前澤友作氏との宇宙旅行は「忙しかった」 ISSに滞在したもう1人の民間人が語る舞台裏

実業家の前澤友作氏の宇宙旅行に密着したドキュメンタリー映画『僕が宇宙に行った理由』が12月29日に公開される。同作で監督を務めたのが宇宙旅行に同行した平野陽三氏(38)だ。普段は前澤氏のマネジメントなどを担当する平野氏。前澤氏とともに過酷なトレーニングなどを乗り越え、2021年12月の宇宙旅行を実現させた。地球への帰還から2年たった今、どういった思いを抱いているのだろうか。

映画『僕が宇宙に行った理由』監督の平野陽三氏【写真:ENCOUNT編集部】
映画『僕が宇宙に行った理由』監督の平野陽三氏【写真:ENCOUNT編集部】

平野氏が映画を通して伝えたいコト「地球は1つ」

 実業家の前澤友作氏の宇宙旅行に密着したドキュメンタリー映画『僕が宇宙に行った理由』が12月29日に公開される。同作で監督を務めたのが宇宙旅行に同行した平野陽三氏(38)だ。普段は前澤氏のマネジメントなどを担当する平野氏。前澤氏とともに過酷なトレーニングなどを乗り越え、2021年12月の宇宙旅行を実現させた。地球への帰還から2年たった今、どういった思いを抱いているのだろうか。(取材・文=中村彰洋)

 本作は、前澤氏による日本の民間人として初めてとなるISS滞在の12日間やそこにいたるまでに密着したドキュメンタリー映画。ここでしか見ることのできない貴重な映像の数々が収められている。この映像を撮影したのが、前澤氏とともに宇宙旅行に同行した平野氏だ。

 20年末に、バックアップクルー(実際に宇宙に行く予定の宇宙飛行士が行けなくなった場合の予備クルー)に選ばれたが、当初の役割は、前澤氏の宇宙滞在を地上からサポートするチームの一員。自分が宇宙へ行く訓練をすることになるとは夢にも思っていなかった。

「バックアップクルーを決定する期限が迫る中、その2席がずっと空いたままでした。前澤さんに『バックアップどうするんですか?』と確認しても全然決めてくれなくて(笑)。チーム構成的に、『もう僕と小木曽(詢氏)しかいない』みたいな雰囲気になり、腹をくくりました。最終的には、特に何の相談もなく暗黙の了解で選ばれていましたね(笑)」

 バックアップクルーはプライムクルーと同様の検査や訓練を行い、宇宙飛行へ備える立場。「身の危険や怖いという不安はなかったのですが、(前澤氏を)サポートしきれるかなという不安はありました」と当時を振り返った。

 その後、紆余(うよ)曲折の末に平野氏はプライムクルーとして、前澤氏とともに宇宙へ行くことが決まった。当初は映画化する予定はなく、宇宙からの帰還後に決まったという。

 とはいえ、記録用として映像の撮影を行っていた平野氏。ISSではYouTube収録や取材のセッティング、その他もろもろのタスクであふれていた。「2人しか行けないので、自然と役割が決まっていましたね。1人は被写体なので、そうすると全てをやらないといけない。想像していた以上に忙しかったです」と激動の宇宙での日々を思い返す。

 元々、映像監督の夢を持っていた平野氏。映画化については、「僕が言い出しっぺなんです」と前澤氏に直訴して実現させたものと明かす。「帰還して2か月後に、ロシアとウクライナの問題が起こりました。このタイミングだからこそ何か残したいと思い、決断しました」。

 作品を通して伝えたいことは、「地球は1つ。国境線はない」――。平野氏が宇宙から地球を見て感じた素直な思いだった。

「宇宙から地球を見たとき、地球の美しさの前に、憎しみや争いといった感情なんてものは出てきませんでした。宇宙から地球を俯瞰することが平和と何かしら結びつくものがあるんじゃないかなと思ったんです。平和へのアプローチがこの映画の1つのテーマとなっています」

宇宙船内で写真を撮影する平野陽三氏【写真:(C)映画『僕が宇宙に行った理由』制作委員会」】
宇宙船内で写真を撮影する平野陽三氏【写真:(C)映画『僕が宇宙に行った理由』制作委員会」】

苦楽をともにした小木曽氏からの粋なプレゼント「感動しましたね」

 作中には、前澤氏と平野氏のほかにバックアップクルーとしての責務を全うした小木曽氏も登場する。小木曽氏は宇宙へ行く可能性がほぼ0%の中、検査をパスするために鼻の手術をするなど、過酷なトレーニングを一緒に乗り越えたかけがえのない仲間だった。

 宇宙船打ち上げの直前、そんな盟友から“粋”なサプライズが用意されていたという。

「宇宙船に乗り込んで、打ち上げまでの待機時間が2時間ありました。1時間で準備が終わる予定で、残りの1時間は予備の時間でした。その時間に余裕ができたら、自分の好きな音楽を聴けることになっていたので、選曲を小木曽に任せていたんです。

 当日はそんなこと忘れちゃっていたのですが、急に船内の音が切り替わってラジオが始まったんです。DJがいて、僕らの身内だったり、大切な人たちからのコメントをお便り風に読んでくれて、その人たちが選んでくれた曲が順番に流れたんです。こんな忙しい中、僕らに気付かれずにこんな作業してたのかと感動しましたね」

 前澤氏が体調不良になった場合は、平野氏と小木曽氏の2人でISSに行く可能性すらもあった。「誰も得しないですよね」と笑いながらも、「前澤さんは、何かあるたびに『これ、小木曽に見せてやりたいな』って言ってましたね」と3人の固い絆を明かした。

 ISSで国籍問わず活躍する宇宙飛行士たちの姿に胸を打たれ、宇宙を体感したことで、自身の考え方に変化も生じた。

「人間の本質が変わったかと言われるとそこまでの変化は正直ないです。ただ、宇宙飛行士の皆さんに触れて、もっと真っ当な人間になりたいなと思ったんです。皆さんとてもジェントルで、これまでも真っ当に生きてきたつもりではあるんですけど、こういう人格者になれるように心豊かに生きていきたいと思うようになりましたね」

□平野陽三(ひらの・ようぞう)1985年10月9日、愛媛県生まれ。2007年にスタートトゥデイ入社。退社後に映像プロダクション、独立を経て、2018年に前澤氏と再合流。23年12月29日公開の映画『僕が宇宙に行った理由』で長年の夢だった映画監督デビューを飾る。

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