松本人志、文春に勝つために必要なのは「女性との人間関係」 元テレ朝社員の弁護士が解説

週刊文春が18日発売の最新号で、ダウンタウン松本人志(60)の性的行為強要疑惑第3弾を報じている。第6、7人目の告白者、アテンド役を務めたとする元芸人の証言内容も詳細に掲載。一方の松本は「裁判に注力するための活動休止」を宣言しているが、実際に提訴すると裁判はどう動くのか。昨年11月、テレビ朝日を退職した西脇亨輔弁護士が週刊文春の「報じ方」を分析し、裁判のポイントを示した。

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】
西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

東大在学中に司法試験合格、アナウンサー、法務部長だった西脇亨輔氏

 週刊文春が18日発売の最新号で、ダウンタウン松本人志(60)の性的行為強要疑惑第3弾を報じている。第6、7人目の告白者、アテンド役を務めたとする元芸人の証言内容も詳細に掲載。一方の松本は「裁判に注力するための活動休止」を宣言しているが、実際に提訴すると裁判はどう動くのか。昨年11月、テレビ朝日を退職した西脇亨輔弁護士が週刊文春の「報じ方」を分析し、裁判のポイントを示した。

 松本氏の性的行為強要疑惑。このニュースを見るたび、私は胸がざわつく。自分が名誉毀損裁判をしていた時の記憶が蘇るからだ。

 私は昨年まで、テレビ局の法務部で名誉毀損訴訟に対応していた。私生活では国際政治学者・三浦瑠麗氏を相手に名誉毀損・プライバシー侵害の訴訟を起こした。その裁判は最高裁まで争って勝訴したが、終わるまでに3年8か月を要した。

 三浦氏宛ての訴状を書いた時のことを思い出し、「自分が松本氏側だったらどんな訴状を書くだろう」と考えながら、週刊文春の記事を読み直してみた。そして、あることに気付いた。

 このニュースについて各メディアに駆け巡っている性的行為の「強要」「強制」という言葉が、週刊文春にはほぼ書かれていないのだ。初回記事に1回、松本氏への記者の質問の中に「ただ不倫だけならともかく、行為を強制したと」とあるだけだ(その後には「ちょっと待ってよ! それは酷いな。無茶苦茶やな」という松本氏の答えが続いている)。

 それを見て思った。「週刊文春は既に裁判の“最初の山場”に備えている」と。

 名誉毀損裁判での論争のポイントは「その記事が真実かどうか」(または「真実でなくても、真実と信じて報じたことが相当といえるくらいにきちんと取材したかどうか」)であることが多い。世間の目も記事が真実かどうかに注がれる。
 
 しかし、名誉毀損裁判での弁護士の闘いは「その前の段階」が、大きなカギを握っている。裁判の最初の山場、それは「その記事は何を書いたものだったのか」(専門用語では「摘示事実」)の認定だ。

 記事が真実かどうかを議論するためには、最初に「記事の内容は何か」を決めなければならない。裁判ではまず、その記事がどんな事実を伝えたのかを一般読者の理解を基準にして確定する。その後、内容が真実かどうかを判断するという順番になる。この時、名誉毀損を訴える側はできるだけ多くの事実が報道されたと主張し、報道機関側の真実の証明を難しくしようする。一方、報道機関側は報道内容を狭く主張し、真実の証明を簡単にしようとする。そのせめぎ合いが、裁判の「最初の山場」なのだ。

 では、週刊文春が報じた内容は何だったのか。

 記事を一言一句読んでいくと、冒頭に書いた通り、性的行為の「強制」「強要」という単語はほぼ出てこない。松本氏が大声を出したり、シャツを無理やり脱がそうとして女性に「迫り」「女性が恐怖を感じた」などと書かれている。

 見出しを見ると、初回記事は「ダウンタウン・松本人志(60)と恐怖の一夜『俺の子ども産めや!』」として、松本氏個人の行為に焦点を当てていた。だが、第2弾では、性の「上納システム」を見出しにしている。そして、「後輩が松本氏のために女性を集め、松本氏はそれを利用して女性と性的行為をし、その際に女性の真意が尊重されていなかった」などと、仕組みの告発を前面に出している。第3弾の記事では、松本氏が調達して欲しい女性のタイプについて「指示書」を作っていたとも報じている。

「裁判での証明を考えて記事を組み立てた可能性が高い」

 とすると、記事の大まかな「摘示事実」は、以下のように整理できる。

(1)松本氏の接待のため、後輩芸人が詳細は説明せずに女性を高級ホテルに集め、「ゲーム」などによって、松本氏と女性が2人きりになるよう仕向けた。

(2)2人きりになると、松本氏は女性に強く迫って性的行為を行った。

(3)その際に女性は恐怖を感じたり、抵抗したりしており、性的行為に真の合意はなかった。

(4)そうした行為は各地で繰り返され、「システム」のようになっていた。

 単に松本氏が女性に性的行為を「強要した」という記事内容だったら、松本氏側も「強要なんかしていない」と反論しやすくなる。だが、「女性が逃げ道のない場を後輩がおぜん立てして作り上げ、松本氏がそれを利用して性的行為をした」ことが中心の記事だと、週刊文春側は、飲み会やゲームといった女性を追い詰める「システム」があったこと、その中で松本氏が「性的行為」を迫り、行ったことを証明すればよくなる。

 2人だけの密室で「強要」があったかどうかよりも、女性が真意を言えない「システム」があったことを主題にする。週刊文春は裁判での証明を考えて記事を組み立てた可能性が高い。私はそう思った。

 では、松本氏側が反論するとしたらどうするか。「そもそも飲み会も、ゲームも、性的行為も存在しない」。そう言えれば“強力な反論”になるだろう。

「飲み会はあったが、性的行為は合意の上だ」。この反論の場合は松本氏側の証拠集めの1つとして、集まりに参加した他の女性達から、その場の様子について証言を集めようとすることが考えられる。松本氏側の主張に沿う事実が出てくれば、大きな証拠になるかもしれない。

 ただ、そうした動きをするには「必要になること」がある。それは男性側と女性側に、今でも「きちんとした人間関係」があることだ。女性側へのアプローチが圧力のようになってはいけない。

 人はモノではないし、性行為は遊びではない。

 松本氏側がこれまで女性側とどう向き合い、どんな関係を築いていたのか。裁判になった場合の行方は、結局はこの点にかかっているのかもしれない。(元テレビ朝日法務部長、西脇亨輔弁護士)

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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