現役車両に混じって走る「動く博物館」に熱視線 歴史的価値ある1本の運転が復活したワケ

関東の大手私鉄・東武鉄道で車齢60年越えの電車が復活をとげ、ファンと沿線の話題になっている。一度は引退したはずの昭和時代のエースが、復活運転できた理由とは?

野田線で一般列車に混じって運転を始めた「動態保存車」の8111編成(写真はイメージ)【写真:写真AC】
野田線で一般列車に混じって運転を始めた「動態保存車」の8111編成(写真はイメージ)【写真:写真AC】

唯一原型で残った、昭和の東武の通勤電車

 関東の大手私鉄・東武鉄道で車齢60年越えの電車が復活をとげ、ファンと沿線の話題になっている。一度は引退したはずの昭和時代のエースが、復活運転できた理由とは?(取材・文=大宮高史)

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 埼玉県の大宮駅と千葉県の船橋駅をぐるっと円弧を描いて結んでいる全長62.7キロの路線が、東武野田線(東武アーバンパークライン)。春日部・野田・柏・鎌ヶ谷など郊外地域の足になっている。

 この線で11月1日から、8000系電車の8111編成というオレンジと茶色のツートンカラーの車両が運行を始めた。すると、沿線には鉄道ファンが集まり、SNSでも同車の運行の様子が投稿されている。

 注目の理由は、この8111編成が東武最古の電車で、つい最近までイベントでしか乗れない動態保存の車両だったためだ。

 東武8000系は1963年に登場し、総計712両が製造されて東武各線で活躍した、昭和の東武鉄道を象徴する電車。83年まで増備されて、運行開始から60年になる現在でも約200両が現役だ。最盛期には東武のほぼ全線区に投入されたが、廃車が進んでこの野田線とローカル線区での運用に追いやられている。

 野田線にも8000系は在籍しているのだが、8111編成とはデザインと塗装が大きく違っていて、塗装は白地に青帯。前面のデザインもライトの配置やフロントガラスを見ると、まるで別物だ。というのは、8000系は80年代から「修繕工事」として内外装を一新するリニューアルを行っていて、8111編成はその修繕工事を受けずに残った唯一の編成だったため。

 もともとの8111編成は63年に4両編成で竣工すると東上線に配属され、のちに2両を増結した6両編成になって、2011年まで東上線で日常の輸送に活躍していた。東上線での運用を離脱すると、他の原型の8000系と同様に廃車になるかと思いきや東武鉄道は同車を東武博物館所有の保存車両として、動態保存することを決定。以後は池袋発着の東上線を離れてスカイツリーライン系統の南栗橋車両管区に移籍し、イベント列車や団体列車、車両基地公開などで姿を見せていた。

 花形の特急型ではない一般型電車が動態保存されるだけでも異例のことで、約10年にわたって限定的ではあるが本線で元気な姿を見せていた8111編成。塗装も定期運転引退時の白地に青帯のカラーから塗り替え、昭和50年代に採用されたアイボリーホワイト一色の通称「セイジクリーム」塗装や、1963年のデビュー当時の茶色とオレンジ色の通称「ファイヤーオレンジ」色にも塗り替えられてきた。現在野田線で見られる8111編成はこのファイヤーオレンジ色をまとい、60年代の外観を再現している。

 が、そもそもなぜそんな古くも価値のある電車を一般運用に復活させたのか。東武鉄道はこの点を「貴重な8111編成を多くのお客様にご利用いただくため、一般の営業運転に供することとしました」と説明している。また転属理由は6両編成での営業運転が可能であったためで、運行期間が限定的なものかどうかは未定という。野田線は全列車が6両編成かつワンマン化改造の必要もなく、数を減らしているとはいえ8000系がすでにいるので乗務員訓練も最低限で済む。8111編成を現状のままで運転させるのに最適な線区だった。南栗橋からの転属にあたっては転属記念のツアー列車として運転され、東武の集客にも一役買った。

修繕工事を受けた現役の8000系は、前面デザインが大きく変わっていて同じ形式とは思えないほど
修繕工事を受けた現役の8000系は、前面デザインが大きく変わっていて同じ形式とは思えないほど

2024年から新形式車両導入も

 野田線では8000系のほかに2013年から15年に増備された60000系と、他線区から転属してきた10030型が在籍していて。8000系と最新の60000系では30~40年もの世代差がある。さらに2024年から新形式車両の導入が始まるため、古い8000系は数年のうちに置き替えられる見通し。修繕済みの8000系も8111編成もいつまで同線で見られるか分からない。博物館級どころか博物館そのものの車両に普通きっぷだけで乗れてしまう光景も、長期的なものではないだろう。

 沿線で日常の足だった8000系の原型をとどめる唯一の車両として、東武鉄道がその価値を認めて動態保存していただけでなく、令和になって日常の運行が復活するという珍事が生じた。野田線在籍の全43編成の中の1本だけの存在だが、その不死鳥ぶりは特筆に値しよう。青色の帯を巻いた野田線の現役車両に混じって走る「動く博物館」に熱い視線が注がれるのは、こんな事情があった。

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