【週末は女子プロレス♯130】急きょ実現のジュリアvsM・ベイン 団体のピンチを救った好カード
11・5牛久の開始時間が大幅に遅れたことをきっかけに、さまざまな問題が露呈、表面化しているスターダム。牛久大会当日には木谷高明オーナーが急きょ来場し観衆に謝罪、組織の体制変更にさっそく着手した。そして12月1日付けで岡田太郎氏が新社長に就任し、11月20日の記者会見と11・29後楽園ホールで所信表明のあいさつをおこなったのである(スターダムを“個人商店”から短期間で“企業”に発展させた原田克彦前社長の手腕は評価すべきだろう)。
メーガンはジュリアと5度目の顔合わせ
11・5牛久の開始時間が大幅に遅れたことをきっかけに、さまざまな問題が露呈、表面化しているスターダム。牛久大会当日には木谷高明オーナーが急きょ来場し観衆に謝罪、組織の体制変更にさっそく着手した。そして12月1日付けで岡田太郎氏が新社長に就任し、11月20日の記者会見と11・29後楽園ホールで所信表明のあいさつをおこなったのである(スターダムを“個人商店”から短期間で“企業”に発展させた原田克彦前社長の手腕は評価すべきだろう)。
さまざまなテーマを課せられた過密スケジュールもあり、スターダムのリングではケガ人が続出している。一概には言えないとしても、今後欠場者の少ない状態がキープできれば、それが目に見える形での新体制の成果ということにもなるのだろう。11・18大阪でスターライト・キッド、11・29後楽園で林下詩美&上谷沙弥が復帰し、明るい兆しは見えている。後楽園大会の爆発的盛り上がりは、新体制への期待感ととらえたい。スターダムファンは期待しているのだ。
とはいえ、ファンや選手がリングに集中できる環境づくりは一朝一夕でできるわけではない。新たな欠場者も出ているのが現実である。最近では鈴季すずが発熱による体調不良で11・25狭山&11・26郡山を欠場(後楽園で復帰)。狭山大会で右ヒザを負傷した水森由菜が郡山大会から欠場となった。また、シンガポール遠征でレディ・Cが首を痛め後楽園大会から試合を休むことに。これにより、当初発表されたカードが二転三転しているのである。
11・26郡山では、「ジュリア&HANAKO組vs鈴季すず&メーガン・ベイン組」が鈴季の欠場により「ジュリアvsHANAKOvsメーガン」となり、当日になって水森欠場の影響から「ジュリアvsメーガン」のシングルマッチに変更された。ジュリアとメーガンの一騎打ちは期せずして実現、ビッグマッチでおこなわれるタイトルマッチ級の好カードなのだが、当事者のジュリアは突然の変更にいったい何を感じたのだろうか。
「あの日は(出場選手よりも)欠場者の方が多いような状況になっちゃったんですよね。まずは、チケットを買ったお客さんがどう思うんだろうって考えてしまいました」
11月26日はシンガポールでおこなわれる親会社ブシロードのイベントに参加するため6選手が欠場。中野たむ、なつぽいら多数の主力選手をケガで欠くなかで、新たに鈴季と水森もリングに上がれる状態ではなくなった。遠征組は事前から決まっており、欠場選手が大会ごとにはっきりと明記されていないのは問題だろう。直近の負傷もあり、会場入りしてから多くの選手が出ないことを知ったファンも多いのではなかろうか。ジュリアは言う。
「だからこそ、プロレスの力を見せなきゃいけないなと思いましたね」
メーガンとの一騎打ちはリング上の流れに関係なく、編成上で組まれたカードである。本来ならばジュリアが保持するSTRONG女子王座がかかってもおかしくはない。この大会はメディア的にはまったくのノーマーク。マスコミ関係者で会場にいたのは筆者のみだった。それだけに対戦カード表を見て目を疑った。ジュリアがこのタイミングでメーガンと一騎打ちとは、いくら編成上とはいえもったいないのではないか。
「いや、私は相手がメーガンでラッキーだと思ったんですよ。お客さんにもラッキーと思わせたかったですね。(欠場者が多くて)このままじゃせっかく来てくれたお客さんを離してしまいかねない。だったら逆によかったと思ってくれるものを見せないと。プロレスおもしろいなと感じてほしい。そういう気持ちでリングに上がりました」
アメリカから初来日のメーガンは身長180センチの大型パワーファイター。誰が見ても明らかに強いとわかる説得力の持ち主で、対戦相手をちぎっては投げちぎっては投げの大暴れでスターダム勢を圧倒してきた。舞華と組んでのタッグリーグ戦を制覇し、日本で初めての勲章を得たばかりだ。
スターダムでの試合はこの日が45戦目で、ジュリアとは5度目の顔合わせだった。アーティスト・オブ・スターダム王座を懸けての闘いこそあれ、多人数マッチが中心で本格的な絡みは見られていない。しかもこの2人による対戦は1か月半ぶり。いざ対戦したときも、メーガンの方がジュリアを圧倒していた印象の方が強いのだ。
ジュリアがマイクを握って渾身のメッセージ
「この人をどうやって切り崩していいのだろうかと悩みましたね」とジュリア。実際、試合で組み合ってみるとやはりメーガンのパワーがジュリアのそれを上回った。ジュリアは巨人崩しの鉄則である、相手の重心を下げる戦法に出るも、長続きしない。試合では、メーガンの引き出しの多さが際立った。力任せに暴れるだけではなく、実はオールラウンドなファイターで、さまざまなスタイルをこなすのだ。たとえばこの日は、アームホイップ、その場跳びボディープレス、セントーンなどを器用に決めた。高低差のあるパワーボムやラリアットは圧巻の迫力で、サードロープをバネにしてのバックドロップを繰り出す閃きにも驚かされた。
対するジュリアも右腕に的を絞りながら雪崩式ダブルアームスープレックスを決め、フィニッシュ技のF5を切り返すなど多くの見せ場を作ってみせた。結局試合は、15分闘い抜いての時間切れ引き分け。決着こそつかなかったものの、かえってすごいものを見せられたとの思いが先に立った。多くのファンもそうだろう。そしてジュリアがマイクを取った。
「郡山大会にお越しの諸君ごきげんよう! 欠場者まみれだよなあ、スターダム。それでもここに来てくれた諸君は、私とメーガンの初シングルマッチを目撃した、特別な諸君だよ。オマエら、どれだけラッキーなんだよ! メーガン、必ずリマッチお願いします。そしてピンチだからこそ、ピンチをチャンスに代える力がプロレスにはあると思ってるんだよ。私はみんなにも、その思いを届けていきたい。だから私は闘い続ける。今日来てくれた諸君、ありがとう。アリベデルチ、またな!」
ノーマークの大会で心に響いた渾身のメッセージ。このマイクアピールについてジュリアに聞いてみたところ、こんな答えがかえってきた。
「勝ったらこういうこと言おう、負けたらあんなこと言おうとかあるんですけど、この日は急きょ決まったこともあって何も考えてなくて、試合が終わった後にスッと出てきたのがあの言葉だったんですよ。誤解を恐れずに言えば、これだけの欠場者がいたから皮肉にもメーガンとのシングルが実現できたんです。欠場者が出るのは良くない。良くないんだけど、そのピンチをチャンスに代えられれば。
メーガンからしても、STRONG女子王者と闘えるという、おいしいカードになったと思うんですよね。私もこの機会でメーガンと何かが生まれる気がしたし、この試合でお客さんに喜んで帰ってもらえればいいなって。実際、試合後のお客さんの表情がすごく温かくてよかったです。まあ、それに甘えてはいけないんだけれども、またプロレスを見たい、スターダムを見に行きたいと思ってもらわなければ、私たちにも闘っていく意味がないですから」
ジュリアはSTRONG女子王座を懸けて大型選手たちと闘ってきた経験がここで生きたと言い、ふだんはクールなメーガンが珍しく荒れ狂った。ジュリアのマイクアピールはメーガンとの物語のスタートであり、団体に対する思いがそのままストレートに表現されていた部分もある。あの牛久大会では、担当スタッフの対応をあえて指摘し問題提議にもなった。
ここでいう「ピンチ」にはさまざまな意味が含まれていると言っていい。会長と社長が誠意をもって謝罪した牛久大会終了後、観客はどんな気持ちで家路についたのだろうか。現場では目立った混乱こそなかったものの、考えは人それぞれ。なかには貴重な体験をしたと思ったファンもいるだろうが、やはりあってはならないことである。
そして今回の郡山大会。欠場者の多い現状は団体の問題と地続きなだけに、この日の観客は何を思い会場をあとにしたか。「ピンチがチャンスになったかといえば、そこはよくわからないけど」とジュリア。それでも、「ジュリアvsメーガンが見られて得をした」との気分になってくれたとしたら――。
11・5牛久と11・26郡山大会は合わせ鏡のような大会だった。牛久が運営側で、郡山は選手サイドからアクシデントへの対応を見せたと言えるだろう。スターダムは新体制で改革に着手、運営と現場の足並みをそろえ、さらなる高みをめざしていく。