JRを頼らざるを得ない特殊事情…物議の京葉線ダイヤ改正 「東京との距離感がさらに伸びる」地方の切実本音
昨年末に始まった、JR京葉線をめぐるJR東日本と沿線の攻防は、JRが今春の新ダイヤで廃止予定の一部列車を存続させるという異例の展開になっている。それでもまだ、地元や沿線住民の懸念は収まっていないようだ。物議を醸しているダイヤ改正。なぜいち路線のダイヤの変更がここまでこじれているのか、千葉特有の事情も見え隠れする。
「首都圏一涼しい町」も移住施策に打撃
昨年末に始まった、JR京葉線をめぐるJR東日本と沿線の攻防は、JRが今春の新ダイヤで廃止予定の一部列車を存続させるという異例の展開になっている。それでもまだ、地元や沿線住民の懸念は収まっていないようだ。物議を醸しているダイヤ改正。なぜいち路線のダイヤの変更がここまでこじれているのか、千葉特有の事情も見え隠れする。(取材・文=大宮高史)
昨年12月に発表された京葉線のダイヤ案は、速達列車の快速・通勤快速の本数を大幅に削減し、快速は平日・土休日とも昼間のみの運転とするもの。すると千葉県・千葉市ほか自治体の首長が猛反発。JR東日本は各駅停車に置きかえる予定だった列車のうち、君津と上総一ノ宮を始発とする朝6時台の快速2本を存続させると発表した。
京葉線は通常、東京駅から千葉市の蘇我駅までの間を列車が行き来している。京葉線の正式な区間もここまでだが、一部の列車が蘇我から外房線・内房線に直通して長距離運転を行う。JR東日本が廃止対象にした快速と通勤快速もまさにこの直通列車が含まれていた。
京葉線内の東京・八丁堀・新木場・蘇我にしか停車せず最も停車駅の少ない通勤快速。朝の上り2本は外房線勝浦、内房線上総湊を始発とする。夕ラッシュ時の下り列車は勝浦・成東行きが1本と、君津行きが1本。ラッシュ時は快速も君津や上総一ノ宮までの列車が増える。成東・上総一ノ宮・勝浦は太平洋側に面し、内房線直通の最長列車である上総湊行きは南房総エリアの富津市まで走る。京葉線のダイヤ改定は、本来の沿線外のこれらの自治体にまで影響を及ぼしてしまった。おかげで千葉市と千葉県のみならず、一宮町・大網市・君津市・木更津市などもJR東日本に列車の存続を求めるに至った。近年「首都圏で一番涼しい町」として話題になった外房の勝浦市も、南房総の自治体とともにダイヤの見直しを求めている。
「快速のほか、今春のダイヤでは特急の本数も削減されており、直通列車の本数を維持していただくよう、夷隅(いすみ)地域の自治体とともにJR東日本千葉支社へ要望を申し入れていました」と勝浦市は取材に答えた。
新ダイヤでは外房線の特急「わかしお」は昼間の1往復を削減し1往復を臨時化、通勤快速の時間帯に上り1本を新設。内房線の「さざなみ」は夜の下り1本が削減される。普通列車でも上総一ノ宮・君津への直通自体は残るものの、各駅停車となって所要時間は15~20分ほど伸びる。
勝浦を発着する通勤快速は朝夕の1本のみではあるが、勝浦市の担当者は東京との心理的な距離感が遠のくことに懸念を示した。「東京への直通列車は、移住・定住施策のためには必要条件でもあります。現状でも勝浦から(東京駅まで)特急でも1時間半ほどかかりますが、東京との距離感がさらに伸びることは、当市に限らない影響があります」と話している。
千葉県内でも房総エリアの各自治体は、豊かな自然をPRして東京からの移住政策に力を入れていたところだった。勝浦市に隣接し、外房線大原駅がターミナルになるいすみ市は、宝島社の書籍『住みたい田舎ベストランキング』で首都圏1位を獲得。そのほかの自治体もこぞって支援金や現役世代向けの施策でアピールをしていて、移住人口の取り合いの様相すら呈している。
過疎化に悩む房総半島にとって、鉄道で東京に1本でアクセスできることは「生命線」でもあった。新ダイヤでも上総一ノ宮や君津への直通自体は残るものの、各駅停車となって所要時間は15~20分ほど伸びる。こうなると、現役世代の人口を増やしたい自治体の反発は無理からぬことかもしれない。内房であれば東京湾アクアラインを経由するバスも充実しているが、外房エリアでは鉄道のウエートは今も大きい。
JR東日本が示した「妥協案」でもラッシュのピークタイムの快速は廃止されたまま。本来の京葉線エリアになる幕張メッセの民間事業者からも集客を懸念した異論が出始めた。
千葉県内の鉄道路線図を見ても、大手私鉄の京成電鉄は成田空港方面が主力路線で、千葉市や房総エリアへのアクセスにはJRを頼らざるを得ない。JR側も合理的な視点で列車の統合を図ったとはいえ、地元の事情をここまで理解して施策を決めていたか。地域との信頼関係もこれからは問われていきそうだ。