「最悪を想像して一瞬目の前が真っ暗に」 女子プロレス界の“悪魔”が緊急搬送された緊迫場面と舞台裏
またもや令和女子プロレスに事件が発生した。震源地はやはりSEAdLINNNG(シードリング)。“悪魔”中島安里紗が救急車で緊急搬送されたのだ。現場にいた記者がこれをレポートする。
警察官への現場検証
またもや令和女子プロレスに事件が発生した。震源地はやはりSEAdLINNNG(シードリング)。“悪魔”中島安里紗が救急車で緊急搬送されたのだ。現場にいた記者がこれをレポートする。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「スリーパーで宙吊りにされた時に、なんか違うな、顔がと思って、これはすぐに行かなきゃと思いましたね」
「(控室では)意識はありましたね。言葉も、大丈夫(みたいな会話は交わした、という意味?)かどうかは分からない。今、検査しているので……」
試合後、Sareeeは緊迫の状況を振り返りながらそうコメントした。
それは11日、東京・新木場1stリングでの試合中に起こった。第2試合で行われたタッグマッチ。開始から5、6分くらい経った頃だろうか。
Sareeeとともに出場し、そこまでは「殺人エルボー」(Sareee命名)を含め、いつも以上に元気はつらつな試合運びを見せていた“悪魔”中島が、試合中にコーナーでロープにはがい絞め状態になったところを、対戦相手の高瀬みゆきが後ろからスリーパーホールド(裸絞め)にとらえる。
映像を確認すると、中島は高瀬の腕のみならず、はがい絞めにされたロープによって、結果的に四方から首を絞められた体勢になっており、そこから約5秒ほどで中島の腕がダランとし、要は失神に近い状態で、カラダから力が抜けるようにその場にしゃがみ込んだ。
冒頭の言葉を借りれば、「なんか違うな、顔が」と異変を察知したSareeeが中島を乗り越えて、高瀬と対峙。その間、中島はそのまま戦闘不能状態でリング下に半ば大の字状態で倒れたまま動けない。そこからSareeeが夏すみれと高瀬の二人を相手に孤軍奮闘。最終的には11分51秒、片エビ固めで夏を仕留めた。
しかし勝利チームであるSareeeのテーマ曲が館内に流れても、リング下に横たわった中島は起き上がれず。試合を終えたばかりのSareeeや南月たいよう代表らが駆け寄ってなにやら話している。中島の目はウツロな感じだった。
「お客様、そのままお席にてお待ちください」
館内にそんなアナウンスがされるなか、「自分が首を押さえてますので……」(南月代表)との声は聞こえたが、それ以上はあまり聞き取れず、首に白いタオルを巻かれた中島は自力で動けないため、数人の手によってタンカに移され、そのまま控室へ。
急遽、会場に休憩のアナウンスが入ったが、関係者から救急車の要請をしている旨が聞こえてきた。
これだけでも異常事態なのに、ほどなくして警察官の姿を確認。どうやら救急車の出動要請は、そのまま警察にも連絡が行くらしい。これに関しては大会が終了し観客が去った後、改めて映像の確認や、救急搬送に至った経緯を含め、現場検証が行われていた。
「アクシデントはプロレスにはつきもの」(Sareee)
結局その後、大会が進行されたが、その裏で中島は救急ストレッチャーに乗せられ、精密検査のため救急車で病院に搬送された。搬送される前の中島は、全身をオレンジ色の毛布に包まれ、アゴと頸椎を固定した状態でストレッチャーに乗せられていた。周囲には、数名の救急隊員とともに、心配そうにこの様子を見つめる、Sareeeや松本浩代、南月代表の姿も確認できる。
「中島、しっかりしろよ」
思わずストレッチャーに乗せられた中島に対し、筆者はそんなことを口走ってしまったが、中島は横になったまま、「すみません。ありがとうございます」と答えた。
中島の意識がしっかりしていることを確認し、多少なりともホッとした。
大会終了後、南月代表を直撃すると、以下のような言葉が返ってきた。
「シードリングらしい2024年のはじまりとなったんですけど、中島がいなかったらできないんじゃないかって思うこともある……。そのSareeeが私が守るとか、今日もプロですよね。あんなアクシデントがあってからの、あんな熱い闘いを見せてくれる選手たちに、改めて支えられていると思いますし、ちょっと今なんとも言えない感じなんですけど、変な受け身とかを取った様子ではなかったので、首から来ているのか、原因が分からないので、憶測になってしまうので何も言えないんですけど、(中島は)試合をしたことは覚えているので、意識のほうは大丈夫かなって感じです。すみません。ご迷惑をおかけしました」
一方、アクシデントながら中島とタッグを組んで闘ったSareeeは、「アクシデントなので。これがプロレスにはつきものだなと改めて思いましたね。まさか“悪魔”がこうなってしまうとは思わなかったですし、今はなんともいえないんですけど、私は今日勝ったので、ホントだったら準決勝進出でしたけど、これはまた二人で(ベルトを)取りに行く。これがあったからこそ、私は絶対に中島とのタッグでベルトを取りにいきたいと思いましたね」と今後につなげる姿勢を表明する。
「本人は強がるかもしれないけど、本人はすごく落ち込むと思うけど、私しか支えてあげられる人はいないんだろうなと。友だちもいないだろうし。なので、私がシードリングのシングルチャンピオンとして、“悪魔”の帰りをこのリングで待ち続けたいと思います」とメッセージを送った。
「私は元気です。大丈夫!」(中島安里紗)
なお、気になる中島の容態だが、日付が変わって、12日の午前0時4分にシードリングが団体のSNSを更新。そこには以下のような記載があった。
「中島安里紗に関してのご報告
2024年1月11日、新木場1stRING大会にて救急搬送された中島安里紗選手の診断の結果について以下にご報告いたします。
検査の結果、脳などに出血、骨折などは認められず、軽微な頸髄損傷の疑いとの診断です。本人の意識ははっきりしており痺れなどはありません。
今後につきましては、念のため数日間の入院による治療、経過の観察が行われます。
会場にお越しいただいた皆様、配信を視聴していただいた皆様、ファンの皆様にご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げますとともに、中島選手の復帰に少々お時間をいただけましたら幸いです。
今後ともSEAdLINNNGへの応援のほど、宜しくお願い申し上げます」
関係者の話では、中島は病院ではCT、MRIの検査も実施され、出血や明らかな骨折はなし。症状は軽微で、今後は首の固定必須なものの、手術の必要はなしとのこと。これ以降はとりあえず1週間ほど入院し、治療・経過の観察を行うという。
また、南月代表は、12日になってからXにて「最悪の事態を想像して一瞬目の前真っ暗になった」とも明かしており、「中島にはしばらくゆっくり休んでもらいます」「医師のGOが出ない限り復帰はさせませんので、ご安心ください」との声明を発表していることから、今回の件を決して軽く考えていないことが読み取れる。
そしてこの日になってから中島の件を知ったファンがSNSに数多く見解を発したことで、Xに関してはSEAdLINNNGがトレンドに入った。皮肉なものだが、それが人前に出るということでもある。
そう思っていたら、正午を回った午後0時54分に、中島のXが更新され、本人のコメントが公開された。
「昨日は #SEAdLINNNG 2024年開幕戦にご来場、また配信でのご視聴ありがとうございました!! そしてご心配、ご迷惑をおかけしており本当に申し訳ありません。私は元気です。大丈夫! この機会にプロとして、今一度自分をしっかり見つめ直します。必ず強くなって戻る。待っていて下さい!!」
ひとまずは不幸中の幸いだったことだけは分かったが、令和女子プロレス界で“悪魔”とまで呼ばれた中島が、そう簡単に職場放棄を続けるはずがないとは思いつつ、改めて“悪魔”的とも呼べる、想像のはるか上を行く手法を用いて、人々を惑わせることも確認できた。
ともあれ、今は1日でも早く退院し、体調を万全にした上で、さらに磨きのかかった「殺人エルボー」を対戦相手の胸板に叩き込んでもらいたい。
最後に、Sareeeがリング上で発した、“悪魔”中島に呼びかけた言葉を記述する。
「悪魔~! いやー(とため息)。こんなんじゃへこたれないよね、悪魔! 私がシードリングのチャンピオンとしてこのリング、守ってやるから、安心して、休んで帰ってこいよ!」