沖縄出身の尚玄が「出演は天命だった」と語る映画出演作 「沖縄戦を風化させたくない」

俳優の尚玄(45)が、眞栄田郷敦主演の映画『彼方の閃光』(12月8日公開、監督・半野喜弘)に出演した。色彩を感じられない20歳の青年・光(眞栄田)が長崎・沖縄の戦争の痕跡を辿るロードムービーで、沖縄でガイド役を務める男を演じた。沖縄出身の尚玄は「この作品に出演できたことは天命だと思っています」と語る。

インタビューに応じた尚玄【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた尚玄【写真:ENCOUNT編集部】

眞栄田郷敦主演の映画『彼方の閃光』でガイド役

 俳優の尚玄(45)が、眞栄田郷敦主演の映画『彼方の閃光』(12月8日公開、監督・半野喜弘)に出演した。色彩を感じられない20歳の青年・光(眞栄田)が長崎・沖縄の戦争の痕跡を辿るロードムービーで、沖縄でガイド役を務める男を演じた。沖縄出身の尚玄は「この作品に出演できたことは天命だと思っています」と語る。(取材・文=平辻哲也)

 沖縄に生まれ、18歳まで育ち、2005年に、戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』でデビューした尚玄にとって、沖縄は故郷であり原点。切っても切り離せないものだ。最近でも、沖縄出身の実在のボクサーを主人公にした『義足のボクサー』(22年)で主演・プロデュースを務め、11月下旬には沖縄で新しく開催された映画祭「Cinema at SEA-沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」のアンバサダーも務めたばかりだ。

 本作は幼い時に失明した青年が、ドキュメンタリー監督の友部(池内博之)との道中、祖母から戦争体験を聞いて育った詠美(Awich)や、沖縄と家族を愛する糸洲(尚玄)など、心に傷を抱えながらたくましく生きる人々との出会いを通して、自らの生き方、光を見出していくロードムービー。

 妻夫木聡・豊川悦司主演の映画『パラダイス・ネクスト』で知られる半野監督のオファーを受け、企画段階から関わった。メインキャストの詠美役に、沖縄出身の女性ラッパー、Awich(エイウィッチ)を推薦している。

「監督とは長編デビュー作の前からの付き合いで、パイロット版を作る段階から声を掛けていただき、ロケハンに同行したり、僕の経験なども話させてもらって、沖縄編の脚本に関しても、監督とは意見のキャッチボールをさせていただきました。自分の中でも思いが深い作品です。監督は僕を信頼し、セリフにとらわれず、自由に振る舞わせてくれました」

 演じた糸洲は、沖縄に生まれ、沖縄を愛し、一人息子を大切にする男だ。

「僕と考え方が全く同じというわけではないですけど、米軍基地がある島で生まれ育ち、島を離れてしまっても沖縄への思いは人一倍強いので、共通点が多いでしょうね。糸洲には家族を守るために生きている純朴な真っ直ぐさがあります。そこは人間の根源的な部分であり強さではないでしょうか」

 劇中では、移設問題で揺れる辺野古基地周辺でもロケ。独自の意見を展開する友部に対して、これまで寡黙だった糸洲が感情を爆発させる見せ場もある。

「辺野古には、以前、親友の関根光才監督(趣里主演『生きてるだけで、愛。』)と個人的な映像を撮りに行ったこともあったんです。その時に自分が経験したことが大いに生かされているように思います。ここ数年飛行機から沖縄北部を見下ろすと、かつてジャングルだった山が切り拓かれ、その土砂が辺野古の基地建設のために使われているのが分かります。自然は1度壊してしまうと、もう取り返しがつかない。糸洲の声は、沖縄に住む一人の人間の生の声だと思います」

 このシーンは長セリフだったが、監督にはカットを割らず一発撮りをリクエストし、共演の眞栄田、池内、撮影監督とのアンサンブルによって出来上がった。

「キャストそれぞれが感応し合い、それを撮影監督の池田さんが見事にとらえてくれました。誰か一人が欠けても成立しなかった。奇跡の瞬間を感じたといいますか。沖縄に守ってもらっているという感覚もありました。とても重要なシーンになったと思います」

 映画の中では、第二次世界大戦中の沖縄戦についても触れ、戦時中多くの人が犠牲になった轟壕(とどろきごう)や摩文仁(まぶに)の丘の海岸などでもロケした。行き先では犠牲者に対して、手を合わせて、祈りを捧げた。

「沖縄戦に関しては小さい頃からTVや学校で見聞きする機会がありました。祖父はあまり戦争について語る人ではなかったのですが、乗るはずだった船が米軍に沈められたとか、病気で死にかけたが、なんとか生き残ったという話も聞いたことはあります。自分にとっては沖縄戦という存在がある種、当たり前になっている中で、撮影前にもう一度ドキュメンタリーや映画を見直して、自分の中で眠らせてしまっている感覚を呼び起こしました」

 これまでも沖縄にまつわる作品には積極的に関わってきたが、本作も特別な作品になった。「沖縄戦の記憶が風化されてしまう前に、こういう作品を残せたことがよかった。この役をやらせてもらったことは感謝しかない。言い過ぎかもしれないけど、この映画に出演できたことは天命だと思っています」と言い切った。

□尚玄(しょうげん)1978年生まれ、沖縄県出身。2005年、戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』でデビュー。その後も映画を中心に日本で活動するが、08年に渡米。現在は日本を拠点に邦画だけではなく海外の作品にも多数出演している。21年に主演・プロデュースを務めた映画『義足のボクサー』(ブリランテ・メンドーサ監督)が、釜山国際映画祭にてキム・ジソク賞を受賞。22年同映画祭でAsia Star Awardを受賞。23年に沖縄で新しく開催される映画祭「Cinema at SEA-沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」のアンバサダーも務めた。

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