紅ゆずる、舞台で繰り出すアドリブの極意とは「必要な準備…好き勝手にやると危険」
元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるが、舞台『詩楽劇「沙羅の光」~源氏物語より~』(東京国際フォーラム、来年1月3~7日)で光源氏役に挑む。宝塚退団後、舞台では初の男役を演じる紅。持ち前の明るさで快活にインタビューに答える中、役になりきる面白さや俳優として大切にしていることなどを語った。
舞台『詩楽劇「沙羅の光」~源氏物語より~』に出演
元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるが、舞台『詩楽劇「沙羅の光」~源氏物語より~』(東京国際フォーラム、来年1月3~7日)で光源氏役に挑む。宝塚退団後、舞台では初の男役を演じる紅。持ち前の明るさで快活にインタビューに答える中、役になりきる面白さや俳優として大切にしていることなどを語った。(取材・文=大宮高史)
シャープな二枚目男役にして、話し出すと止まらないマシンガントーク。昨今、紅は軽妙な関西弁を生かし、地上波バラエティー番組にも出演してきた。そして、年が明けると久しぶりの男性役。抱負を聞くと、意表を突くコメントを発した。
「光源氏って、人のことを洗脳するのが得意そうですね」
続けて、その理由を語った。
「どんな女性でも虜にしてしまう。全く光源氏を好きでなかった人まで、彼に病みつきにさせるほどの接し方ができる。頭の中を光源氏でいっぱいにしてしまえるって、『魔性の人』だなと原典を読んで思っていました。そういう人物を演じてみたいという気持ちはあって、今回の光源氏がまさしくぴったりでしたね。この私なりの解釈を演出・振付の尾上菊之丞さんにもぶつけながら舞台を作っていきます」
紅が、光源氏を分析して見つけたキーワードは「愛情」だ。
「美しい人だから許されていますけど、女性に対してやっていることはひどい(笑)。でも、幼い頃に母を亡くして、親からの愛情不足のまま他者に接してしまう、屈折したままの性格になったのかなと思います。そうでないと母そっくりの藤壺にはじまり、十何人もの女性と関係を持って、しかも、憎まれないなんて無理です。私が宝塚時代に演じた『うたかたの恋』のルドルフにも似ていますね」
「ルドルフ」とは、貴族令嬢と心中してしまう実在したオーストリア帝国皇太子の役だ。
「机の上に友達みたいにしゃれこうべを置いて、お母さんのエリザベートには放ったらかしにされて、お父さんの皇帝には愛人がいて…。母親の愛情が足りなかったところは光源氏のようでした。貴公子ですけど、『綺麗な花をめでる心なんて絶対持っていない人だろうな』と考えて、歪んだ闇を抱えた青年として彼の人物像を作ってみたんです。そういう彼なりの行動原理をお芝居の中に込められたのが、演じる醍醐味のひとつでした」
想像力が豊かなのは子どもの頃から「宇宙の本ばかり読んでいた」
宝塚時代に好きだった役への思い入れは深く、話すスピードはさらに速くなった。
「『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のフランク・アバグネイル・Jrは好きでしたね。親に反抗して詐欺師になって、FBIのカールに追いかけられるうちに彼とは人生の相棒のような関係になったりと波乱万丈で。もう1度やってみたいけど男役や(笑)。『霧深いエルベのほとり』のカール・シュナイダーは寅さんのように男女の愛に不器用な人間で…作品ごとに演じる役の解釈を試みるのが楽しいんです」
想像力が豊かなのは、子どもの頃からだったようだ。
「絵本が好きだったのと宇宙にすごく興味があって、宇宙の本ばかり読んでいたんですよ。土星の『輪』が気になって、物語を書き始めて月の長老とか織姫や彦星も登場させたり。あげく、好きでテレビで見ていた『仮面ライダー』のショッカーまでその小説の中に出しましたね(笑)。小学生の時、作文で賞をもらったこともありましたし、フィクションを想像するのは好きだったんでしょうね」
それなら、脚本や劇作の道も開けてくるだろうが、紅は「全然、無理です(笑)。できる方を尊敬します」と即答した。
「脚本や演出は、ストーリーや全人物のバックグラウンドまでアイデアをめぐらせるのが仕事ですが、私は演じる人物に特化して、その人の世界観というか、人生観やものの見方を突き詰めていくことが習慣なんです。だから、役替わり公演で違う役をやれば、演じた数だけその役から見える物語が想像できます。もし、光源氏ではなく紫の上をやるとなったら、紫の上から見た源氏物語の世界を考えてしまいますね」
絵本好きだった幼少期のことを聞くと、「弟が絵本を読んで想像をめぐらせている様子を横から見ていて、『この子にはこんな風に物語が見えているんだな』と知れるのが楽しかったです」と明かした。架空の人物や他者の視点になりきっての想像力も、俳優・紅ゆずるの土台になっているようだ。
紅は自由なアドリブで客席を沸かせてきた。そんなコメディエンヌぶりも強みだが、それらは準備と状況判断があってのことだった。
「宝塚の舞台って転換も速くて、演者が好き勝手やってしまうとすごく危険なんです。だから、アドリブを入れる時はスタッフさんや共演者に必ず事前に言って、進行を乱さないようにしていました。『セットが動かない!』のように、突発的に舞台の上で何か起きた時にアドリブには自信があるんです。でも、笑いを取るためだけに無理に盛り上げたり、そういう役割を期待されるのも好きではないんですね。笑わせるだけが役者の仕事ではなくて、実際に今春の『ホロー荘の殺人』のようなシリアスな作品もやりがいを持って演じてきました」
テレビではMBS『ちちんぷいぷい』で、“そっくりさん”として、ファーストサマーウイカと共演したことがある。「話し方までそっくりで姉妹みたいとよく言われます」。今年は、日テレプラス・ひかりTVのドラマ『俳句先輩』に主演した。
「演劇はみっちり稽古を重ねての本番なので、仮にアドリブが来ても予測範囲内なんです。ところが、テレビでは台本はあってもどんなアクションが私の目の前で起きるか全く予測できないので、瞬発力と反射神経が試されますね。その上で『どれだけ私に興味を持ってもらえるか』と考えて、毎回が勝負です。『俳句先輩』の続編もお待ちしています!」
2024年。活躍の場はさらに広がりそうだ。
□紅ゆずる(くれない・ゆずる)大阪府出身。2002年に宝塚歌劇団に88期生として入団。16年に星組トップスターに就任し、19年に退団。21年8月にミュージカル『エニシング・ゴーズ』に主演。22年に『アンタッチャブル・ビューティー~浪花探偵狂騒曲~』、今年は舞台『ホロー荘の殺人』『NOISES OFF』に出演し、日テレプラス・ひかりTV『俳句先輩』でドラマ初主演。173センチ。血液型A。
ヘアメイク:miura(Juoer)
スタイリスト:鈴木仁美