現役看護師レスラー・長野じゅりあがプロレスラーを卒業する理由「中途半端は見ている人にも失礼」

女優、看護師、インフルエンサー、そしてプロレスラー。長野じゅりあは多くの肩書を持っているが、4月13日をもってプロレスラーという肩書を外すことになる。しかし、彼女はプロレスを嫌いになったわけではなく、自分の人生を考えたときに「この肩書を中途半端に名乗るわけにはいかない」という気持ちが芽生えたという。

力強い瞳が印象的な長野じゅりあ【写真:橋場了吾】
力強い瞳が印象的な長野じゅりあ【写真:橋場了吾】

デビュー戦で得た快感が継続参戦につながった

 女優、看護師、インフルエンサー、そしてプロレスラー。長野じゅりあは多くの肩書を持っているが、4月13日をもってプロレスラーという肩書を外すことになる。しかし、彼女はプロレスを嫌いになったわけではなく、自分の人生を考えたときに「この肩書を中途半端に名乗るわけにはいかない」という気持ちが芽生えたという。そのきっかけとなったのは、左手の指の怪我。日常生活にも支障をきたしたこの怪我が、長野の気持ちを揺るがした。(取材・文=橋場了吾)

 長野がデビューしたのは2022年3月19日の『GRAND PRINCESS ’22』。東京女子プロレスが初めて両国国技館に進出した日だ。東京女子の9年間(当時)においても最大級のビッグマッチにラインナップされたのが、鈴芽&遠藤有栖vs宮本もか&長野じゅりあというタッグマッチだった。

「プロレスを知らなかったからこそ、「両国国技館=ビッグマッチ」というイメージがなかったんです。空手の試合では日本武道館も経験しているので、大きい会場は場慣れしていたんですが、入場からあんなに盛り上げてくれてお客さんもたくさんいて、凄く緊張しましたね」

 鈴芽&遠藤という正式なタッグチームが対戦相手で、宮本も空手の経験者とはいえ初めてタッグを組む選手だ。初めて尽くしのデビュー戦は、長野にとってどのようなものだったのだろうか。

「デビュー戦のことははっきり覚えています。とにかく痛かった(笑)。そして悔しかった。でも楽しかった。この3つですね。空手の世界ではロープの上から人が降ってくることはないですし……ただお客さんの存在は大きかったです。まだ声を出しての応援は制限されていた時期だったんですが、一挙手一投足に対する歓声に近いものだったり、自分が練習してきたことを出せていたり、皆さんが喜んでいるのが嬉しかったですね。その後のサイン会でも声をかけてくださって。空手はお客さんのためにはやっていないので、プロレスはお客さんがいてのものなのでそこに快感を得ました」

 実はデビュー戦のタイミングでは、この一戦で終わる可能性もあったという。長野自身もこの一戦に賭けていた。しかし、長野は継続参戦を希望し、その心意気に応えるように東京女子の強さの象徴である山下実優とのシングルマッチをデビュー2戦目に用意した。結果は……長野の完敗である。

「デビュー2戦目でしたっけ? エグすぎ(笑)。今考えると『ちょっと待って!』となりますよね。27発ローキックをもらって、本当に足が立たなくなるほど痛くて。試合時間は5分もなかったと思うんですけど(正式には4分12秒)、最後にSkull Kickで頭腫れちゃうし……試合が終わった後も怖かったですし、山下選手が強過ぎました」

空手をベースにした闘いで人気を博す【写真提供:東京女子プロレス】
空手をベースにした闘いで人気を博す【写真提供:東京女子プロレス】

これからというときの怪我、そして復帰するも…

 山下は新人相手にSkull Kickを出したのは期待の表れだったのだろう、その後タッグながら自力初勝利も飾り、宮本とのタッグでは『第3回“ふたりはプリンセス”Max Heartトーナメント』でベスト4進出を果たした。しかしその準決勝で、長野は左手の人差し指と中指を負傷し、半年もの間欠場することになる。

「試合が終わったあと、指が曲がっていたんですよ。でもそれほど痛くはなくて、まあ大丈夫かと思っていたんですが、一応病院に行ったところ、腱の断裂と骨折ですぐ手術をした方がいいという診断が出まして。もかさんとのタッグで勝ち進んで、自信もついてきていたところだったので落ち込みましたね」

 この怪我により、日常生活もままならなくなってしまった長野。プロレスだけでなく芸能活動もほとんどできなくなってしまって、家に閉じこもることが多くなった。しかし7月8日、大田区総合体育館大会で復帰。カードはデビュー戦と全く同じ、鈴芽&遠藤vs宮本&長野だった。

「全然練習ができない時期もあったので、また1からやっていこうという気持ちで、第2のデビュー戦みたいな気持ちでリングに立ちました」

 その3か月後には、当時ふりーWiFi(乃蒼ヒカリ・角田奈穂)が保持していたプリンセスタッグ王座へ宮本との真拳空勝(しんけんくうしょう)で挑むも惜敗。まだまだこれから活躍の場が広がるであろうというタイミングで、長野は1月9日にプロレス卒業会見を行った。

「怪我をして休んでいる時期に、プロレスは怪我がつきものとはいえ、思っていたより何もできない自分がいて、人生プランを考えたときにどこかでけじめをつけないといけないなとうすうす思い始めました。それで3月31日にデビューした両国国技館があって、デビューから2年というタイミングで4月13日の北沢タウンホールで卒業しようかなと思いました」

 怪我をしたときは、自力で着替えることすら大変だったという。

「本当にリングに戻ることができるのかな、と思いました。半年間は長かったですね。ただファンの方からサイン会でも『戻ってきてほしい』という生の声を聴いて、『リングに戻って元気な姿を見せなきゃ』という思いで復帰しました。でも休んでいる期間に考えて、芸能活動に力を入れたいという気持ちもあって、プロレスを中途半端にはできないなと思ったんです。中途半端にやってしまうことは、私自身も嫌ですし、見ている方にも失礼なんじゃないかと思って」

 長野の会見後、ファンからも同僚からも多くの声が届いた。

「ファンの方々も先輩方も凄く温かくて……本当に寂しい気持ちでいっぱいなんですが、そういう方々のためにも4月まで一生懸命燃え尽きるまでやらないといけないなと思いました」

 1月20日に開幕する『第4回“ふたりはプリンセス”Max Heartトーナメント』の1回戦では、真拳空勝で山下実優&凍雅と対戦する。そして順調に勝ち進めば2月10日・後楽園ホール大会で決勝のリングに立っている。奇しくも長野の28回目の誕生日だ。

「山下さんと対戦するのは久しぶりなので、怖さと楽しみがありますね。去年がベスト4だったので優勝して、またベルトに挑戦できれば。あとは、パートナーのもかさんとはまた対戦したいです。デビュー戦のタッグパートナーで、ビッグマッチでシングルでも戦って……凄くお世話になっていますし、本当に優しくしてくれる方なので、卒業前にもかさんに『これだけ成長したよ』というのを見てもらいたいですね」

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