男性育休100%の取得を目指す伊藤忠商事 社内で「プレママ・プレパパレッスン」開催の“真意”
男性育休の取得推進へ、企業同士の新たな協力の形が示された。ベビー用品メーカー、コンビ株式会社は22日、企業向けの「プレママ・プレパパレッスン」を都内の伊藤忠商事で初開催した。伊藤忠は男性育休100%取得を目標に掲げ、社員の働きやすい環境作りを支援している。2022年10月に産後パパ育休(出生時育児休業)が施行され、2年目を迎えた中、男性の育児参加に向けた企業の努力が続いている。
社員の共働き比率が急増…仕事と育児両立するには
男性育休の取得推進へ、企業同士の新たな協力の形が示された。ベビー用品メーカー、コンビ株式会社は22日、企業向けの「プレママ・プレパパレッスン」を都内の伊藤忠商事で初開催した。伊藤忠は男性育休100%取得を目標に掲げ、社員の働きやすい環境作りを支援している。2022年10月に産後パパ育休(出生時育児休業)が施行され、2年目を迎えた中、男性の育児参加に向けた企業の努力が続いている。
「赤ちゃんを一緒に抱っこしていきたいと思います」。講師の声がけで一斉に立ち上がったのは伊藤忠の社員だ。たどたどしい手で人形を抱え上げるスーツ姿の男性社員。揺らしたり、おもちゃであやすと思わず笑顔がこぼれた。「母乳以外の世話は(男性でも)全部できます」の言葉に、うなずく場面も。40分のレッスンを受けた後は、沐浴体験や妊婦体験コーナーで育児に対する理解を深めた。妊婦体験ジャケットを着けた男性社員は「重いですね」と、妊婦の大変さを実感した。
伊藤忠は男性育休の100%取得を目指し、社員に積極的に働きかけている。このイベントもその一環だった。背景にあるのは共働き社員の急増。伊藤忠の共働き比率は2021年度に20代で90%、30代で63%に達する。00年度に比べ、20代で3倍、30代で約5倍の伸びとなった。
育児においても共働きが前提という実態が浮かぶ。そのためには、男性の育児参加は欠かせない。厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」によると、男性育休の取得率は約17%。伊藤忠の男性育休取得率は52%で、取得日数は平均35日だ。決して低くはないように思えるが、目標のまだ半分と受け止めている。
人事・総務部の高山桃子さんは、「共働き・共育てが当たり前となってきている中で、男性育休を取ることが両立の風土醸成につながる」と説明。「特に30代は、子育てや共働きをしている男性が多くなってきている。育休を取りやすい環境を作っていくことは、本人としても最大限能力を発揮できる。そう考えて、会社としての100%という目標を掲げてやっています」と続けた。
男性育休を推進するうえで課題は何か。高山さんは「例えば業務のバランスというところが難しかった点として挙げられるのかなと思います」と率直に話す。部署間のばらつきは「そこまでない」と言うが、「業務とのバランスを考えたときに、長い間育休を取るというのはちょっと難しいという方はまだいます」と、個人差があるとの認識を示した。
育児休業給付金の支給等があっても、一般的に「男性育休は当たり前」とはならないのは、経済面以外にもさまざまな理由があると考えられている。思い描くキャリアの形成があったり、大きなプロジェクトが舞い込むタイミングとどう折り合いをつければいいのかも性別に関係なく悩みどころだ。
伊藤忠では社員の多様な価値観に応じて、選択肢を用意。「会社としていろんな支援制度を用意して、金銭面だったり、精神面の負担だったり、そういったハードルを少しずつ少しずつ下げてきているような状況です」。育休取得や時短勤務を活用しやすくする一方、早期に復職したい社員には手当を導入し、両立をサポートしている。保育料の補助としても利用できる。
社員に特に好評なのが13年から導入した朝型勤務だ。午前5時からの始業を認め、早ければ午後3時には終業できるこの制度は、働き方改革を促した。午前7時50分以前に勤務を開始した場合は、インセンティブとして、深夜勤務と同様の割り増し賃金を支給。現在、約54%の社員が“朝型”になった。育児中の社員も早めに帰宅しやすくなり、離職率を減らした。
働きやすさを追求する一方で、勤務体系や時間にかかわらず、成果に応じた評価を徹底。「厳しくとも働きがいのある会社」の理念の下、育児と仕事を両立できる環境を高いレベルで構築している。
伊藤忠は社員4100人(単体)のうち男性が75%を占める。40代後半以上の世代では、育休とは無縁の男性社員も多い。世代間による意識の差をどう埋めるかも大きなポイントと捉える。時代が変化しても、企業文化をすぐに変えるのは難しい。これから子育てが始まる20代、30代を中心に男性育休を後押しすることが、将来の100%実現につながると考えている。
コンビ担当者も手応え 企業向けのレッスン定着目指す
子どもを夫婦で育てていく流れは今後、ますます加速していくことが予想されている。こども家庭庁は「さんきゅうパパプロジェクト」を通じて、25年に配偶者の出産直後の男性の休暇取得率80%の達成を目指している。
男性育休の取得や育児との両立に理解がある企業が増えれば、2人目以降の出生にも影響し、少子化対策にも効果が期待できる。ベビー用品メーカーにとってもメリットは大きい。コンビは今後、企業向けの「プレママ・プレパパレッスン」を定着させていく方針だ。仕事を休まなくても、育児のやり方を学べる機会の提供は、多忙な社員を抱える企業を中心に、潜在的なニーズもありそうだ。「今回、男性社員の方から『初めて知ることがあった』というご意見をいただいたことはよかったです。奥さんが妊娠中、あるいはご自身がご懐妊中など当事者以外への働きかけはこれからの課題。第2回、第3回とブラッシュアップしていきたい」と担当者は話している。