ネット予約もなぜ券売機に並ぶ? 日本の鉄道、「QRコード決済」が遅れたガラパゴス事情
鉄道でもチケットレス乗車が珍しくなくなってきた昨今。ただし、思わぬところで乗車に手間がかかり、チケットレスのメリットが相殺されてしまう事例も。予約から乗車まで、すべてがスマホ上で完結する完全チケットレス化が全国に普及するのは、まだまだ途上のようだ。
ネット予約しても紙の切符の発券が必要 ICカードやモバイルアプリの導入が先行
鉄道でもチケットレス乗車が珍しくなくなってきた昨今。ただし、思わぬところで乗車に手間がかかり、チケットレスのメリットが相殺されてしまう事例も。予約から乗車まで、すべてがスマホ上で完結する完全チケットレス化が全国に普及するのは、まだまだ途上のようだ。(取材・文=大宮高史)
JR九州のターミナルの博多駅では昨今、繁忙期になると切符売り場の長蛇の列に悩まされるようになった。単に切符を買い求める利用者に加えて、ネット予約した切符を発券する層も券売機に並ぶ必要があるためだ。
同社のインターネット予約では山陽・九州・西九州新幹線とJR九州・JR西日本の特急の予約が可能だが、乗車前に紙の切符を発券しておかなければならない。ところが、九州島内でも発券のためのみどりの窓口や指定席券売機がある駅が限られている実情がある。特にJR九州はみどりの窓口の営業時間を縮小しつつあり、福岡市内でも夜の7時に営業終了してしまう駅が多い。繁忙期には営業時間を拡大して対応にあたっている。
せっかくネット予約しても、紙の切符の発券に手間を取られていてはチケットレスのメリットがなくなってしまう。九州での完全チケットレス乗車は、2024年度から始まる、九州内完結の列車を対象にしたQRコード乗車システムの実施まで待たなければならない。
そもそも、現在の日本のチケットレスサービスは、鉄道においてはやや特殊な形態の発展を遂げてきた。
スマホや紙でQRコードを改札機にかざして乗車するシステムは、ヨーロッパでもアジアでも浸透しているが、日本では立ち遅れていた。2020年にJR東日本がQR乗車券の実証実験を行い、22年からは近鉄が企画乗車券のQRコード利用を開始した。24年からは関西大手私鉄5社と大阪メトロがQRコードを活用したデジタル乗車券サービスの導入を始める。
2020年代になるまでQRコード乗車が浸透しなかったのは、「交通系ICカード」が鉄道を越えた生活インフラとして浸透しきっているのも一因だ。JR東日本がSuicaを01年に導入して以来、全国のJR・私鉄で相互利用が進み、電子マネー機能も定着した。
Suicaのほか、PASMO・ICOCAはモバイルアプリにも進歩したため、スマホ利用での鉄道乗車はモバイルアプリ対応が優先されてきたが、特急・新幹線のチケットレス乗車もこれらモバイルアプリや、交通系ICカードにひもづけての利用が進んでいた。東海道・山陽新幹線のスマートEXも、交通系ICカードを改札にかざして通過して使うことができる。
ただし、ほとんどのシステムではすでに持っているICカードをスマホにひもづけるか、モバイルICへの登録が必要だ。これではスマホとは別にカードが必要な局面も残り、チケットレスというよりは紙の切符がいらない「ペーパーレス」になっただけ、ともいえる。
そこで、白羽の矢を立てたのが、QRコード決済だ。予約から発券、改札を通過して乗車するまでをすべてネット上で完結させてしまう「完全チケットレス化」の普及に大きく貢献できる可能性があり、2025年の大阪・関西万博を目指して鉄道事業者側も導入に本腰を入れ始めた。
都市部ではクレジットカードやスマートウォッチのタッチ決済の導入も始まっている。紙の切符からICカードの時代を経て、鉄道の乗り方は新しい段階に入ろうとしている。