勘九郎の長男、次男に「教えられた」 宮藤官九郎新作歌舞伎で伸び伸び 七之助が明かす稽古場
歌舞伎俳優の中村七之助らが出演し、脚本家の宮藤官九郎氏が手がけた平成中村座『唐茄子屋 不思議国之若旦那(とうなすや ふしぎのくにのわかだんな)』が、5日からシネマ歌舞伎として全国の映画館で公開される。公開を前に七之助に、宮藤氏の演出や成長し続けるおいっ子への思いなどを聞いた。
宮藤官九郎作品の魅力「『もしかたら、こういう人いるかもしれないな』と思わせる」
歌舞伎俳優の中村七之助らが出演し、脚本家の宮藤官九郎氏が手がけた平成中村座『唐茄子屋 不思議国之若旦那(とうなすや ふしぎのくにのわかだんな)』が、5日からシネマ歌舞伎として全国の映画館で公開される。公開を前に七之助に、宮藤氏の演出や成長し続けるおいっ子への思いなどを聞いた。(取材・文=コティマム)
同作は、2022年10、11月に東京・浅草でコロナ禍以降4年ぶりに公演された平成中村座の演目。平成中村座は七之助と兄・中村勘九郎の父親で、12年に亡くなった十八世中村勘三郎が00年に立ち上げた舞台だ。江戸時代の芝居小屋を現代に復活させ、舞台と客席が一体となった空間で観劇することができる。これまで平成中村座では古典作品が多く上演されてきたが、『唐茄子屋 不思議国之若旦那』は宮藤氏の作・演出による新作歌舞伎。古典落語の『唐茄子屋政談』に『不思議の国のアリス』をまぜたような奇想天外な物語になっている。
吉原遊びが過ぎ勘当されてしまった若旦那・徳三郎(勘九郎)が、浅草の吾妻橋から身投げしようとしたところを八百屋のおじ(荒川良々)に助けられ、唐茄子(かぼちゃ)を売って銭を稼ぐことに。大工の熊(中村獅童)に助けられながら唐茄子をすべて売り切った徳三郎だが、吉原の遊女・桜坂(七之助)にそっくりな貧しい人妻・お仲(七之助)に出会い、売上金をすべて渡してしまう。徳三郎が途方に暮れていると、吉原田んぼに住むカエルのゲゲコ(片岡亀蔵)とゲコミ(中村扇雀)、あめんぼ(荒川)が現れ、徳三郎を吉原大門とは別の“吉原小門”に誘う。小門を潜り抜けた徳三郎は子どもの姿“ミニ若旦那”になっており、そこにはパラレルワールドの“第二吉原”が……という不思議なストーリー。劇中には『唐茄子屋政談』のほかに、『大工調べ』や『十八檀林』、お色気噺(艶笑噺)『鈴ふり』といった落語作品の要素が取り入れられている。
――『唐茄子屋政談』をベースに、いろいろな落語が入っています。さらに『不思議の国のアリス』の要素が入る演出を宮藤さんから聞いた時の印象は。
「宮藤さんの作品、脚本の力を疑っていないので、最初に聞いた時は『おもちゃ箱みたいな頭の中だなぁ』と思って、どうなるのかワクワクしてました。(内容に)心配はしてませんでした。まあ、最初やったのはゾンビでしたから(笑)」
宮藤氏はこれまでにも、シネマ歌舞伎になった歌舞伎座公演『大江戸りびんぐでっど』(2009年)をはじめ、渋谷・コクーン歌舞伎『天日坊』(12年、22年)、六本木歌舞伎『地球投五郎宇宙荒事』(15年)と歌舞伎作品を手掛けている。七之助が出演した『大江戸りびんぐでっど』は、江戸時代に現れた”ぞんび”が人間の代わりに派遣社員として働くという奇抜なアイデアで話題となった。
――宮藤さんの演出について。
「(ゾンビをやっているので)もう何が来ても! 落語と聞いて、『あっ、ちょっとまともだな』と思ったくらいです(笑)。ただ、自分で切り開いていかないと(宮藤氏は)付け加えてくれたりすることはほとんどないですから。型にハマったら何も言われません。『ここをこうしてください』とかはないので、ある意味、厳しいですね。自分で考えて自分で発信すると、宮藤さんも面白がって、『よしっ。ここをこうしよう』とイマジネーションが湧く。やはり、『大人計画』という劇団のすごさを感じましたね。俳優が考えて宮藤さんのイマジネーションが乗っかって、ああいうものができている」
――宮藤作品の魅力は。
「『こんなことないだろ!』と思っても、『もしかたら、こういう人いるかもしれないな』と思わせる。特に最近の宮藤さんの作品は神がかっている。(能とプロレスを掛け合わせた)『俺の家の話』や、(離婚したいのに生活を続ける夫婦を描いた)『離婚しようよ』も、全部おもしろかった。同じ脚本家が書いていると思えない。それでいて、宮藤さんのワールドにちょっとずつ入っていく。これは唯一無二。(野球チームと怪盗団の裏表生活を描く)『木更津キャッツアイ』もそうですけど、ああいう人、どこかに絶対いそうじゃないですか。実際はいないけど。でも、実際にああいう人がいたら怖い。でも、『どっかにいるだろう』と思わせてくれる魅力はすごい。今回の『唐茄子屋』は江戸時代の話ですけど、若旦那みたいな人も現代にいそうじゃないですか。でも『本当にいたらこわい。これがすごいな』といつも思います」
おいっ子・勘太郎&長三郎の成長に“叔父バカ”「あの2人に教えられました」
今作には、兄・勘九郎の長男・中村勘太郎と次男・中村長三郎が出演。若旦那が吉原小門をくぐった後の姿“ミニ若旦那”と“ミニミニ若旦那”を演じている。
――叔父目線でおいっ子さんたちの演技はいかがですか。
「僕が一番稽古場でビックリしたのがこの2人。これは“叔父バカ”ではなく、ちゃんとした俳優という目線で見た時に、吸収力の高さと柔軟性を感じました。例えば、『これをしてください』とか、『これをしなきゃといけないよ』という指導は全くしていません。立廻りの形は兄が教えていますが、芝居に関して『こういう目線で』とか『こういうトーンでセリフを言って』とか指導することはほとんどなかったです」
――優秀ですね。
「宮藤さんもすごく面白がって、長三郎なんかは自由奔放にやってました。長三郎のところだけどんどん演出がふくらんでいく。他の大人たちのところは、だいたいのベースがあって、それをちゃんとやっていくけど、長三郎は作ったらバーッと壊して、新しいことをしていく。『ちょっとこうやって、こうしてみよう』と宮藤さんの演出がどんどん増えていったのは長三郎。これは『すごいな』と思ったし、ビックリしました」
――ご自身の幼い頃と比べていかがですか。
「僕たちが小さい頃とは違う。稽古場って恥ずかしいんですよ。若い時に(劇作家で演出家の)野田秀樹さんの作品とかに出ていた時は、『自由に何かやってくれ』と言われるのが一番恥ずかしかった。『稽古場で恥かかなきゃダメ』とすごく言われましたけど。勘太郎と長三郎からは、あまり恥ずかしさは感じられなかったですね。毎日楽しそうで。稽古というより、言葉は悪いかもしれませんが『遊びの延長』というか。理想ですね。『稽古場はいろいろチャレンジするものだよ』とあの2人に教えられましたね」
□中村七之助 1983年5月18日、東京都生まれ。86年9月、歌舞伎座『檻』の祭りの子勘吉で波野隆行の名で初お目見得。87年1月、歌舞伎座『門出二人桃太郎』の弟の桃太郎で二代目中村七之助を名乗って初舞台。2013年、読売演劇大賞の杉村春子賞を受賞、15年、松尾芸能賞新人賞、第1回森光子の奨励賞を兄の中村勘九郎と受賞。