コロナ禍で誕生“全面喫煙可”カフェの今 客と従業員、両者に配慮…喫煙目的店ならではの苦労も

2020年4月に「望まない受動喫煙」の防止を目的とする改正健康増進法が全面施行された結果、多くの飲食店が禁煙もしくは喫煙ブースの設置といった対策を講じた。しかし、同年11月1日に“全面喫煙可”のブランド「THE SMOKIST COFFEE」が誕生する。いったいどのような経緯で開店したのか、また、3周年を迎えどのような“変化”があったのか。同ブランドを運営するC-United株式会社のマーケティング部 販売促進・市場調査担当 統括マネージャーの小澤元さん、第一営業部 統括マネージャーの片岡亮輔さんに話を聞いた。

3周年を迎えた「THE SMOKIST COFFEE」【写真:荒川祐史】
3周年を迎えた「THE SMOKIST COFFEE」【写真:荒川祐史】

「THE SMOKIST COFFEE」を運営、C-United株式会社インタビュー

 2020年4月に「望まない受動喫煙」の防止を目的とする改正健康増進法が全面施行された結果、多くの飲食店が禁煙もしくは喫煙ブースの設置といった対策を講じた。しかし、同年11月1日に“全面喫煙可”のブランド「THE SMOKIST COFFEE」が誕生する。いったいどのような経緯で開店したのか、また、3周年を迎えどのような“変化”があったのか。同ブランドを運営するC-United株式会社のマーケティング部 販売促進・市場調査担当 統括マネージャーの小澤元さん、第一営業部 統括マネージャーの片岡亮輔さんに話を聞いた。(取材・文=石井宗一朗)

 同社は飲食店「カフェ・ベローチェ(以下、ベローチェ)」も運営しているが、「コロナ禍」と「改正健康増進法の施行」により大打撃を受けた店舗もあった。しかし、この苦境こそが「THE SMOKIST COFFEE」誕生のきっかけだった。

 小澤さんは「もともと同法の影響でベローチェの売上が落ちてしまうことは予想していましたが、先般喫煙目的店に改装した店舗は以前ベローチェ業態だった頃は大きく売上を落とし赤字が出ていました。」と当時の状況を振り返る。

「このままだと閉店せざるを得ない」という危機的状況だったが、それでも店舗を存続させる方法を模索した。そこで目を付けたのがベローチェに元々あった「喫煙需要」。コロナ禍で喫煙環境が少なくなった状況を鑑み「当社では、街の財産となるお店づくりを目指し、お店を運営していますので、どういった形で(店として運営)できるのかを検討して、喫煙目的店を経営するための免許も取得しました。そして2020年11月1日にまず3店舗の『THE SMOKIST COFFEE』が開店となりました」と、ベローチェを「THE SMOKIST COFFEE」として再スタートさせた経緯を明かした。

 禁煙へとシフトする飲食店もあるなかでの開店。不安ももちろんあったという。「ある程度の規模の大きなチェーン店が喫煙目的店を経営するにあたり、時勢的にも、非喫煙者のみならず喫煙者の方からも、さまざまなご意見が出るのではと考えていました」。

 しかし開店後、ネガティブな意見はほとんどなく、良い意味でこの予想は大きく外れた。小澤さんは「もちろん批判はゼロではないですが、ほぼなかったです。開店から数か月後にネットニュースになったことでかなり反響がありました。どういうご意見が出るのか正直怖かったのですが、非喫煙者の方からも『こういうお店が有れば路上喫煙は減るだろうからありがたい』といったコメントを数多くいただきました。それもあり、自信をもって継続できています」と前を向いた。

 また、片岡さんは「分煙が広がり、席でたばこが吸えない店舗が増えていました。喫煙ブースなどで吸えることもありましたが、たばこを吸いながらコーヒーが飲める場所は少ない。そういった状況でしたので、お客さまからは『こんなお店待ってたよ』『本当にありがたい』といった声をいただいておりました。売上の部分でも良い結果を出してくれております」と顧客満足度のみならず、売上の面でも好調だと語る。

「THE SMOKIST COFFEE」開店の経緯を明かした小澤元さん【写真:荒川祐史】
「THE SMOKIST COFFEE」開店の経緯を明かした小澤元さん【写真:荒川祐史】

高性能換気システムを大手空調メーカーと協同で開発

 喫煙目的店を経営するにあたり、さまざまな工夫もあった。非喫煙者のみならず喫煙者の受動喫煙を減らすため、独自の高性能換気システムを大手空調メーカーと協同で開発。換気システムで清浄した空気を店内の離れた位置に送り出すことで、店内全体にクリーンな空気が大風量で循環する「ロングサーキット」システムを導入した。1階が禁煙エリア、2階が喫煙エリアの東新宿店では、排出口が階段の横にあり、階下に空気が逃げないよう、“エアカーテン”の役割も果たしている。

 もちろん従業員にも配慮しており、片岡さんは「店舗に社員を配属する際に、必ず同意をとるようにしています。不幸な異動はさせたくありませんし、そういった部分は気を付けている。従業員の方に対しても、当然喫煙可能な店舗というのは前もって知らせていますし、時給についても、近隣のベローチェより高めに設定しています」と明かした。

 しかしながら、喫煙目的店ならではの苦労もある。メニューに苦戦したという小澤さんは「喫煙目的店では調理を伴う主食が提供できない。行政機関の方にいろいろと問い合わせをして、どういう食事であれば出せるのかを考え、メニューを開発しました。例えばカレーにクリームをかけるのは調理になりNG、一方で福神漬けを添えるのは調理ではないためOKといったルールがあります。そうしたルールに則り現在も商品開発に取り組んでいますが、いろいろな制約があるので難しい。飲食店としてやっていくなかでそこは今も苦労している部分。しかし、手の込んだ調理をしてはいけない分、必要な人員が少なくて済むというメリットもあります」と語った。

 試行錯誤しながら迎えた3周年。「THE SMOKIST COFFEE」では11月1日から同30日まで3周年感謝祭を開催している。同キャンペーンについて片岡さんは「ドリンクを頼んでいただいた方に、割引券となるスクラッチカードをお渡ししております。『THE SMOKIST COFFEE』ではドリンクだけ頼まれるお客さまが多く、“喫食”という部分ではまだまだ進んでいない。このキャンペーンで食事メニューもぜひお試しいただきたいと考えています」と説明した。

 また、3周年を迎え、小澤さんは「お客さまの“定着”を感じます。こういう業態ですので、あまり宣伝ができないなかでも、3年経ち認知していただけたのかなと思います」と“変化”に言及。現在、東京都内に4店舗、宮城・仙台に1店舗の合計5店舗を運営しており、現在は新たな出店の予定はないものの「可能性としてはゼロではありません」と明かした。

「THE SMOKIST COFFEE」の今後について語った片岡亮輔さん【写真:荒川祐史】
「THE SMOKIST COFFEE」の今後について語った片岡亮輔さん【写真:荒川祐史】

喫煙者と非喫煙者の共存には「マナーを守ることが大事」

 喫煙可能な場所が次第に減っていくなかで、「THE SMOKIST COFFEE」のような飲食店の存在は喫煙者にとって貴重なもの。「すみ分け」という観点から非喫煙者からも歓迎の声があがる同店は、喫煙者と非喫煙者、両者に必要とされるブランドを目標に掲げている。

 両者の共存について、20年以上喫煙歴があるという小澤さんは「マナーを守ることが大事。非喫煙者の方に不快感をできるだけ与えないようにする必要がある。その一方で、ルールを守っている喫煙者に対する理解も必要かなと思います」、1度も吸ったことがないという片岡さんも「マナーを守っていただければ問題ないと思います」とマナーを守った喫煙の重要性を強調した。

「THE SMOKIST COFFEE」東新宿店では禁煙フロアと喫煙フロアで分かれているが、ほか3店舗はワンフロアで全席喫煙可能だ。しかし、仙台店(ぶらんどーむ一番町店)では1階が禁煙エリア、2階の手前が加熱式たばこエリア、奥が紙たばこエリアの3者に適した空間づくりを行っている。

 今後について小澤さんは「3者に喜んでいただけるこの形が『THE SMOKIST COFFEE』の完成形だと思っていますが、出店立地やその土地での社会課題などの状況に応じて、どういう形が理想かを模索し展開できたらと考えています」と明かし、片岡さんは「『THE SMOKIST COFFEE』は社会情勢から生まれたブランドですが、今後さらにブラッシュアップした店舗やブランドを時代背景に合わせて作っていくことが会社としては必要」と語った。

 改正健康増進法の全面施行後、コロナ禍に誕生した「THE SMOKIST COFFEE」。時代とともに“喫煙”の在り方は変わっており、飲食店にも変化が求められている。喫煙者と非喫煙者、両者に必要とされるブランドを目標に掲げる同店の経営スタイルは、この時代における1つの“解”といえるだろう。

次のページへ (2/2) 【写真】「THE SMOKIST COFFEE」東新宿店の様子
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