手デビュー、『スケバン刑事』での連続ドラマ初主演の経験があったが、映画の現場は勝手が違ったのだという。相米監督はワンシーンワンカットの技法を取り、入念なリハーサル、時には演者への厳しい演出をすることでも有名だ。昭和の時代の映画作りだった。

「テレビと映画の違いも感じました。その頃は、映画が銀幕と呼ばれていた時代から、映画の世界で働いてきた技術さん、御大と呼ばれるようなベテランの方が山のようにいて、『オレたちは“本編”(映画)を作っているんだ』という気概やプライドを持っていらっしゃいました。相米さんという方も特殊な方でした」

 一番印象に残っているのは、最後に撮り直した海岸のシーンだという。ヒロインは、雪の降るテトラポットの上を歩き、恩人の大介(世良公則)の自殺を思いとどまらせようとする。

「北海道が舞台の作品ですが、撮影は神奈川県内の海岸でやったんです。雪が降る中の大変な撮影でした。その撮影が終わってからが最悪で、相米さんから『お前は時に芝居に余計なものばかりくっつける。頭でっかちで、ダメなところもいっぱいあるけれど、女優としてはいいから、何年か何十年かしたら、もう一回、一緒にやってもいいな』って。半分はほめてくれたんでしょうけど、正直、『勘弁してくれ。二度とやるもんか』と思いました(笑)。ほめてもらって、『迷惑だ』と思ったのは後にも先にも一度きりですよ」

 その13年後、相米監督からは2度目の出演オファーを受ける。『あ、春』(98年)で、家庭に恵まれ、仕事も順調だったサラリーマンの主人公にところに、幼い頃、死別したはずの父親(山崎努)が突然、現れるというホームコメディーで、主演の佐藤浩市の妻役だった。

「そのときは、『やってやるぜ』って思いましたよ。やらないわけにはいかない、と。でも、衣装合わせや本読みでも、目を合わさないようにしていましたね。向こう(相米氏)も、こっちの気持ちは分かっていて、ニヤニヤしながら、『こいつ、来たな』みたいな顔をしているんです。面白かったですね」

『あ、春』は斉藤の好演もあって、キネマ旬報ベストテンのベスト1位に選ばれた。その後も、映画、ドラマ、舞台で俳優、歌手としても活動し、芸能生活は40年になる。

「人生こんなものかな、というのが感想ですね。『あっという間』と答えるのも『長かった』というのもすごくベタ。ちょっとひねった言い方をすると、こういう言い方になってしまうんです。でも、面白いのは確かです。面白いから、いいんじゃないという感覚です」

私生活では3人の子どもの母・斉藤由貴だ【写真:冨田味我】
私生活では3人の子どもの母・斉藤由貴だ【写真:冨田味我】

 私生活では3人の子どもの母でもある。長女は既に独立し、長男、次女も二十歳を迎えて、家を出ていく日も近い。

 今後の人生について聞くと、「一つはっきりしているのは死ぬまで演技者でいたいなとは思っています。仕事をする人間としても演技者でいたいし、自分自身としても演技者として全うしていきたい。自分自身としては『やむにやまれぬ』という感覚に近いのですが」と答える。

 斉藤が「斉藤由貴」を演じていく。それは、どういう意味なのか。

「私は子どもの頃から、ここは居場所ではないという違和感に悩み、苦しんできました。家にいても、学校にいても、そんな感じがあったんです。これは思い込みなのか、大人になれば、改善されるのかな、と思ってきたのですが、結局、そのままずっと年を取ってきている。だから悪あがきをしないで、どこかで感覚を放棄するしかないかと思っています。それは『ちょっとやったれ』って感じに近いんです」

 所属事務所は「朗らかに清く正しく美しく」がモットーの東宝芸能。その中で斉藤は異色かもしれない。

「うちの事務所にいるのは、沢口靖子さん、長澤まさみさんといった正統派の俳優さんばかりで、私は異端という感覚があるんです。でも、それはしかたない。そういうものだと思うしかないんです」。その異端さが斉藤の魅力になっている。

□斉藤由貴(さいとう・ゆき)1966年9月10日、神奈川県生まれ。84年、『少年マガジン』(講談社)第3回ミスマガジンでグランプリに選ばれる。85年2月、『卒業』で歌手デビュー。4月『スケバン刑事』(CX)で連続ドラマ初主演。12月公開『雪の断章 -情熱-』で映画初主演。各映画賞の新人賞を受賞した。86年連続テレビ小説『はね駒』(NHK)のヒロインを演じ、87年『レ・ミゼラブル』で初舞台を踏む。以降女優、歌手として幅広く活躍。2006年、宮藤官九郎脚本のドラマ『吾輩は主婦である』(TBS)の主演で改めて注目。17年、『三度目の殺人』でブルーリボン賞助演女優賞、20年に『最初の晩餐』で第34回高崎映画祭 最優秀助演女優賞を受賞した。

スタイリスト:石田 純子(オフィス・ドゥーエ)
【衣装】
ピアス/ベルシオラ 0800-500-5000

この記事に戻るトップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください