レジェンド声優・古川登志夫が後輩に伝える成功の秘訣 手本にした野沢雅子の気遣い

声優の古川登志夫(77)が、塾長を務める「青二塾東京校」第44期生卒塾制作のラジオドラマの演出を務めた。『CHOKHMAH(コクマー)』という作品で、2月5、12日に文化放送のラジオドラマ番組『青山二丁目劇場』(月曜午後9時)で放送される。レジェンドが、声優の卵たちが成功するための秘けつを語った。

「生涯俳優宣言」を掲げている古川登志夫【写真:ENCOUNT編集部】
「生涯俳優宣言」を掲げている古川登志夫【写真:ENCOUNT編集部】

青二塾生30人とラジオドラマを放送

 声優の古川登志夫(77)が、塾長を務める「青二塾東京校」第44期生卒塾制作のラジオドラマの演出を務めた。『CHOKHMAH(コクマー)』という作品で、2月5、12日に文化放送のラジオドラマ番組『青山二丁目劇場』(月曜午後9時)で放送される。レジェンドが、声優の卵たちが成功するための秘けつを語った。(取材・文=平辻哲也)

 古川は2019年4月から、所属する「青二プロダクション」附属の俳優養成所・青二塾東京校塾長を務めている。『CHOKHMAH』は戦争をテーマにした群像劇で、自ら脚本も執筆した。

「人間は万物の霊長で、賢い生き物のはず。でも、どうして人間同士が殺し合うのか。いつの時代も戦争はなくならない。今もイスラエルで戦争が起こっています。人間は過去に学ばない。人間って、そんなものなのかという疑問があったんです。そんなテーマも考えつつ、みんなに均等にセリフをしゃべらせるのはなかなか難しいんです。部屋に塾生の写真を並べて、当て書きをしました」

 東京・浜松町の文化放送で行われた収録では、30人の塾生が参加。古川は終始、穏やかな表情で演技を見つめ、全体を1回の通しで録音。発話のはっきりしなかった部分を録音し直していった。収録を終えると、塾生からは笑顔や涙も。古川は満足そうに笑みを浮かべる。

「リスナーの皆さんが『さすが青二塾だな』と言われるレベルに持っていきたいといつも考えておりますが、最大値は出せたんじゃないかな。素人、演技経験者も混じっておりますが、1年間の履修で、半年強で基礎訓練をし、後半はその集大成として卒塾制作にとりかかるので、非常にタイトなんです」

 青二塾は、単に声優を目指す場所ではない。古川は「生涯俳優宣言」を掲げており、一生をかけて俳優として活躍できるプロを育てている。「上から目線で力で押さえつけようとしても身につきません。塾生は男女共に、“さん”づけで呼んでいます」

 伸びる人は、自分の可能性に対して貪欲だという。

「今は、マイクの前でセリフが上手に言えるだけではなくて、歌って踊ることも、声優の当たり前のスキルになっています。ビジュアル出演の機会も増えていますので、トータルとして何でも教えたいんです。塾生は『声優をやりたい』『ナレーターをやりたい』『海外ドラマの吹き替えをやりたい』とピンポイントで目標を絞ってくるけど、どの分野で花開くか分からないから、全部やりたいという貪欲な積極性を持った方がいいと話しています」

 それには自らの経験が下敷きにある。古川も振り出しは俳優だった。1972年にNHK大河ドラマ『新・平家物語』に俳優としてデビュー。最初はドラマ出演が中心だったが、次第に声優の仕事がメインに。『うる星やつら』諸星あたる、『ワンピース』ポートガス・D・エース、『ドラゴンボール超』ピッコロなどが当たり役となり、海外のドラマ、映画などの吹き替えもやってきた。

古川登志夫は俳優養成所・青二塾東京校塾長を務めている【写真:ENCOUNT編集部】
古川登志夫は俳優養成所・青二塾東京校塾長を務めている【写真:ENCOUNT編集部】

塾生に伝える「人格を磨きなさい」

 塾生に常々言っているのは、「人格を磨きなさい」。

「最初の授業ではもちろん、その後も折々に、このことを言っています。演技を身につける前に、他者に思いを致すことが大切だと言っています。他人の痛みや悲しみ、喜びも含めて、自分のことと受け止めることができる人間であるように努めましょう、と。すると、自ずと表現力も変わってきます。チームワークが生まれていきますし、作品の完成度も違うんです」

 演技力は人格と100%等身大。それも、50年以上のキャリアで培ったことだ。

「素晴らしい表現者で、人間的にはダメだという人はいないんです。いつも話に出すのは野沢雅子さんです。『ドラゴンボール』の主役で一番大変なはずですが、緊張している後輩にお菓子を出したり、コーヒーを入れてあげたり、『私が若い頃には、こんなにうまくできなかった』と声をかけたりするんです。私も、そこまで後輩に気をつかえる先輩になりたいな、と思いました」

 ラジオドラマを卒塾制作に選んだのは、ラジオだからこそ表現できるものがあるからだという。

「映像がなく、マイクの指向性に縛られアクションを禁じられる。過酷な条件で、演技をするのが声優です。その反面、リスナーの皆さんの想像力に委ねることもできます。そういう広がりを持っているのがラジオの強みだと思うんです。今はラジオドラマ枠が少なくなっていますので、塾生には貴重な体験になっています」

 現実には声優は狭き門。卒塾後はどんな道を歩んでいくのか。

「いくつかの関門を経て、青二塾のジュニア(新人)という立場になります。ジュニアを3年ぐらいやって、正式な所属になっていきます。ここで学んだものをきっちり身につけて、活躍してくれればと思っています。僕らの若い頃と違って、今は声優という職業が市民権を得ています。あらゆるところに露出していって、オーディオの仕事だけではなく、イベントなどでも活躍している人は多いです」

“若い人は、やりたいことを早く決めなくていい”というのが持論。「アニメだけをやりたいと言っても、ナレーションで売れる人もいますし、その逆のこともあります。だから、まずはオールマイティーを目指しなさいと言っています。自分の経験値からも、多ジャンルに目を向けている人の方が成功率が高いような気がします」とアドバイスを送った。

□古川登志夫(ふるかわ・としお)7月16日、栃木県栃木市出身。1972年、NHK大河『新・平家物語』鹿七役で俳優としてデビュー。『飛び出せ青春』『荒野の素浪人』などドラマ畑を経て、声優を中心に幅広いジャンルで活躍。主なアニメは『うる星やつら』諸星あたる、『ワンピース』ポートガス・D・エース、『ドラゴンボール超』ピッコロ、『機動警察パトレイバー』篠原遊馬、『名探偵コナン』山村警部、『機動戦士ガンダム』カイ・シデン、『北斗の拳』シン、『悪魔くん』メフィストII世・III世、『PLUTO』お茶の水博士、『からくりサーカス』フェイスレス・白金・才賀貞義、『ゲゲゲの鬼太郎』ねずみ男など。

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