「滑走路誤進入」過去事例を分析 大半はヒューマンエラーで発生…衝突防いだ最後のとりでは「ゴーアラウンド」
2日に羽田空港で発生した、日本航空(JAL)516便と海上保安庁機の衝突事故は、事故原因をめぐって管制記録の公開・検証が始まっている。事故の直接の原因は、同一の滑走路にJAL機と海保機が同時に進入したためと推認され、管制記録の分析と当事者の聞き取りが今後さらに進められるものとみられる。こうした「滑走路誤進入」の過去の記録を調べてみると、ヒューマンエラーによる“ヒヤリハット”の事案が起きていたことが改めて明らかになった。
管制と海保機長証言に食い違い
2日に羽田空港で発生した、日本航空(JAL)516便と海上保安庁機の衝突事故は、事故原因をめぐって管制記録の公開・検証が始まっている。事故の直接の原因は、同一の滑走路にJAL機と海保機が同時に進入したためと推認され、管制記録の分析と当事者の聞き取りが今後さらに進められるものとみられる。こうした「滑走路誤進入」の過去の記録を調べてみると、ヒューマンエラーによる“ヒヤリハット”の事案が起きていたことが改めて明らかになった。(取材・文=大宮高史)
事故では炎上したJAL機から乗客367人、乗員12人が全員脱出した一方で、海保機乗員5人が死亡した。
3日に管制と事故機の交信記録が公開され、国交省は海保機に滑走路への進入許可が出ていなかったと明かした。空港管制はJAL516便に対しては滑走路への着陸許可を出しており、516便(エアバスA350)の乗員は着陸許可を復唱して着陸を試みたと、JALの聞き取り調査に答えている。脱出した海保機機長は管制より離陸許可が出たと認識していたと報じられているが、何らかの原因でJAL516便の着陸許可が出ていた滑走路に、海保機が進入したことが衝突につながったとみられる。
公開された管制と当該機の交信記録では、午後5時43分2秒に管制がJAL516便へ滑走路への進入許可と天候を伝え、516便は指示を復唱。45分11秒に管制は海保機(JA722A)に、(滑走路手前のC5誘導路にある)C5上の滑走路停止位置まで地上走行の指示を出し、海保機は「滑走路停止位置C5に向かう」と返答している。
本事故で衝突した原因は調査中だが、こうした「滑走路誤進入」は、航空重大インシデントとして発生するたびに、運輸安全委員会の調査がなされている。同委員会のサイトでは報告書を調べることができ、2007年から22年までの16年間で32件が記録されている。小型機同士のものや、航空機ではなく車両が進入した事例もあるが、中~大型民間機が絡む主なものでも2010年代には以下7件が発生している。
○19年7月21日 那覇空港で日本トランスオーシャン航空機(ボーイング737-800)が着陸予定の滑走路にアシアナ航空機171便(エアバスA321)が誤進入
○17年2月14日 成田空港でタイ・エアアジアX607便(エアバスA330)が誘導路停止線を越えてチャイナエアライン機(エアバスA330)が着陸予定の滑走路に進入
○13年9月10日 関西国際空港でANA141便(ボーイング767)への着陸許可が出ていた滑走路に朝日航洋のベル430型ヘリコプターが進入
○12年7月8日 福岡空港で日本エアコミューター3635便(ボンバルディアDHC-8型)が、セスナ172型機が着陸予定の滑走路に誤進入
○12年7月5日 那覇空港で中国東方航空2046便(エアバスA319)が滑走路手前の待機線を越え、試験運行中のエアアジア・ジャパンのエアバスA320が進入中の滑走路へ進出
○11年10月12日 関西国際空港を離陸予定のハワイアン航空450便(ボーイング767)が、管制官の待機指示を誤認してANA貨物便(ボーイング767)への着陸許可が出ていた滑走路に進入
○10年12月26日 福岡空港でエアプサン141便(ボーイング737-400)が滑走路待機指示を誤認し、JAL3530便(JALエクスプレス所属ボーイング737-400)への着陸許可が出ていた滑走路に進入
いずれの事例でも、出発機側の滑走路進入に気づいた管制官が着陸機に着陸をやり直す「着陸復行」(ゴーアラウンド)を指示し、衝突は回避されている。出発機が誘導路を越えて滑走路に入った経緯は報告書で分析されているが、いずれも交信の過程でのヒューマンエラーによるものと指摘されている。発生時間帯は昼間のものが多いものの、17年2月14日の成田空港と、11年10月12日の関西国際空港の事例のように夜間帯でも起きている。
JAL516便と海保機が衝突に至るまでに、管制と乗員がどのような認識を持っていたか、また管制・JAL機とも海保機の滑走路進入に気づかないまま着陸に至った経緯を調べることが、事故原因の突き止めと再発防止の鍵になるものと考えられる。