CMディレクターから商業映画監督に 初メガホンの“新人”がいきなり世界デビューできたワケ
古川琴音(27)がホラー映画に初主演した『みなに幸あれ』(1月19日公開)で初メガホンを取ったのは、CMディレクターとして活躍する新鋭・下津優太(33)だ。下津監督は当初、ホラーにあまり興味がなかったそうだが、大きな可能性を感じた。そのワケは?
古川琴音主演『みなに幸あれ』で初メガホンの下津優太監督
古川琴音(27)がホラー映画に初主演した『みなに幸あれ』(1月19日公開)で初メガホンを取ったのは、CMディレクターとして活躍する新鋭・下津優太(33)だ。下津監督は当初、ホラーにあまり興味がなかったそうだが、大きな可能性を感じた。そのワケは?(取材・文=平辻哲也)
下津監督は90年、福岡県北九州市出身の新進のCM、ミュージックビデオ(MV)のディレクター。かねてから映画製作に興味があり、21年にKADOKAWAが主催する「日本ホラー映画大賞」の存在を知って、11分の短編映画を製作。それが見事に大賞を受賞し、Jホラーの巨匠・清水崇氏の総合プロデュースの下、本作での商業映画デビューが決まった。
本作は、大賞受賞作を長編用に企画・開発したもの。九州の田舎に住む祖父母に帰省することになった看護学生の孫(古川琴音)が味わった恐怖体験を描く。その村では、「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」という“法則”を重んじており、祖父母の幸福の裏側には恐ろしいものがあった、という内容だ。
「スタートは都市伝説系のYouTuberの方が言っていた“地球上感情保存の法則”というものです。簡単に言うと、地球上に住む幸せな人と不幸な人を足し合わせると、ゼロになる。それが仮に本当であれば、意図的に不幸な人を作り出せば、自分の幸せになれるのでは、と発想を膨らませていきました」
主演の古川の起用は、監督たっての希望だった。演出では特に指示はしなかったそうだが、脚本以上の期待に応えてくれたという。
「ドラマ、映画でいろんな役をされていますが、『みなに幸あれ』といった雰囲気があります。高い演技力があって、真っ白なキャンパスのような人だと思いました。それがこの映画で、どんどん汚されていく。それが美しくて、いいんじゃないかと思いました。主演をお願いしてから、いろんな大作にも出演される大活躍をされているので、本当にいいタイミングで引き受けてもらうことができました」
幼なじみ役の松大航也以外のメインキャストは、監督の地元・福岡で活躍している俳優を抜てき。観客にはなじみのないキャストたちがなんとも形容しがたい不気味さを醸し出している。「特に、祖母役の犬山良子さんは、演技初挑戦みたいな感じだったので、その素人感をうまく利用しつつやれたのかなと思いました」と手応えを感じている。
穏やかな表情で話す下津監督だが、もともとホラー映画好きだったのか。
「ホラー好きではなかったです。映画を撮らせてもらえるなら、と思って、日本ホラー映画大賞にも応募しました。でも、撮っていくうちに、自分の演出スタイルがホラーに合うんじゃないかと思いました。自分としては、セリフで語らず、映像で見せるというのをやってみたい、と思っていました。それから、清水監督のように海外に出ていきたい、という思いもあったので、ホラーに大きな可能性も感じました」
映画は8つの海外映画祭から招待を受け、7月の韓国・プチョン国際ファンタスティック映画祭では「最優秀アジア映画賞」を受賞したほか、10月には世界的なシッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭のコンペティション部門にも招待され、自身も参加した。
「シッチェス・カタロニアでも反響はすごかったですね。日本や韓国だったら、声を上げにくいような場面でも“ウェーイ”と声が出たりしました。テーマが普遍的なものだったので、スペインでも通じるんだと実感しました。世界配給は台湾とドイツのほかに2つぐらい決まっています」と下津監督。キャリアのない新人監督でも、世界デビューを果たせるのは、Jホラーの旨味かもしれない。現在も次回作のホラーを準備中。90年から00年に世界を席巻したJホラーの復活にも期待がかかる。
□下津優太(しもつ・ゆうた)1990年、福岡県北九州市出身。大学在学時よりテレビ-CMを監督。現在東京にて活動中。CMやMVの企画・監督をする傍ら、短編映画の制作も務める。受賞歴はSpikes Asia 2015:フィルム部門 ブロンズ(2015年)、Spikes Asia 2016:エンターテイメント部門 ブロンズ(2016年)、佐賀広告賞 金賞(2015年・2016 年・2017 年)、東宝主催 ショートホラーフィルムチャレンジ 大賞(2020 年)、第1 回YouTube ホラー映画祭 特別賞(2021年)。2021年、KADOKAWA 主催 日本ホラー映画大賞で大賞を受賞し、『みなに幸あれ』で商業監督デビューを果たす。