二胡奏者ウェイウェイ・ウー、日中関係への思い「自分の目で日本を見てきた」「真実を友達に伝えています」

TBSドラマ『JIN-仁』(2009年)のメインテーマで知られる二胡奏者のウェイウェイ・ウーは現代二胡のパイオニア的存在だ。故・坂本龍一さん、葉加瀬太郎らさまざまなジャンルのミュージシャンとコラボレーションを精力的に行い、二胡の新たな可能性を見せた。日中友好の架け橋となりたいと願うウェイウェイ・ウーの原点とは。

インタビューに応じたウェイウェイ・ウー【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたウェイウェイ・ウー【写真:ENCOUNT編集部】

精力的に日本でライブ活動を行うウェイウェイ・ウー

 TBSドラマ『JIN-仁』(2009年)のメインテーマで知られる二胡奏者のウェイウェイ・ウーは現代二胡のパイオニア的存在だ。故・坂本龍一さん、葉加瀬太郎らさまざまなジャンルのミュージシャンとコラボレーションを精力的に行い、二胡の新たな可能性を見せた。日中友好の架け橋となりたいと願うウェイウェイ・ウーの原点とは。(取材・文=平辻哲也)

 本来は座って演奏する二胡を、立ったまま演奏する「立奏」というスタイルを確立したウェイウェイ・ウー。昨年12月には初のライブアルバム『“Holy” Love Songs~live at Gloria Chapel~』を発売し、2月29日にはライブ『ウェイウェイ・ウーAfternoon Concert~悠~』(スクエア荏原ひらつかホール)を行う。

 上海生まれ、上海育ち。5歳のときからバイオリンを習い、15歳のときに二胡を始めた。91年に来日し、02年にメジャーデビュー。日本に興味を持ったのは中学生だった80年代、テレビ放送されていた山口百恵さん主演、三浦友和共演の『赤い』シリーズ(日本では1974~1980年放送)と竹脇無我さん(2011年死去)の『姿三四郎』(日本では1970年放送)を見たことだった。

「ドラマの主人公に会いたいと思ったのがきっかけでした。最初は1年くらいで帰る予定だったんです。学生の頃、竹脇さんの舞台を見たいと思っていたんですが、学校の試験と重なってしまいました。三浦さんとは鳥取への行き帰りで飛行機が一緒だったことがあったのですが、固まってしまい、ごあいさつできませんでした。まだ、どなたにもお目にかかることができませんので、日本にいるんでしょうね」と笑う。

 来日当初は豊島区東長崎に下宿し、飯田橋の日中学院で日本語を学んだ。西武池袋線・東長崎駅前はひと気がなく、さみしかった。

「ついたのはゴールデンウイークの5月3日。下宿先を案内してくれた友人も帰ってしまって、心細くなってしまったんです。両親に電話するつもりだったのですが、このままだったら、絶対泣いてしまうと思って、唯一明かりが煌々とついている駅前の店の前で心を落ち着かせてから、電話をかけました。そこがパチンコ屋さんだということは後で知りました。今ではドラッグストアになっていますが、このパチンコ屋さんには感謝しています。毎年5月3日になると、東長崎に足を運んでいます」

 今では流ちょうな日本語を話すが、来日当初は苦労した。

「道に迷っても、聴くこともできなかったですし、今でも、時々『座る』と『触る』の使い方を間違えてしまって、ヒヤッとします(笑)。同級生は4月入学だったので、私は少し遅れていたんですね。授業はとても厳しかった。『英語も中国語も一切使ってはいけない。日本語で考えて』と言われ、結構つらかったけど、それが力になりました。半年間で日本語の能力試験で一番も取れた。できないことが一つ一つできるようになった瞬間が好きなんです」

 来日から1年半後の92年には妹のaminさんも来日。両親がいる中国に戻ろうと思ったことはないという。

「両親も高齢ですので、数か月に1回は上海に帰っています。両親も、日本に来ることもあります。両親は日本語がまったく分からないのですが、日本のみなさんが私の音楽のファンになっている姿を見て、すごく感動して、安心して帰っていきます」

『JIN-仁- Main Title』で「生活が一変しました」

 二胡とはどんな楽器なのか。

「バイオリンは4弦ですが、二胡は2弦。真ん中の2つの弦が二胡と同じチューニングになっています。今の弦の主流はスチール弦で、弓の毛が馬の尻尾でできているのもバイオリンと同じです。唯一違うのが、弓が2つの弦の間に挟まっていること。昔は馬に乗りながら演奏していたので、弓が落ちないようになっています。バイオリンと違って、指板がなく、力の加減で音を出すのは難しさでもあり、面白さです」

 メジャーデビュー以来、坂本龍一さん、一青窈、ケニーGらさまざまアーティストとコラボレーションを見せているが、転機になったのは『JIN-仁- Main Title』だ。今では二胡の代名詞になっている。

「生活が一変しました。最近も大竹まことさんのラジオ番組で生演奏をさせていただきました。集中するために目を閉じているんですが、目を開けたら、(番組パートナーの)はるな愛さんが号泣されていたんです。ビックリしましたが、私の中に眠っていた感情が一気によみがえりました」

 この曲は最新ライブアルバム『“Holy” Love Songs~live at Gloria Chapel~』にも収録されている。

「会場は品川グローリアチャペル。すごく響きがいい会場だったので、『絶対に録音したい』と思っていました。自分もビックリするくらい、すごいいいサウンドになっています。自分でも客席で聞いてみたいと思ったくらいなので、このアルバムでそれを叶えたような気がします。自分の演奏は、客席では聴けませんから(笑)。曲は好きな映画音楽や懐かしい音楽、愛をテーマにしたものを選びました」

 2021年7月29日に亡くなった妹のaminさんへの思いも込めている。aminさんは1992年に来日し、シンガーソングライターとして活躍。2003年にサントリー烏龍茶のCMソングでブレークした。

「『For You~この愛を~』は妹と一緒に演奏したNHKみんなの歌の曲(『この愛を ~お姉さんへ~』)が元になっています。『Dance in the Rain』は妹が他界してから、子どものときに一緒に水遊びした思い出を曲にしました」

 コロナ禍でライブも開催できなかった時期もあり、一層観客の拍手のありがたみを知ったというウェイウェイ・ウー。2月29日のライブは、自身が主宰する二胡教室がある地元・武蔵小山のスクエア荏原ひらつかホールが会場だ。

「せっかく会場に足を運んでくださるので、アルバムの曲はもちろん、みなさんがよくご存じの曲も演奏し、優雅なひとときを過ごして欲しいです」

 来日して30年以上。日中関係にも紆余曲折はあったが、「私は自分の目で日本を見てきたので、真実を中国の友達には伝えています。私自身、国籍はあまり感じていませんが、日本と中国の架け橋として自分しかできないことをやっていきたい。二胡の音色を通じて、みなさんが笑顔になって、元気になってくれれば、と思っています」。2つの国への愛を込めて、二胡を奏でていく。

□ウェイウェイ・ウー 中国・上海生まれ。本名:巫謝慧。5歳からバイオリンを始める。1991年に来日。2002年5月、『メモリーズ・オブ・ザ・フューチャー』にてメジャー・デビューし、これまでに、ベスト盤を含め15枚のアルバムとライブDVD1枚をリリース。二胡教室を自ら主宰(心弦二胡教室)するほか、坂本龍一さんや葉加瀬太郎、ケニー・Gなど、国内外のアーティストとのコラボレーション、NHK交響楽団をはじめとするオーケストラとの共演など、幅広い活躍を続けている。

◯ウェイウェイ・ウーAfternoon Concert~悠~
出演:ウェイウェイ・ウー(二胡)、森丘ヒロキ(Pf)、ファルコン(Gt)
日程:2024年2月29日(木)
会場:スクエア荏原ひらつかホール
開場:13:30/開演:14:00
チケット:全席指定、一般料金:¥3500(イープラスにて発売中)

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