朝倉未来は必ずリングに戻ってくる 格闘技に魅入られたものが抗えない唯一無二の“刺激”

19日、朝倉未来がYA-MANとのオープンフィンガーグローブ(OFG)マッチに挑み、1RKO負けを喫した。試合後にはSNSやYouTubeで引退を示唆した。今回はそれに関して思うところを記したい。(文・“Show”大谷泰顕)

YA-MANに1RKO負けを喫した朝倉未来【写真:(C)RISE CREATION】
YA-MANに1RKO負けを喫した朝倉未来【写真:(C)RISE CREATION】

キックとMMAという競技の違い

 19日、朝倉未来がYA-MANとのオープンフィンガーグローブ(OFG)マッチに挑み、1RKO負けを喫した。試合後にはSNSやYouTubeで引退を示唆した。今回はそれに関して思うところを記したい。(文・“Show”大谷泰顕)

 まず大前提として、朝倉はMMAファイター、YA-MANはキックボクサーであることを念頭に置いてもらいたいが、この一戦はファンも含め、事前からさまざまな関係者がそれぞれの見解を主にSNS上で披露していた。

 今回は純粋なキックボクシングルールの試合ではなく、OFGを使ってのキックルール戦なので、普段、MMAの試合で使いなれたOFGを朝倉は着用している、と見る向きもあったかもしれないが、そもそもキックとMMAでは、根本的に競技が違う。

 また、同じOFGでもMMA用のそれでないとすれば、これまでMMA戦しか実戦経験のない朝倉は、全く違った競技に挑んだことになる。たとえいくら練習でそつなく使いこなしたところで、練習と実戦ではまるで違う。

 たしかに今や伝説となった、魔裟斗VS山本“KID”徳郁によるキックルール戦(2004年大みそか、大阪ドーム)では、MMAファイターのKIDが、K-1ワールドMAX2003&2008世界王者の魔裟斗に判定負けを喫し、またKIDの弟子にあたるMMAファイターの堀口恭司も、キックボクシングの“神童”那須川天心とのキックルール戦(2018年9月30日、さいたまスーパーアリーナ)では、同じく判定負けを喫している。

“神の子”KIDや、日本のMMAファイター史上最高の実績を持つ、“最強のMade in JAPAN”といわれた堀口でさえ、一筋縄ではいかないのだ。

 であるなら、MMAでの実績においてKIDや堀口に及ばない朝倉が、キックボクシングが本職のYA-MANにそう簡単に勝てるほど、格闘技の世界は甘くない。

 むしろ、KIDや堀口、そして朝倉もよく挑んでいったなと心意気は評価すべきだろうが、それを言うならKIDは魔裟斗からダウンを奪ったし、堀口は天心を最も追い詰めた男とも言われる。結果、敗れたが両者の株は下がるどころか上がった。

 逆に日本のリング上では名だたるキックボクサーが、MMAファイターの餌食にされてきたこともある。

 例えば2008年大みそか、さいたまスーパーアリーナでは、K-1ワールドGP2003&2004準優勝者の武蔵がゲガール・ムサシに、ムエタイ王者の肩書きを持つ武田幸三が川尻達也に一敗地に塗れた。

試合後、朝倉未来は引退を示唆している【写真:(C)RISE CREATION】
試合後、朝倉未来は引退を示唆している【写真:(C)RISE CREATION】

アップセットが起こるパターンとは

 また、そういうまさかの結果が出る場合によく聞かれるのは、その競技になじみが少ないがゆえに、常識とは違ったセオリーが展開された結果として、アップセット(番狂わせ)が起こるパターンだろう。

 最近なら、立ち技を得意とする鈴木千裕がヴガール・ケラモフに勝利し、RIZINフェザー級王座を奪取した一戦(11月4日、アゼルバイジャン)がそれに当たる。鈴木はこれによってキックとMMA双方の王者に輝くことに成功したが、かつてはミルコ・クロコップが立ち技出身ながらPRIDEを制し、のちにK-1王者にも成り上がって二冠王に君臨したこともある。

 ともあれ、気になるのは今回の結果よりも、朝倉が試合後に公にした、いわゆる引退表明とされるSNS、YouTubeへの投稿だ。

 たしかに今は、そういう気持ちになってしまうのは分からないでもない。

 というのは、過去にも試合に敗れたファイターが引退を口にしてきたことは、一度や二度ではないからだ。

 ただし、致命的な負傷があるならともかく、あの魔裟斗でさえ、09年の大みそかに引退試合を行ってから、6年後の15年大みそかにはKIDとのキックルールでの再戦(判定勝ち)を、翌16年の大みそかには、五味隆典とのキックルール戦を行い(規定によりドロー)、一夜限りの復活を二度も果たしている。

 当然のことながら、今と違って当時は、地上波が圧倒的な影響力を持っていたため、そこでの中継やファイトマネーを含めた条件が整った結果なのは間違いないが、あのクラスになると、会場にいる数万人の観客及びテレビ画面の前にいる日本国中の視聴者の視線がすべてリング上にいる両者のみに注がれる。それ以上の刺激なんてあり得るはずがない。

 なにせ激しい練習はもちろん、食べたいものを食べず、飲みたいものを飲まず、休息から何から含め、24時間のすべてを「勝利」のニ文字を手にするために費やすのだ。

 そうして得られた「勝利」以上に得難いものなんて世の中にあるわけがない。

 仮の話、朝倉がどれだけリング外でカネを稼ごうと、非効率この上ないあの達成感を知ってしまっているのだとしたら、たとえ引退しようと、必ずまたどこかでリングに戻ってくるに違いない。

 それがいつになるのかは分からないが、それなりに長らくこの世界に関わってきた自分はそう思っている。

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