「悼む心を翻弄」…『セクシー田中さん』原作者の死去、日テレが新コメントも消えない“保身”旧コメント

日本テレビは30日、連続ドラマ『セクシー田中さん』(2023年10月期放送)の原作者・芦原妃名子さん(享年50)が亡くなったことを受け、同社公式サイトを更新。改めてコメントを発表した。前日29日、番組サイトで発信した最初のコメントは、局としての正当性を主張する内容と受け取られて批判の声も上がっていた。新たなコメントはトップページで哀悼の意を表した上で、「日本テレビとして、大変重く受け止めております」などとしている。しかし、最初の“保身”を感じるコメントは撤回されていないことが分かった。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、新旧2つコメントの併存に疑問を呈し、「悲劇を悼む心を翻弄するもの」と指摘した。

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】
西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

元テレ朝法務部長・西脇亨輔弁護士が指摘

 日本テレビは30日、連続ドラマ『セクシー田中さん』(2023年10月期放送)の原作者・芦原妃名子さん(享年50)が亡くなったことを受け、同社公式サイトを更新。改めてコメントを発表した。前日29日、番組サイトで発信した最初のコメントは、局としての正当性を主張する内容と受け取られて批判の声も上がっていた。新たなコメントはトップページで哀悼の意を表した上で、「日本テレビとして、大変重く受け止めております」などとしている。しかし、最初の“保身”を感じるコメントは撤回されていないことが分かった。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、新旧2つコメントの併存に疑問を呈し、「悲劇を悼む心を翻弄するもの」と指摘した。

 第一印象は「最初からそうすれば良かったのに」だった。しかし、それは、みるみる不安に変わっていった。

 芦原さんの訃報を受け、日本テレビは30日夜、新たなコメントを発表した。前日に発表したコメントから一変したものだった。

「芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。日本テレビとして、大変重く受け止めております。ドラマ『セクシー田中さん』は、日本テレビの責任において制作および放送を行ったもので、関係者個人へのSNS等での誹謗中傷などはやめていただくよう、切にお願い申し上げます」

 前日のコメントは『セクシー田中さん』の番組サイトの中だけに載せられていたが、今回のコメントは自社公式サイトのトップに掲載されている。そして、内容も純粋に弔意を示し、番組の制作責任がテレビ局にあると認め、一方で関係者への誹謗中傷を止めるよう求めるという、制作者が今、伝えるべき言葉を盛り込んだものになっていた。

 この新コメントを見てまず浮かんだのは、「どうして初動のコメントはああなってしまったのだろう」という疑問だった。

 日本テレビは29日、疑問を感じるコメントを発表していた。原作の映像化に関する議論の真っただ中にあった芦原さんが、SNSで「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」と投稿し、その翌日に亡くなったという悲劇に直面していながら、「原作代理人である小学館を通じて」「芦原さんのご意見をいただき」「最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております」と、法的防御を最優先にした言葉を書き連ねていたからだ。「原作代理人」や「許諾」という用語は、弁護士などの助言で使ったものに見えた。

 しかし、このコメントは「保身に走っている」と多くの批判を浴び、今回、新コメントが発表された。それは、松本人志氏の報道を巡って十分確認する前に事実無根とするコメントを出し、その後、方針を一変した吉本興業の姿と重なって見えた。あの騒ぎは日本テレビでも詳しく報じていたはずなのに。

 人命はかけがえがなく、それが失われるという事態は会社のどのような利益とも比べものにならない重みを持つはずだ。しかし、ドラマ制作の担当者らにとっては、事態の影響が小さければ小さいほど、自分達の会社人生に響かなくなる。その思いが高じると、いつの間にか会社人生が本当の生命よりも重みを持ち、血の通わないコメントが生まれかねない。旧コメントが全社のトップページではなく、番組関係者の目にしか触れないであろう番組サイトに掲載されていたのは、対応を番組制作サイドが主導し、必ずしも全社的な議論によるものではなかったことの現れなのではないかとも感じる。

 しかし、今回は全社をあげて議論したであろう新コメントが出された。これを受けて日本テレビでは、再発防止に向けて番組制作過程の検証が行われるのではないか……と書きかけて、ふと日テレの公式サイトをもう1度開いた。そして、目を疑った。

 会社のトップページには「新コメント」が掲載されている。しかし、同時に『セクシー田中さん』の番組サイトには、批判を集めたあの「旧コメント」が、掲載され続けていたからだ(1月31日午前8時現在)。

「原作代理人である小学館を通じて」「芦原さんのご意見をいただき」「最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております」

 そんな言葉が、今も発信され続けている。それを目の当たりにして思った。

「はっきりさせて欲しい」

 日本テレビは自社に落ち度はないというファイティングポーズは崩さないまま、トップページで「重く受け止めている」と体裁を整えただけなのか。それとも、番組サイトに掲載され続けているコメントは消し忘れなのか。新旧コメントの併存は悲劇を悼む心を翻弄するものにしか見えない。1つの会社が全社で編み出したメッセージは、1つになるはずだからだ。

 今、トップページに掲載されている新コメントが全社あげてのメッセージなのであれば、日本テレビは番組制作者の責任として、ドラマの制作過程を詳細に検証し、再発を防がなければならない。その検証もされていないのに「自社に落ち度はない」というコメントが出され続けることなどあり得ない。

 しかし、よく考えてみると、新コメントにも具体的にこれから何をしていくつもりなのかについては言及がなかった。我々は新コメントの「重く受け止めている」という言葉を日本テレビの本心だと信じていいのか。その答えは言葉だけではなく、行動で示される必要がある。生身のクリエイターが無防備に重圧にさらされ、押しつぶされることなどあってはならない。守らなくてはならない。その第一歩は検証と再発防止に取り組む方針を具体的に示すことだ。

 こんなにやり切れない出来事は、もう2度と起きてはならない。(元テレビ朝日法務部長・弁護士 西脇亨輔)

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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