ボクシングで夢破れ大学中退→MMA転向から6連勝 快進撃続ける24歳・松井斗輝を後押しした朝倉未来の言葉
6戦無敗の若手有望株・松井斗輝(24=パラエストラ柏)は24日に開催される格闘技イベント「PANCRASE 340」(神奈川・横浜武道館)に出場しIMMAF世界王者であるムハンマド・サロハイディノフ(タジキスタン)と対戦する。試合中にニヤリと見せる笑顔が印象的な松井とはどんな人物なのか。次戦への意気込みとともに話を聞いた。
パンクラスフライ級で現在8位の松井斗輝
6戦無敗の若手有望株・松井斗輝(24=パラエストラ柏)は24日に開催される格闘技イベント「PANCRASE 340」(神奈川・横浜武道館)に出場しIMMAF世界王者であるムハンマド・サロハイディノフ(タジキスタン)と対戦する。試合中にニヤリと見せる笑顔が印象的な松井とはどんな人物なのか。次戦への意気込みとともに話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
小学生のころは兵庫県在住の野球少年。上級生のチームに飛び級で入ってしまうほど運動神経は良かった。そんな少年がいまや自らの命を燃やし、金網のなかでファイターとして戦っている。
格闘技との出合いは小学4年で始めたグローブ空手。そうはいってもショッピングモールに入っている運動クラブで体を動かす程度のものだった。このときはそれが格闘技であると認識してもいなかった。しかし、ある選手を見て「ボクシングの世界王者になりたい」と夢を語るようになる。
「空手をやっているときに長谷川穂積さんに憧れるようになって、ボクシングをやりたくなりました。中学1年生のときに地元のジムに入って3年間続けました。帰宅部で学校終わったら夜まで練習する生活です」
その後はボクシングでロンドン五輪銅メダルの清水聡を輩出した、岡山の関西高校にスポーツ推薦で入学した。松井は地元の兵庫から、午前7時30分からの朝練に参加するため毎日新幹線通学をしていた。
「各駅停車で行くと2時間くらいかかって間に合わないんです。でも新幹線だと20分で着く。1か月の定期代5万6000円かけて通っていました。今振り返ったら親に感謝ですよね(苦笑)」
高校時代の最高成績は国体56キロ級で全国3位に。インターハイではベスト16に入った。現OPBF東洋太平洋フェザー級王者の堤駿斗とは2度対戦経験があるが、完敗だったという。大学も推薦で関西学院大学に進学するが、理想と現実の差に苦悩し始めた。
「あまりボクシング強くならないなって……。打撃は拳だけなので、劇的に強くなるのは難しいんですよね。堤には全くかなわなくて、左腕一本で圧倒されちゃったんです。それぐらいレベルが違くて、つらいなって」
悩んでいた時期に魅せられたのがRIZIN。特に朝倉未来の活躍がMMA転向に拍車をかけた。
「矢地戦とグスタボ戦はいまでも忘れません。それとYouTubeで『凡人みたいな人生だったら死んだ方がマシ』って言ってて、確かにそうだなと。朝倉未来に影響されましたね」
大学2年時には、勉学をおろそかにしてしまい単位を取得できず留年確定。同時に辞めなければならなくなってしまった。21歳の夏に大きな行動を起こす。
「中退してから引っ越しのバイトをしてお金を貯めて、親にも誰にも言わずに上京してきて、家を借りて、ネットで調べて強そうだったジム・パラエストラ柏に行きました。そこで鶴屋(浩)さんにあいさつもして……」
新生活にワクワクする状況では全くなかった。感情の赴くままに乗った夜行バスで何度も自問自答を繰り返した。「この選択が合っているのか分からなくて泣きました。不安で仕方なかった」と当時を振り返る。
その不安を一瞬で取り除いたのが、パラエストラ千葉ネットワーク代表の鶴屋浩氏との会話だった。
「プロになりたいと初めて会いに行ったときに『打撃ができるから寝技をやれば絶対に強くなるよ』『このジムを選んで正解だよ』って言ってくれました。そこで迷いはなくなりましたね」
普段はおとなしい性格も試合ではニコニコ「なんかテンションが上がって」
ここまでの戦績は6戦全勝(4KO)。自身でも予想外だと言うが、負けへの恐怖も全くない。それは日頃の練習環境にあった。
「練習相手のレベルが高いので、そこまで相手は強くないだろうって思うんですよね。寝技をずっとやってる人には勝てないです。鶴屋怜とはほぼ毎日スパーリングやっているんですけど、100回やって自分がパンチを当てられるのは何回か、ってくらい差があります。あとはもう漬けられてパウンドされるか極められるかです(苦笑)」
今年7月にランカーと初対決。大塚智貴に挑み、3R判定勝ちを収めランキング入り。現在は8位だ。普段控えめな印象の松井だが、試合になると一変。笑いながら殴り合いをしていた。
「なんかテンションが上がって楽しくなっていっちゃうんですよね。試合はみんなに自分だけを見てもらえる。本気で殴れるのも試合だけ。バーンって当たったら楽しくなっちゃいます」
次戦のサロハイディノフはアマチュア総合格闘技で14勝2敗の世界王者。今年9月にパンクラスでプロデビューし2R・TKO勝ちを収めているタジキスタン出身の22歳だ。「対戦相手は組みが強い選手。ここを勝てばタイトルマッチに近づくし、負ければまた一からという大事な試合です。何がなんでも必ず勝ちます」と負けられない相手であることをうかがわせた。
目指すはどんな状況でも「KO」すること。練習仲間であり、同じ階級のチャンピオン鶴屋怜は現在「Road to UFC」に参戦中。松井も目標は同じ、世界だ。
「日本だけで見ると小さく感じてしまいます。UFCの海外の強いやつらを倒したい。Road toができてから日本人がUFCに挑戦できる道ができた気がする。フライ級なら国内で勝っていけばトントンと進んでいけると思います」
まずは、キャリア最大の壁といってもいいサロハイディノフ戦。オファー時には迷いは一切なかった。聖夜に行われる一戦で勝利をものにできるか。松井のMMAの完成度が試される試合になりそうだ。