俳優の馬場ふみか（28）が映画『コーポ・ア・コーポ』（11月17日公開、仁同正明監督）に主演した。安アパートに住むワケアリ住人の人間模様をつづった群像劇で、家族のしがらみから逃げてきた金髪のやさぐれフリーターを演じた。馬場は、演技の原点は『仮面ライダードライブ』（2014年）だと語る。（取材・文＝平辻哲也）

　2015～23年まで女性ファッション誌『non-no』の専属モデルを務め、女優として活躍。『仮面ライダードライブ』では敵キャラのメディック、『コード・ブルー-ドクター ヘリ緊急救命-』（2017年）の新人フライトナース役が話題を呼び、『恋は光』（2022年）では第44回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞した馬場。映画主演は3度目となる。

　本作は同名コミック（岩浪れんじ）を原作に、大阪にある、昭和レトロな安アパートで暮らすワケアリ住民たち（東出昌大、倉悠貴、笹野高史）が、コーポ内で起きた首吊り自殺をきっかけに、自身の人生を思い返していく物語。馬場は笑顔を見せないが、住人たちをさりげなく気にかける主人公・辰己ユリ役で喜怒哀楽をにじませた。

「衝撃的な始まりを見せる作品ですけど、変にドラマチックになりすぎない感じがいいなと思いました。役作りは関西弁を練習するのが最初で、監督と話し合いながら、ユリちゃんに向かっていった気がします。ユリちゃんは感情をあまり表に出さないのですが、私も波風立てずに生きていきたいので、そういうところは近い部分があります」

　関西弁に加え、トレードマークの金髪、ジャージにスカジャンも演じる上で力になった。

「普段もジャージが好きなので、ユリちゃんみたいな格好をして、現場に入っていました。カカトを潰したコンバースも撮影中、ずっと履いていました」

　劇中、猫と戯れる場面もあるが、これは助監督の飼い猫だという。

「偶然なのですが、名前がユリちゃんの名字と同じタツミ。自分で猫は飼ったことはないんですけど、いつもSNSで可愛い推しの猫を眺めて癒やされていたので、撮影中、ずっと猫をお腹に乗せることができて、すごく幸せでした」

　映画で登場するような古い木造アパートも初体験だ。

「普通に自分が生活している中で、同じ建物に住んでいるからといって関わることはほぼないですよね。せいぜい挨拶をする程度。映画の彼らはいい意味でお互いに興味ないように見えて、実は支え合っている。それがすごくいい。シェアハウスのような感じが、自分が見たことのない世界で新鮮でした」

　自身の東京での住居の遍歴を聞くと、「新潟から上京した時は会社の社長の家で、次は先輩のモデルと一緒に住むというのが事務所のシステムだったんです。完全にひとり暮らしをしたのは2017年。引っ越して、すぐに受けて、合格したのが『コード・ブルー』。自分にとってはパワースポットだったんだと思います。その後引っ越しましたが、今もすぐ近くに住んでいます」

　10歳の時から子役、モデルをスタートし、高校在学中の2014年に映画『パズル』の女子高校生役で俳優デビュー。その後、オーディションで『仮面ライダードライブ』の敵キャラ、メディック役でドラマ初出演をつかんだ。黒いナース帽をかぶり、ゴシック様式の衣装を身にまとった機械生命体役。これが原点であり、俳優としての“変身”のきっかけになった。

「当時はまだ10代で、コミュニケーションを取ることが苦手で、こうした取材を受けても全然うまくしゃべれなかったんです。『仮面ライダードライブ』で一緒に働く先輩方の姿を見て、影響された部分が大きかったと思います。20歳になったタイミングですごく自分が変わったなと意識することができました」

　今では俳優業に責任も感じている。『コード・ブルー』で看護師を演じている時には、「ドラマを見て看護師を目指しました」とのメッセージを受け取ったこともあった。

「誰かの人生が変わる人もいるかもしれない。誰かの心に届くと分かったら、やりがいも感じます。『コード・ブルー』の西浦正記監督は厳しい方で、何回もたくさん怒られました。でも、そこに作品や役柄への愛情が感じられて、怒られても頑張りたいという気持ちがすごくありました。映画の時は、30回もNGを出して、ダメダメでしたね」と振り返る。

　演じることは瞬間瞬間で変わっていくものだという。

「今、ユリを演じてほしいと言われても、同じようにはできないですね。撮影から1年ぐらい経って、自分自身も変わっているから。撮影の半年後にアフレコをしたら、監督からは『全然、声が違う』と言われたこともありました」

　20代後半になり、自身の成長を感じながら、求められる新たな役を楽しんでいる。

「作品にゴールはあるかもしれないですが、自分の芝居にはゴールはない。自分の俳優人生の中で『うまくできた』『よし完成した』みたいな気持ちが生まれないのは貪欲になれていいなと思っています。最近では既婚者役や実年齢より上の役を演じることも増えてきました。年々、自分の年齢によって役自体のライフステージも変わっていくのをちゃんと感じながらお芝居を続けていければいいなと思っています」と、さらなる変身を誓った。

□馬場ふみか（ばば・ふみか）2014年に映画『パズル』（内藤瑛亮監督）で俳優デビュー。15年に『仮面ライダードライブ』で敵女幹部メディック演じて話題となり、『黒い暴動』（16/宇賀那健一監督）で映画初主演を務める。23年、『恋は光』（22/小林啓一監督）での演技が評価され、第44回ヨコハマ映画祭にて最優秀新人賞を受賞。主な映画出演作に、『劇場版コード・ブルー-ドクター ヘリ緊急救命-』（18/西浦正記監督）、『ひとりぼっちじゃない』（23/伊藤ちひろ監督）など。