棚橋弘至の就任で話題の「社長レスラー」、20年“二刀流”続けるDDTの大社長が語るリアル

かつて、ジャイアント馬場さん・アントニオ猪木さんを筆頭とするエースレスラーが社長を兼ねる「社長レスラー」が当たり前だった時代があった。それがプロレス業界も社会情勢に合わせた業務の細分化などのアップデートを重ね、経営との分離が図られてきた。その中で昨年12月に、業界大手の新日本プロレスが19年ぶりの「社長レスラー」となる棚橋弘至の社長就任を発表した。こうなると、この方に話を聴かねばならない。「文科系プロレス」DDTを四半世紀以上に渡りけん引し、「社長レスラー」としては20年のキャリアを誇る高木三四郎大社長(株式会社CyberFight代表取締役社長)に、「社長レスラー」について、そして自身の休養について聴いた。

2023年3月には竹下幸之介と壮絶なシングルマッチを戦った【写真:DDTプロレスリング提供】
2023年3月には竹下幸之介と壮絶なシングルマッチを戦った【写真:DDTプロレスリング提供】

2023年、両国国技館大会を2回開催する勝負に出たDDT

 かつて、ジャイアント馬場さん・アントニオ猪木さんを筆頭とするエースレスラーが社長を兼ねる「社長レスラー」が当たり前だった時代があった。それがプロレス業界も社会情勢に合わせた業務の細分化などのアップデートを重ね、経営との分離が図られてきた。その中で昨年12月に、業界大手の新日本プロレスが19年ぶりの「社長レスラー」となる棚橋弘至の社長就任を発表した。こうなると、この方に話を聴かねばならない。「文科系プロレス」DDTを四半世紀以上に渡りけん引し、「社長レスラー」としては20年のキャリアを誇る高木三四郎大社長(株式会社CyberFight代表取締役社長)に、「社長レスラー」について、そして自身の休養について聴いた。(取材・文=橋場了吾)

 レスラーたるもの、誰よりも目立ちたいのは当然のこと。しかし、社長となるとまた違う目線が必要になってくる。

「エンターテインメントビジネス全般において、“夢を売る”“勇気を与える”という部分が大きいので、派手に見える部分は多いと思います。しかし実際には、演出ひとつとっても必要かどうか、ゲスト選手のブッキングも必要かどうか、そういうものがどうしても出てきてしまいますよね」

 2023年、DDTは両国国技館大会を2度開催し、世界的にも話題になった「新幹線プロレス」を実施。大きな注目を集めた1年となった。しかも7月の両国にエル・デスペラード、11月の両国に高橋ヒロムという、新日本プロレスのジュニアのトップ選手をゲストで迎えている。

「(2023年は)両国をやらないといけないな、とは思っていました。ビッグマッチをすることで『WRESTLE UNIVERSE』(CyberFightグループの試合が閲覧できるサブスクリプションサービス)の会員も伸びますし。(ゲスト参戦に関しては)そのときの流れを見て、ですよね。デスペラード選手は佐々木(大輔)と『X』でやり取りしていたり、タカタイチ興行(2022.12.19代々木第二体育館)で対戦していたり、ファンからも好評だったので出てもらえたらという感じでしたね。高橋ヒロム選手はジュニアの祭典(2023.3.1後楽園ホール)にDDTの選手が出たのがきっかけですね。過去にDDTに出たことがある選手ですし、面白いだろうなと。計算ではなくて、そのときの流れですね。自分は、プロレスは人間ドラマを見せる場だと思っているので、その瞬間、瞬間で面白いカードを組み立てていく感じです。常にアンテナを張って、お客さんが何を求めているかのリサーチは不可欠ですね」

 そして忘れてならないのは、11月の両国にAEWからやって来た超大物クリス・ジェリコ。

「クリス・ジェリコとTAKESHITA(竹下幸之介)がやり合っていたので、AEWで行われていることをそのままDDTに持ってきたかった、というのが大きかったですね。TAKESHITAがドン・キャリスにマネージメントしてもらって、ケニー・オメガやジェリコと対戦していたのを見ていて、お客さんの興味も凄かったので実現したという感じです」

 そして世界初の新幹線プロレス。「高木vs鈴木みのる」というDDTの歴史において欠かせない黄金カードを持ってきた。

「JR東海が新幹線を貸し出すというニュースが出て、トライしてみようかと思ってアプローチしてみたんですよ。そうしたら、意外に先方からいい返答が来たのでやってみようかと。(カードに関しては)悩みましたけど、やはり鈴木みのる選手との決着をつけないとなと(笑)。決着はもうついているんですけど(笑)、やられたらやり返さないといけないので」

来年デビュー30年を迎える高木三四郎大社長【写真:橋場了吾】
来年デビュー30年を迎える高木三四郎大社長【写真:橋場了吾】

社長レスラーに必要不可欠なバランス感覚

 こう見ると、自身のカードをうまく使いつつ、ほかの所属選手のカードにもスポットライトを当てる“バランス感覚”が社長レスラーには必要不可欠のように見える。

「たまたまうまく重なっているだけのような気もしますけどね。社長っていろいろなスタイルがあると思うんですが、自分の場合はプロデューサーとしてアイデアを出すのが得意なので、交渉する人間や数字を作る人間は別にいるタイプです。その中でバランスがとれているという感じですかね。一方で、人望だけで回せる社長もいるわけです。プロデューサーを別に立てて、社員同士のバランスを考えてまとめていくスタイルですね。自分は謀反を起こされたこともあるくらい人望がないのですが(笑)、突拍子もないアイデアや選手をその気にさせる企画には長けていると思うので、ついてきてくれるスタッフや選手がいるのかなと思います」

 その高木だが、今年7.21の両国国技館大会をもって、プロレスラーとしての無期限休養に入ることを発表した。

「健康面でいうと、いろいろ調べた結果の数値が良くなかったんですよ。実務面でいうと、集中できていないのが大きいですね。今まで自分でアイデアを出して突っ走ってきたので、後継者が育っていない……。経営・事業の後継者をしっかり作っていかないといけないというのもあります。プレイヤーとしての限界も見えている中、(体内の)数値面を安定させるためには減量も必要ですしコンディションを保つのも難しくなってくる、となると休養するほかないと。でも来年がデビュー30周年なんですよね……。やっぱりその区切りでは試合をしたいなと思って、来年末のギリギリまでにはコンディションを整えることができれば、という希望はあります」

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