家族の普遍的な葛藤を描く映画「長いお別れ」は2019年を代表する1本
「東京物語」を彷彿とさせる物語…山崎努、竹内結子、蒼井優、松原智恵子ら出演
認知症は介護する側に大きな負担がのしかかる。しかも、介護者は、自身も年老いて体に問題を抱える配偶者や、まだ子育てに追われる子どもたちだ。妻・曜子は、娘たちに助けを求める。だが、2人の娘たちは自分自身のことで精一杯。麻里は夫の転勤で慣れないアメリカ暮らし。英語もままならぬ中、二人の息子を育てている。一方の芙美はカフェを開く夢も恋愛もうまくいっていない。こんな状況を、どこかで観たなと思いきや、小津安二郎監督の「東京物語」だった。
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1953年に公開された名作は、広島・尾道で静かに暮らす老夫婦(笠智衆、東山千栄子)が久しぶりに子どもたちの元気な姿を見たいと思いたち、上京する物語。ところが、長女は美容院の経営、長男は町医者で大忙しで、構うこともできず、老夫婦は熱海の温泉旅行に出されてしまう。かいがいしく面倒をみるのは、戦死した次男の嫁(原節子)だ。
“親は、子どもたちの顔を見たかっただけなのに、冷たい子どもたちだな”と昔は思ったものだが、冷静に見れば、子どもたちは冷たいわけではない。面倒をみたくても、時間がないだけ。そんな家族をめぐる状況は、この名作から65年以上も経った今も変わりがない。だからこそ、「東京物語」は今も世界中の人々の心を打つのだろう。
この「長いお別れ」にも、普遍のドラマがある。さらに病気の深刻さの中にも、病気を超えた親子の情愛、ユーモアもある。特に、次女が、自身の不安や悩みを父に吐露するシーンはグッとくる。原作の設定は10年間で三姉妹だが、映画では7年間で二人姉妹。中野監督は、基本的なストーリーラインや構成は保ち、原作の良さを出しながらも、省略できる部分はカットし、“中野ワールド”に仕上げた。
何より素晴らしいのは、目には見えない時間の流れをしっかりと描いていることだ。これは、映画が長く感じるということではない。7年という年月の中、家族が何を失い、何を得たのかを、2時間7分の中でしっかり描いている。観終わった後は、誰もが親と話したくなるはずだ。
5月31日公開