避難所で悩ましい下着の管理 衛生面リスク、女性の心理的負担…メーカーに聞いた防災の備えとは

能登半島地震で避難所生活を余儀なくされている人たちが多くいる中で、災害時における女性にとっての困り事が改めて表面化している。トイレの行きづらさや生理用品の不足などが指摘されており、生活必需品である下着も課題の1つだ。同じ下着を何日も着用しなければならなかったり、断水の影響で洗濯がままならず、干す際に他人に見られてしまうなど、管理の難しさと不衛生な環境が懸念されている。避難所でいま実際にできる対応策、よりベターな防災の備えとは。被災地のニーズに合わせて女性用ショーツの物資提供を行っている下着開発メーカーにアドバイスを聞いた。

防災グッズの備品に下着を入れておくことは重要だ【写真:株式会社HEAVEN Japan提供】
防災グッズの備品に下着を入れておくことは重要だ【写真:株式会社HEAVEN Japan提供】

災害時や避難所生活における女性にとっての困り事が表面化

 能登半島地震で避難所生活を余儀なくされている人たちが多くいる中で、災害時における女性にとっての困り事が改めて表面化している。トイレの行きづらさや生理用品の不足などが指摘されており、生活必需品である下着も課題の1つだ。同じ下着を何日も着用しなければならなかったり、断水の影響で洗濯がままならず、干す際に他人に見られてしまうなど、管理の難しさと不衛生な環境が懸念されている。避難所でいま実際にできる対応策、よりベターな防災の備えとは。被災地のニーズに合わせて女性用ショーツの物資提供を行っている下着開発メーカーにアドバイスを聞いた。(取材・文=吉原知也)

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 防災と下着について情報発信に取り組んでいるのは、女性用下着の開発・販売を手がける株式会社HEAVEN Japan(大阪)。今回の能登半島地震の発生に際して、現地の被災者から要請を受けたことから、女性用ショーツの提供を実施。災害支援活動を行うNPO法人を通して、1月12日にショーツ1020枚を石川・七尾市に届けた。

 同社は物資提供の準備を進めながら、被災地の状況の情報収集に取り組んだ。被災地でどんなことに困っているのか、何が必要なのか。SNSで呼びかけを行った。石川・珠洲市の女性被災者から「着替えもままならず、下着の洗濯もできない状況にいる」との現地の様子が伝えられ、救援の要請を受けた。今回は移動距離と交通状況の問題で珠洲市には届けることができなかったが、引き続き追加提供の検討を進めていくという。

 また、社内スタッフの親戚が被災して車中泊を続けている実態をヒアリング。東日本大震災での避難所生活の経験者からは「断水が続くと、どのタイミングで洗濯をしていいのか見通しが立たず、大きな不安を抱えることになる。衛生面で気になることが多かった」といった実体験についても聞いた。

 同社に寄せられ声を総合すると、「断水で洗濯ができない状況なので同じ下着を着用している」「支援物資で届くものが年齢層の高いもので、自分の体には合わず、身に着けることができない」「集団生活で干すこともできない」といった、女性たちの苦しい実態が浮かび上がった。下着の産業分野に精通し、同社執行役員を務める槻(けやき)亜沙未さんは「衛生面でのリスクもあり、心理的負担も多くかかっている現状が分かりました」と話す。

 そこで、スタッフの9割を女性が占める同社は、これまでの知見や経験則などを基に、「いますぐに実践できる下着のケア 避難所生活編」を取りまとめた。

【避難所生活で下着の管理が難しいとき】
・洗濯ネットに入れたまま洗濯、そのまま干す
・収納時も洗濯ネットを活用する

【経血などで汚れてしまったとき】
・汚れた部分をペーパーで拭き取る
・汚れた部分を冷水で優しく手洗いする
・日陰の風通しのいい場所で自然乾燥させる

【断水で洗濯ができないとき】
・おりものシートを活用して下着の汚れを防ぐ
・干して乾燥させるだけでも臭いは軽減

【支援物資で自分に合うサイズの下着が見つからないとき】
・選択肢がある場合は伸縮性の高いものを選ぶ(ショーツの場合は同じサイズ表記でも伸縮性によって着用できる場合がある)

 槻さんは「避難所にある備品の状況で難しい面はあるかもしれませんが、もし洗濯ネットが手元にあれば、外から中身が見えにくいので有効です。干すときにタオルで囲って隠すことも手段の1つですし、バケツの上部に棒を置いて下着を乾かす方法もあります」と補足する。また、洗濯をする際の水の温度に注意点があるといい、「経血はお湯で洗うと固まってしまいます。冷水やぬるま湯なら固まりにくいです」と解説する。

能登半島地震の道路被害の様子【写真:株式会社HEAVEN Japan提供】
能登半島地震の道路被害の様子【写真:株式会社HEAVEN Japan提供】

「下着の買い替えのときに古いものを入れておく。それだけでも防災の準備に」

 もしものときの備えを整えておくことも重要だ。一方で、防災グッズの備品として下着が見落とされがちな現状があることも確かだ。同社が2021年12月に361人を対象に「防災の備え」に関するアンケートを実施したところ、48.8%が「防災バッグを常備していない」と回答。37.1%が「防災バッグを常備しているが、下着は入れていない」と答えた。防災バッグを常備して下着も入れているのは、約7人に1人にあたる14.1%だった。回答者からは「下着のことまで頭に回っていなかった」「食料品などを優先していた」といった声が寄せられた。

 こうしたデータなどを踏まえて、同社は下着と防災に関するQ&Aを作成した。

【防災バッグに入れるために新しい下着を購入すべき?】
・防災バッグ用に新しい下着を購入するのではなく、日常使いする下着を購入した際に、捨てようと思っていた下着を入れるだけでOK。また、ワイヤー入りやパット入りのブラジャーだと小さく収納することが難しいため、ナイトブラやカップ付きのキャミソールを入れておくのもオススメです

【何日分準備しておくべき?】
・少なくとも2セットを入れておくことがオススメです。着用しているものとは別に2セット持っていれば、洗濯や乾燥などしながら使い回すことが可能になり、心理的にも安心して過ごせるでしょう

 槻さんは「下着の買い替えのときに古いものを入れておく、それだけでも防災のための準備になります。ナイトブラは就寝用に作られているため、リラックスして過ごせる設計になっており、避難所生活でも体の負担が軽減されると考えています。それに、ワイヤーが入っていないため、小さく折り畳むことができます。防災バッグに入れやすく、かさばらない利点もあります」と教えてくれた。

 また、ショーツの輸送を依頼したNPO法人が七尾市・和倉温泉・能登島・中島・田鶴浜エリアを現地視察したところ、相当な被害状況にあるとのこと。今後に解決するべきポイントとして、避難所から自宅に帰って生活を再開する際の家の片付けや仕事復帰、産業復興が挙げられ、人的支援ニーズも必要になってくるとの課題感を伝え聞いたという。

 女性の視点での避難所作り、被災地の生活環境改善は、社会全体の大きな課題だ。1人1人ができることとして、防災バッグの準備がある。槻さん自身、防災グッズをリュックに詰めて自宅に置いている。非常食や水、マスク、防寒着、靴下、スリッパ、コンタクトレンズなど。その中に、下着を忘れずに入れるようにしている。槻さんは「私自身、防災に関する情報発信をすることで防災意識がより高まりました。避難所ではさまざまな不安があると思います。もしもの際に、1つでも不安を取り除くために下着をバッグに入れておく。安心材料にもなると思います。これからも女性の皆さんの悩みやニーズに応えられるよう、被災時の効果的な対応や防災のアドバイスを考え、伝えていきたいです」と話している。

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