路線バス運転手から「制帽」が消える納得の理由 「自由化」の流れが加速…コスト削減も
路線バス運転手のトレードマークである「制服」に静かな変化が生じている。制帽を廃止し、毎年厳しさを増す夏の暑さに対応してクールビズが定着している。ネクタイと帽子をしっかりと着用した姿だけがバスドライバーではなくなってきているようだ。
脱帽乗務を2020年代に認めつつある首都圏大手バス
路線バス運転手のトレードマークである「制服」に静かな変化が生じている。制帽を廃止し、毎年厳しさを増す夏の暑さに対応してクールビズが定着している。ネクタイと帽子をしっかりと着用した姿だけがバスドライバーではなくなってきているようだ。(取材・文=大宮高史)
東京都内の足・都営バスは、今年、気候が涼しくなった11月以降も運転手の制帽着用は任意で、多くのドライバーは制服のみで乗務している。東京都交通局では従来、夏季に脱帽乗務を認めていたが、2023年度は冬季も継続。「乗務員の制帽着用は、気候等に応じて任意とする期間を設けてきました。期間は年度によって変えていますが、23年度は脱帽乗務を継続中です」と交通局の担当者は取材に答えている。
バス業界では乗務員の熱中症対策として、夏季に脱帽乗務を認める事業者が多かったが、2020年代になると夏だけでなく通年で制帽を廃止、もしくは着用を任意とする事業者が増え続けている。横浜市交通局では22年4月1日から市営バス乗務員の制帽を廃止し、1年を通して運転手は制帽のない服装で乗務するようになった。政令指定都市の公営バス事業者として初めての試みで、「新型コロナウイルスの影響や地球温暖化の過程で、脱炭素に向けた取組みも重要となっています。こうした状況を踏まえ、環境負荷の軽減等の観点からバス乗務員の制帽を廃止することとします」と同局は制帽廃止時の公式発表で説明している。
民間大手バスでも小田急バスが21年1月1日から制帽を廃止、東急バスは22年1月より乗務員の制帽着用を任意としている。地方でも長電バス(23年7月1日より)、上田バス、宇和島自動車、伊予鉄バス等が制帽を廃止している。
制帽廃止の理由に多くの事業者が挙げているのが、環境負荷の軽減と気候変動。直射日光にさらされるバスの運転席で運転手の体感温度は高く、脱帽乗務で頭が蒸れないようにすることができ、制帽そのものを制服からなくせば会社の制服にかけるコストも削減できる。クールビスが定着してビジネスファッションが多様化したこともあり、小田急バスに至っては通年でネクタイを廃止した。
他方で、夏季を含めて制帽着用を継続している事業者も残っていて、京都市交通局、名古屋市交通局、京王バス、神奈川中央交通等は1年を通じて制帽を着用して乗務している。京王バスは自社乗務員の制服着用ルールについては「輸送業と乗客サービスの両立のために制服・制帽の着用を就業規則で定めており、(制帽の着用は)お客様にバス乗務員であることを明示的に見せる目的も有しています」と取材に答えている。制服の規定を変更する予定はないという。
もともと、海外の路線バスでは私服で乗務したり、制帽そのものがないことは珍しくない。コロナ以降の回復途上にあるバス業界では、制服にかけるコストも削減したい。子どもやファンには格好いいバス運転手の象徴でもあった制服・制帽だが、乗務員目線での執務環境改善も当面の課題であるようだ。