賛否呼んだ「TOP BRIGHTS」旗揚げ大会は成功だったのか 現地で取材した記者が感じたリアル
日本人最高の実績を持つ格闘家・堀口恭司がエグゼクティブプロデューサー(EXP)を務めた、格闘技イベント「TOP BRIGHTS」旗揚げ戦(オープンハウスアリーナ太田)から5日が経過した。開催前からさまざまな賛否の飛び交った大会だったが、終えてみてどうだったのか。現地に赴いた記者が山田義則代表に直撃した。
日本最大級の可動式センタービジョン
日本人最高の実績を持つ格闘家・堀口恭司がエグゼクティブプロデューサー(EXP)を務めた、格闘技イベント「TOP BRIGHTS」旗揚げ戦(オープンハウスアリーナ太田)から5日が経過した。開催前からさまざまな賛否の飛び交った大会だったが、終えてみてどうだったのか。現地に赴いた記者が山田義則代表に直撃した。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「課題がいっぱいあることが確認できましたね。最終的には仕上げることができたので、関係者の皆さんには感謝しています。改めてさいたまスーパーアリーナさんでやり続けている、RIZINさんのすごさが分かりました」
旗揚げ戦を終えた翌日、山田義則代表に初めての大会を終えた心境を聞くと、そんな答えが返ってきた。
東京から約100キロ離れた場所に、それはあった。もうこの時点で、決して低くはないハードルが立ち塞(ふさ)がっている。現地に行ってみると、地方特有のゆったりとした空気が流れ、とてもヒリヒリした勝負論満載の格闘技のイメージとはかけ離れている。そんななか、終わってみれば本戦10試合のうちKOが7試合生まれ、観客も会場の半分以上を埋めることができた。
「最終的な観客数は3000人行ったか行かないか、だと思います。やっぱり朝イチは厳しかったですね。でも、お客さんの導線を考えると、18、19時に終わってあげないと車がない方は帰れなくなってしまうので、全23試合をやろうとしたらあの時間にスタートしないといけない。もし会場までのインフラが整えば、あの会場は最高だと思います。逆に交通の便のいいとろだったらどうなっていたのかと思いますね」
山田代表の言う通り、今回の大会は、各試合の見どころ以上に、堀口恭司がどんなものを生み出すのかが焦点だった。さらに首都圏の会場での開催が基本となっている、数ある格闘技イベントのなか、堀口の地元である群馬の開催という点で、他との差別化がはかられていた。
正直、会場に入った段階で、堀口が見せたかったものの、ひとつが目に入ってきた。実際、旗揚げ戦をこの会場に決めた理由もそこにあった。山田代表が話す。
「やっぱりセンターモニター(ビジョン)ですね。日本の技術の粋(すい)を集めたセンターモニター。あれは、まさしくUFCがやっていることかなと。上も下も360°回転して、モニターが4面、中にも4面ついている。お客さんからしたら、すごく観やすい環境なのかなと思いますし、試合をする選手のモチベーションは上がると思いますね」
扉を開いたキッズファイターの3試合
たしかに、この会場の最大の売りである、日本最大級の可動式センタービジョンは、前日に設営にも参加した堀口本人が思わず「UFCと変わらない!」と目を丸くしたほどの壮観さがあったし、完全に米国ラスベガスで開催するUFCを想起させた。
あれはダイレクトな非日常感を現出する。そういう意味では、堀口恭司による群馬県のラスベガス化計画がはじまったのか!と錯覚するくらいのインパクトはあったように思う。大会には山本一太知事も来場していたが、群馬県庁には堀口恭司ファンクラブもあるというから、県や行政を挙げてその実現に向かうとなれば、飛躍した考え方ながら、当たらずとも遠からずの可能性だってある。
確認する術を持ち得ていないので、間違っていたらすぐに訂正するが、このモニターが常設されているのは沖縄アリーナとこの会場だけだとという話を聞いた。
「そうかもしれないですね。今回の会場は昨年完成したばかりの会場なので、まだ、格闘技界でもあまり知られていないと思います。ただ、バスケットではもう会場を満員にしているので、格闘技界も負けてはいられないと思ったんですけどね」
実をいうと今回、最も驚いたのは朝10時半の開会式が終わった直後に実施されたキッズ部門の3試合だった。ヘッドギアを装着した、身長130センチ余りの小学3年生から中学2年生の6人が、計3試合のMMA戦(各3分1Rの顔面攻撃は禁止)を行ったが、もう完全に大人顔負けのファイトを繰り広げていた。というか、必死さだけで言えば、キッズのほうが上だと思えたくらい。
「子どもたちも強かったですね、本気でやってますね。僕らも見せられました」。山田代表はそう語ったが、それもそのはず。視覚的にはラスベガスかのような会場に設置された金網のリングに、入場コールもラウンドガールもレフェリーも、その後の育成枠や本戦に登場するプロのファイターと遜色ないシチュエーションで、単にファイターがキッズだった、なんてあまりお目にかかったことがない。強いて違いをあげれば、レフェリーがキッズの身長に合わせて、少し前屈みになりながら、試合前の最終チェックをリング上でしていたのが印象的だったくらい。
もちろん、キッズのMMA戦は他にあるのかもしれないが、最新設備が整った5千人規模の会場で、「TOP BRIGHTS」の扉を正式に開けた瞬間に飛び込んできたのがキッズだった、というのは、いかにも「子どもたちに夢を与えたい」と繰り返し口にしてきた堀口らしい。
「僕らは第二の堀口恭司に出てきてほしい。できればそれが日本人であり、欲を言えばキッズから出てきてくれたら最高です。ただ、仮に日本人でなくても、堀口恭司のお墨付きになるような選手が出てきてくれたら。例えば今回なら、TKO勝利を奪った、ダニエル・ドンチェンコ選手。彼をRIZINに出させてもらえるように話をしてみようかと思っていますけど、彼がもしTOP BRIGHTS所属になったとしても、堀口選手がベラトールの契約でありながらRIZINに出ているように、僕らはなるべく選手を縛るような契約にはしないようにしようと。選手を縛りすぎるなっていうのが堀口選手の意向なのでね」
空気が一気に変わったのは、堀口本人が加わった大会前日の設営から
ちなみに今回は、群馬県民なら入場料半額なる「県民割」もご当地ならではの試みだった。実際、身分証明書を入口で確認する光景もあって、非常に興味深く見入ってしまった。
「やっぱり堀口選手の地元である群馬県の方に見てほしい。群馬県は約190万人都市なんですけど、その人たちに興味を持ってほしいと思っているんです。ただ、今回は大みそかに堀口選手の試合があったので、地元のメディアへの堀口選手の出演を含めて、どうしても年明けからのプロモーションになってしまう。今後の大会運営はそういったスケジュール感も考えてやらないといけないと思いますけど、僕たちスタッフ一同、堀口選手が選手として活躍してもらうことを一番に考えて、そこを邪魔しないこと。だからイベントのためだけに日本に帰ってきてもらうのは、試合への負担がかかってしまうと思っています。となるとこのスケジュールになってしまうのは致し方ないのかなと」
山田代表はそう言って、今回の大会日程を決めた理由を明かしたが、他には一部チケット代金が高いとの声も見られた。これに関して山田代表は「あれだけの会場と試合で考えれば、僕はそこまで高いとは思わなかったんですけどね」との見解を示した。
「例えば、一番高く設定した50万円のロイヤルスイートも70人は入れますから、70人全員を入れたとすると、一人単価7000円くらい。だからそんなに高くはないのかなと。ただ、県民割りや訳ありチケット(4500円)を含め、安めに設定した部分もあった割に、それがうまく伝わっていかなかった。その辺を含めイチから勉強していきたいなと思っています」
ともあれ、そういった批判的な声があろうとも、大会当日はTOP BRIGHTS、堀口恭司、吉成名高といった名前がXのトレンドに上がった。たとえ群馬という地方都市といえど、追いかける人は追いかける。その辺はさすが「堀口恭司」というブランド力の為せる技だと思う。
「SNSでは賛否もあった。いや、大会をするまでは否定的なコメントが目立っていたけど、今回、前日の設営から全部公開したじゃないですか。堀口選手本人が前日の設営にも加わって。あそこから一気に空気が変わったのを正直感じましたね。そこからネガティブ→ポジティブが増えてきたような。今もネガティブな意見を言われる方もいますけど、それは自分たちを強くする情報だと思っていますから、次への課題が見えてよかったなと思いますね。やらないと見えないことがありますから」
山田代表の話を聞いていくと、すべてを前向きに捉えようとする気概を感じる。それがあれば、必ず次はさらにレベルの高いものができるに違いない。
「年内にもう一度開催したいと思っていますけど、この後、スタッフを集めて、まずはファンの声を聞いて。ファンに団体を育ててもらえるようになっていければなと思っています」