2012年の政界引退後も一般財団東アジア共同体研究所、世界友愛フォーラムの理事長を務め、東アジアの発展と平和を願って、活動を続けている鳩山友紀夫氏（76）。鳩山氏は公開中のドキュメンタリー映画『沖縄狂想曲』（公開中）でリベラルな考えを披露している。そんな鳩山氏が、保守本流の田中角栄氏（1993年死去）との秘話を語った。（取材・文＝平辻哲也）

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　祖父に第52～54代内閣総理大臣の鳩山一郎、父に外務大臣を務めた鳩山威一郎を持つ政治家一家で育った鳩山氏。東京大学工学部卒業、スタンフォード大学工学部博士課程修了後は理系の研究者として活躍。先に政治家となった鳩山邦夫氏から10年遅れること84年に政治家の道に進んだ。

　友愛、世界平和を強く訴え、その主張はリベラルだが、政治家のスタートは自民党公認・田中派（注：初当選時は竹下派）だった。新人の時から自民党政治には違和感を持っていたのだという。

「みんな大臣病（国務大臣の座に執着すること）にかかっていました。国民のための政治じゃなくて、自分の立身出世のために政治家になる先輩を見て、非常にがっかりしました。弟は政治家として下積みをしていましたが、私は研究者の立場から入っていったので、非常に強い違和感があって、『これでいいのかよ』との思いが強かったですね。だから、思いを共有してくれた武村正義さんと自民党を飛び出して新党さきがけを作り、本当に国民の方向を向いた政治を取り戻さないといけないと思ったんです」

　ただ、田中角栄氏という人物の大きさには一目で魅了された。

「田中先生には一度だけお会いしました。私は福田派の先生の地盤を継いだので、私も福田派から立候補するんだろうと思っていたのですが、福田（赳夫）先生が私にお会いしようとされなかったんです。（北海道旧4区）は争っている5人のうち3人が自民党で、他にも福田派がいたので、無理だと思ったんでしょう。それで、弟が田中派だったので、お会いすることになったんです」

　面会の場は、昭和政治の舞台となった田中角栄邸、通称・目白御殿。今年1月8日には火の不始末で全焼したことがニュースになった場所だ。邸宅には10人が面会を待っている中、優先的に対面することができたのだという

「普通、面会時間は2、3分しかないと伺いましたが、40分も時間をいただくことができ、申し訳ないなと思いました。弟からは『兄貴は特別だぞ』と言われました。それだけ、弟も大事にされていたのだと思います。田中先生は『派閥なんか気にするな。私はそんなことは気にしないで応援してやるから。（田中氏の地盤の）越後から北海道に移住した人達が多い。2割いるんだから、2割を取ったら当選だ』と言われたんです」

　実際、鳩山氏は2位の得票数で当選を果たしている。田中氏は1985年5月に脳梗塞で倒れ、入院し、政治活動ができなくなってしまう。

「私が政治家になったのは、田中先生のおかげだと思っています。人を虜にする魅力を持った方で、言葉に説得力があります。枕元にはいつも地図を置いて、どこで何が起きているのかを心配しながら、過ごされていたそうで、そうやって、『日本列島改造論』（1972年発表）も考えたんだと思います。スケールが違う人でした」

　人物の大きさでは鳩山氏も負けていない。ドキュメンタリー映画『沖縄狂想曲』の太田隆文監督（63）も「懐の深い方だなと思っています。映画での取材では1時間にわたってお話を聞かせていただいて、映画の舞台挨拶にもご登壇いただけた」と話す。

　鳩山氏には批判する人も少なくないが、そういう相手に対しても「批判的な取材をしてくださる方」といった言い方をする。その理由を聞くと、「全く無視で無関心よりも、心より批判してくださっているなら、存在感があるじゃないですか」と笑う。

　思い切って、「宇宙人と言われることについて、自身はどう受け止めているのか」と質問すると、「自分は日本人であり、地球人、宇宙人でもあります。みなさんは皮肉と嫌味で、私が現実離れしている、地に足がついていないという意味があるんでしょうけれども、『私は宇宙人です。だから、宇宙から、この地球を心配しているんだ』という態度でいれば、別に悪くないな、と。妻（元宝塚女優・幸さん）ともども宇宙人です」と返ってきた。

　そんな鳩山氏は、今の政治をどのように見ているのか。

「自民党がごらんのような状況にもかかわらず、野党がバラバラ。これで国民の期待を集められるのか、いい方向にリードできるのか。そこは大変心配しています。バイデン（81歳）よりも若いのですが、この年ですから、政治家になるかは別にして、もっと共感を呼ぶ政治に戻せないかという思いを持っています」

　今は東アジア共同体研究所、公益財団友愛の理事長を務めている。「リベラルな方向でこの国をよくするためのメッセージを発信しています。友愛という精神に基づいて、東アジアを運命共同体にしていくため、自分としての役割がないかと思っています」。政界復帰は考えていないそうで、個人として活動していくつもりのようだ。

□鳩山友紀夫（由紀夫）（はとやま・ゆきお）1947年2月11日生まれ。元内閣総理大臣、（一財）東アジア共同体研究所理事長。東京大学工学部卒業、スタンフォード大学工学部博士課程修了。1986年初当選。93年細川内閣で官房副長官を務める。2009年、民主党代表、第93代内閣総理大臣に就任。10年総理大臣を辞任。氏名表記を鳩山由紀夫から鳩山友紀夫に変更。著書に『脱 大日本主義』（平凡社）などがある。