深刻化する大学生の学力低下、電話連絡に担任制…“中学校化”する大学増加で起きること

大卒の就職状況で売り手市場が続く中、就職先の個別の動向を見ると「大学職員」が人気を呼んでいるようだ。22年度の早稲田大では、本田技研、住友商事、ゆうちょ銀行、日本郵船と並び、全学で11人が「早大」を就職先に選んだ。元大学職員で、『大学職員のリアル』(中公新書ラクレ刊)などの著書がある追手門学院大客員教授の倉部史記さんは、「深刻度を増す少子化によって多くの大学が苦難の時代に入る」と指摘する。今回は後編。

深刻化する少子化で大学に冬の時代が迫っている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
深刻化する少子化で大学に冬の時代が迫っている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

指定校推薦でも中退者続出、識者「40年後の大学環境は激変」 大学職員にも苦難迫る

 大卒の就職状況で売り手市場が続く中、就職先の個別の動向を見ると「大学職員」が人気を呼んでいるようだ。22年度の早稲田大では、本田技研、住友商事、ゆうちょ銀行、日本郵船と並び、全学で11人が「早大」を就職先に選んだ。元大学職員で、『大学職員のリアル』(中公新書ラクレ刊)などの著書がある追手門学院大客員教授の倉部史記さんは、「深刻度を増す少子化によって多くの大学が苦難の時代に入る」と指摘する。今回は後編。(取材・文=鄭孝俊)

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 就職先や転職先として「大学職員」が人気を呼んでいる。アカデミックな雰囲気や高給与、高待遇などのイメージが先行しているが、倉部さんはこう警鐘を鳴らす。

「日本の18歳人口は92年の205万人をピークに減り続け、22年は112万人とほぼ半減。40年には82万人と予想されています(※1)。なお、昨年生まれた子どもは77万人なので、実際には18年後は82万人よりかなり少なくなりそうです。これは少子化のスピードが想像以上に加速していることを意味しています。一方、大学の数を見ると92年は523大学でしたが、22年は807大学と逆に増えており、学生の獲得競争は激化しています。65年の18歳人口の予測値は68万人です。今、新卒で大学の職員になる人たちが定年を迎えるのがだいたいこの頃。40年後の大学の職場環境は激変していることが予想されます」

(※1)出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年)」出生中位(死亡中位)推計

 92年の大学進学率は26.5%だったが、22年は56.6%に上がっている。進学率が上がると何が起きるのか。

「これまでの大学生と今後の大学生では必要なサポートが全然違うと思います。『大学生だったら自分で勉強できる』という私たちのイメージが変わり、通常なら大学に合格できない層の学生が、合格水準が大幅に低下することで大量に入学してくるので、大学職員がやるべき業務がガラッと変わってくるはずです。現在も既に授業に出てこない学生に電話連絡したり、担任制を設けたりという大学は珍しくありません。中学生ぐらいの感覚でサポートにあたる大学はますます増えるでしょうし、面倒見の良い人材が求められそうです。また、大学は巨大客船のように多くのメンバーで動かす組織ですので、職員1人ひとりが関われる範囲は限定的ですし、1年や2年では結果が出ない施策も多い。長期的な視点で、留学生の招聘(へい)や中退者の抑制など、学内の問題をコツコツ努力して少しずつ解決に近づけていけるような人はむいているかもしれません」

 となると、大学職員になるのも覚悟が必要のようだ。

「『大学は安泰』というイメージはあるでしょうが、急激に進む少子化の波によって多くの大学が危機に瀕すると思います。その際は優良経営の他の私立大に転職するという選択肢もあるでしょう。教育への強い思いや大学経営に関する何らかの専門性を持っていることは大事です。公務員と併願する方も多いようですが、法令や規定をベースに動く真面目な組織という点は似ていますね。ただ、広く市民に対応する公務員に比べ、大学のステークホルダーは若者中心といった違いはあります。グローバル教育に力を入れる大学では、国際的な業務を担当できる語学力の高さや留学経験を評価されて採用される学生もいます。地方の国公立大などでは、地元の県庁や市役所との併願者が多く、『結果的に県庁や市役所の方を選ぶ内定者も少なくない』といった例もあるようです」

 最後に、就職先としての大学選びで注意が必要な点を聞いた。

「経営陣や教職員が世の中を騒がせる不祥事を起こしたような大学は要注意です。また、見かけ上の志願者数は多いが、入学者のかなりが中退するという大学もあります。『指定校推薦で入学した学生でさえどんどん中退してしまう』という深刻な事態を抱えている大学もあります。以前は高校と大学の信頼関係で指定校推薦枠がつくられていましたが、現在では学生募集に苦労する大学も増えました。通常では進学できない基礎学力の学生を推薦で確保し、その多くが中退しているという例もあるのです。中堅大でも今後は、高校の授業の内容を理解していない学生が増えるかもしれません。新卒で就職した学生が定年を迎える40年後は、現在の入学定員を大学は維持できないでしょう。東大、早慶のような難関大学では、潤沢な教育投資を受けられる都市部や富裕層の子息ばかりが集まり多様性がなくなっていくかもしれません。事態は深刻であることを、大学職員を目指す学生たちはしっかりと認識すべきです」

□倉部史記(くらべ・しき) 日本大理工学部建築学科卒、慶大大学院政策・メディア研究科修士課程修了。放送大教養学部卒。青山学院大社会情報学部「ワークショップデザイナー育成プログラム」修了。桜美林大大学院国際学研究科大学アドミニストレーション専攻(通学制)科目等履修で8単位取得。企業広報のプロデューサー、私立大専任職員、予備校の総合研究所主任研究員および大学連携プロデューサーなどを経て、現在はフリーランスとして活動。追手門学院大客員教授、「WEEKDAY CAMPUS VISIT」認定パートナー(NPO法人LEGIKA)、三重県「県立大学の設置の是非を検討するための有識者会議」有識者委員、「朝日中退予防ネットワーク」委員、高大接続領域ファシリテーター、三重県立看護大高大接続事業外部評価委員、主体的学び研究所フェロー、文部科学省「教育と研究の充実に資する大学運営業務の効率化と教職協働の実態調査」有識者委員、同「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続) 」ペーパーレフェリーなどを歴任。

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