「どれだけ練習しても芽が出なかった」アイドル時代、“不死鳥”上谷沙弥がプロレス界のセンターに立つまで

スターダムの上谷沙弥は、女子プロレス界において超難易度のフェニックス・スプラッシュを唯一放つことができる選手だ。「不死鳥」と呼ばれるようになった彼女は、今年7月に試合中に怪我をし初の長期欠場。その上谷が復帰の舞台に選んだのは11月28日に開催されるスターダムの東京・後楽園ホール大会。彼女の復帰に関して、いち早く反応した選手がいた。

復帰へ向けて闘志がみなぎる上谷沙弥【写真:橋場了吾】
復帰へ向けて闘志がみなぎる上谷沙弥【写真:橋場了吾】

大けがから復帰、いち早く反応したのは白川未奈「はやく、闘いたいよ」

 スターダムの上谷沙弥は、女子プロレス界において超難易度のフェニックス・スプラッシュを唯一放つことができる選手だ。「不死鳥」と呼ばれるようになった彼女は、今年7月に試合中に怪我をし初の長期欠場。その上谷が復帰の舞台に選んだのは11月28日に開催されるスターダムの東京・後楽園ホール大会。彼女の復帰に関して、いち早く反応した選手がいた。

 上谷が左肘脱臼・靭帯損傷という大怪我を負いながらも復帰するのは「自分が生きている理由が、リング上にあるから」という。もともと彼女はアイドル活動をしていて、その縁でプロレスと関わることになるのだが、ここまでプロレスへの思いが強くなったのはいつからなのだろうか。

「2019年にデビューした直後はまだまだ中途半端な状態でしたね、精神的にも肉体的にも。アイドル志望だったこともあって、口では『ベルトを巻きたい』と言っていても、気持ちも体もついていっていないというか。それが変わったのは、事務所をやめた直後の(2021年6月に)シンデレラトーナメントに優勝したときですね。シングルで勝ち抜いて結果を出したのがそのときが初めてで、アイドルでセンターになれなかった私が、プロレスでセンターになれたのが大きかったんです。アイドル時代はどれだけ練習しても芽が出なかったんですが、プロレスで自分なりに努力して、優勝できたのがすごくうれしくて。ここから、白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座/上谷は歴代連続防衛記録<15回>保持者)がほしい、そしてスターダムのてっぺんに立ちたいと思うようになりました」

 21年のシンデレラトーナメントの決勝戦、上谷が舞華を相手にフィニッシャーに選んだのはフェニックス・スプラッシュ(以後フェニックス)だった。フェニックスを初披露したのが、20年10月。当時同じユニットであるQueen’s Questの林下詩美と保持していたゴッデス・オブ・スターダム王座の初防衛戦だった。しかも相手は舞華。上谷の復帰に際して「遅せぇよ! 馬鹿野郎!!」とXで手荒く歓迎した。そしてもう一人、上谷のXの復帰宣言に「不死鳥。お帰り! はやく、闘いたいよ。」と反応したのが、白川未奈だ。

「白川選手は特別な存在ですね。(22年11月に)広島でワンダーを賭けた試合でアクシデントがあって、(今年4月に)横浜で再戦して……自分は負けてしまったんですけど、お互いの限界を超えた試合ができたという思いはあります」

 広島では上谷が放ったフェニックスが白川の顔面に落ちてしまい、白川は顎部・口腔部を負傷し2か月の欠場を余儀なくされる。その試合を最後に、上谷はフェニックスを封印し、横浜でおよそ半年ぶりにフェニックスを解禁するのかどうかが注目されていた。

「フェニックスを出さないという選択肢は……ありました。大事な白いベルトをかけての試合だったので、お互いの限界を超えないと意味がないと思っていました。ここでいう私にとっての限界を超えるというのは、(怪我をさせてしまった)フェニックスを出すということで、白川美奈にとっての限界を超えるというのは、トラウマのあるフェニックスを受け切るということです。こういう経験があるので、凄く特別な存在になりましたね。そしてファンの皆さんに選んでもらったドリーム・タッグ(9.10横浜武道館大会で上谷と白川はタッグを結成する予定だった)は私の怪我でできませんでしたが、別の大きな舞台でタッグを組めたらという気持ちは持っています」

フェニックス・スプラッシュが次に炸裂するのはいつの日か【写真提供:スターダム】
フェニックス・スプラッシュが次に炸裂するのはいつの日か【写真提供:スターダム】

復帰戦が11.28になった理由は…?

 上谷の4か月ぶりのリング復帰の舞台は、11.28東京・後楽園ホール大会。カードは、林下詩美&上谷沙弥&AZMvs鈴季すず&星来芽依&メーガン・ベーン。Queen’s Questの3人で、上谷が狙うワールド・オブ・スターダム王座に一番近い位置にいて今年の5 STAR GP覇者の鈴季と、ゴッデス王座に一番近い位置にいるメーガンがいるチームと対戦する。しかも林下も復帰戦となり、非常に注目度の高い一戦となった。

「一番意識するのは鈴季すずですね。5 STAR GPの最終戦はあたる予定でしたし、去年の5 STARでも負けてしまっているのでずっと意識しています。私が5 STARを完走していれば、鈴季すずが今年見た景色は私のものだったという気持ちがあるので、復帰戦で勝って彼女を引きずりおろしたいですね。メーガンは完全に初対戦ですが、金網マッチ(Queen’s Questの仲がぎくしゃくしている中で行われた6.25代々木大会の大江戸隊との全面対決)で仲直りした詩美さんと出たかったタッグリーグで、メーガンは舞華と優勝しているので、メーガンも意識してしまいますね」

 11.28は上谷の27回目の誕生日だ。これに深い理由があるのか尋ねると、上谷は口ごもってしまった。「あ、何かありますね?」と聞くと……。

「実は……希望を出しました!(笑)。復帰のめどが11月に立ったときに、後楽園ホールという会場がアットホームで好きですし、誕生日は自分的にテンションが上がる日なので、11.28に復帰戦を組んでもらいたいとお願いしました」

 最後に改めてフェニックスについて上谷に聞いた。2023年は、上谷はフェニックスを1回しか披露していない。今後、上谷は再び不死鳥の舞を見せてくれるのだろうか。

「この技のおかげで、東京ドーム(22.1.5新日本)にも出られましたし、フェニックスを見て『プロレスに興味を持ちました』『スターダムを見るようになりました』と言ってくれるファンの方も多いので、自分にとって大切な技です。白川選手との戦いの中で、自分としても今後の使い方はしっかり考えていますが、特別な技なので『使わない』ということはない……ここぞ、というときに披露しようと思っています」

※復帰戦は上谷が鈴季を新技で追い込むも、惜しくも時間切れ引き分けに。試合後、12.2名古屋大会で行われる、舞華&メーガン・ベーンとのゴッデス・オブ・スターダム王者決定戦に、同じく復帰戦を終えた林下詩美との“ AphroditE”(アフロディーテ)で挑戦することを宣言。メーガンが受諾したため、正式決定した。

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