「ゲゲゲの鬼太郎」最新版のギャラクシー賞受賞 “見えないモノ”を描き切った舞台ウラ

人気テレビアニメシリーズで2018年から今春まで放送された「ゲゲゲの鬼太郎」第6期(フジテレビ系)が、放送文化向上への貢献を表彰する「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門特別賞を受賞した。原作者の水木しげるさんが15年に亡くなってから初めてとなるアニメ制作。人間社会の闇に切り込んで社会風刺を織り交ぜる「原点回帰」に、「枠にとらわれない発想」を融合させ、新たな“鬼太郎像”を描き切った。フジテレビ編成プロデューサーの狩野雄太氏と東映アニメーションプロデューサーの永富大地氏に舞台裏を聞いた。今回は前編。

「ゲゲゲの鬼太郎」第6期は“水木しげるイズム”を大事にしながらも新たなイメージを作り上げた(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
「ゲゲゲの鬼太郎」第6期は“水木しげるイズム”を大事にしながらも新たなイメージを作り上げた(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

【前編】「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門特別賞 フジテレビ&東映アニメーションのプロデューサーに聞く“原点回帰”

 人気テレビアニメシリーズで2018年から今春まで放送された「ゲゲゲの鬼太郎」第6期(フジテレビ系)が、放送文化向上への貢献を表彰する「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門特別賞を受賞した。原作者の水木しげるさんが15年に亡くなってから初めてとなるアニメ制作。人間社会の闇に切り込んで社会風刺を織り交ぜる「原点回帰」に、「枠にとらわれない発想」を融合させ、新たな“鬼太郎像”を描き切った。フジテレビ編成プロデューサーの狩野雄太氏と東映アニメーションプロデューサーの永富大地氏に舞台裏を聞いた。今回は前編。

 水木さんの漫画が原作のアニメシリーズ。今回の最新版は、1968年の放送開始50周年のタイミングで制作された。毎週日曜日の朝に放送され、子育て家庭をはじめ幅広い世代から支持を集めた。特別賞でテレビアニメの受賞自体が初といい、狩野氏は「予想外」、永富氏は「めちゃくちゃびっくりした」。関係者にとって驚きの受賞だったという。

 制作陣がまず重視したのは、妖怪漫画の第一人者である水木さんが鬼太郎に込めたメッセージ、世界観だ。数多くの卓越した人生哲学、含蓄のある格言を遺した水木さん。原作漫画だけでなく、著作物も読み込んだといい、狩野氏は「水木先生の背骨の部分、作家性を改めて理解していくことが重要でした。戦争体験を含めた先生の人生の歩み方が心に残りました」と話す。鬼太郎は水木青年に育てられたというキャラクター設定だ。鬼太郎は妖怪の中の幽霊族ではあるが、人間でもなく妖怪でもないような存在として人間社会の虚しさ、いいところを見つめていく。狩野氏は「すごく面白い設定の中で鬼太郎が作られていると思いました」という。

 80年代の第3期がリアルタイムで、子供の頃に第2期の再放送を観て育ってきた永富氏は「今回は、作品をチェックする水木先生がいない。原作に遺されたメッセージ、人生を生き抜くうえでの先生の哲学をどう抽出して織り交ぜるかにすごく気を使いました」と明かす。本作は、ただの妖怪退治ではない。「鬼太郎はヒロイックでありながらもシニカルに、人間社会を遠くから見ています。本作には社会風刺やブラックユーモアがあると言っていただきますが、原点回帰をより一層深めた部分はあると思います」と強調する。

「ゲゲゲの鬼太郎」最新版はスマホも登場する(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
「ゲゲゲの鬼太郎」最新版はスマホも登場する(C)水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

 本作の毎回の冒頭では、「見えてる世界が全てじゃない 見えないモノもいるんだ ほら、君の後ろの暗闇に」というセリフが流れる。象徴的なフレーズだ。永富氏によるとこれは、水木さんが幼少期にのんのんばあから言われたとされる「みえんからおらんというのがまちがいのもとじゃがナ」という言葉から着想を得たという。

 永富氏は「もちろん妖怪のことを『見えないモノ』と言っているのですが、信頼や絆、友情といった人間が生きるうえで大切にしていかないといけないものについても、目には見えません。こうしたエッセンスがシナリオの中にどんどん入ってきて、先生の言葉に導かれていきました」と振り返る。

 興味深いポイントのひとつが、本作の設定が現代に移り変わっている点だ。登場キャラクターのねこ娘と犬山まなはスマートフォンのメッセージ機能でコミュニケーションを取り、スマホが妖怪退治に役立つシーンもあれば、SNSの問題点を扱うストーリーもあった。

 現代性を採り入れることにそこまで意識しなかったというが、永富氏は「妖怪はどこにいるんだということを議論しました。妖怪がはびこって、時にいたずらをしてしまう場所はどこかなと。それは人間の心の闇に出てくるのではという結論に至りました。それでは現代の人間の心の闇はどこにあるのか。スマホやインターネットを介するツールにあるということに行き着き、描写していこうとなったんです。最初から現代風にしようと思っていなく、妖怪を出そうと思ったら、スマホを出さざるを得なかったということなんです」と明かした。

 毎週1回のシナリオ会議は、原作漫画や水木さんの著作の妖怪図鑑を見ながら、制作陣が議論を重ねたという。7時間も話し合うことがざらにあった。「終わったあとは頭がドロドロになる」(永富氏)という会議を通してシナリオやキャラクターが固まっていった。そこには、確かな“水木イズム”が貫かれていた。

(後編に続く)

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