慶大より人気の早大、「関西エリア」で16年連続1位の大学は? 「志願したい大学」リアルな魅力とは

大学受験生が追い込みをかける時季になった。志望大学の絞り込みに向けて情報収集も欠かせない。リクルート進学総研(東京・千代田区)が発表した『進学ブランド力調査2023』によると、高校生の「志願したい大学」は「関東エリア」が早稲田大で3年連続1位、「東海エリア」は名城大で7年連続1位、「関西エリア」は関西大で16年連続1位。超難関の早大は近年、慶大よりも人気で、名城大と関大は底堅い人気を集めているようだ。その理由を同総研の小林浩所長に聞いた。

私立大志向の理由を語るリクルート進学総研の小林浩所長 【写真:リクルート進学総研提供】
私立大志向の理由を語るリクルート進学総研の小林浩所長 【写真:リクルート進学総研提供】

リクルート進学総研「『志願したい大学』と『憧れる大学』は違う」、模索する独自のブランド力

 大学受験生が追い込みをかける時季になった。志望大学の絞り込みに向けて情報収集も欠かせない。リクルート進学総研(東京・千代田区)が発表した『進学ブランド力調査2023』によると、高校生の「志願したい大学」は「関東エリア」が早稲田大で3年連続1位、「東海エリア」は名城大で7年連続1位、「関西エリア」は関西大で16年連続1位。超難関の早大は近年、慶大よりも人気で、名城大と関大は底堅い人気を集めているようだ。その理由を同総研の小林浩所長に聞いた。(取材・文=鄭孝俊)

――関東エリアでは1位が早大で明治大が2位ですが、東海エリアでは名城大が1位で、2位は国立の名古屋大。関西エリアでは関大が1位で2位は大阪公立大と近畿大です。少し意外な気がします。

「この3エリアではともに私立大志向が高まっています。特に関西は国公立と私立が拮抗(きっこう)していましたが、関西では6年連続で私立志向が上昇しています。国公立志向が強かった東海でも私立志向が4割に達しました」

――背景に何があるのでしょうか。

「理由は2つ考えられます。1つは2025(令和7)年から大学共通テストの新課程入試が始まることから、その前年の24年入試は浪人を避けて現役合格を目指す安全志向が高まるとみられます。国公立大も年内入試に力を入れ始めていますが、まだまだ年明けに重心があります。私立大は年内入試での入学者が6割に達しており、コロナ禍の中で推薦や総合選抜など年内入試の選択肢を増やしました。受験生の側もコロナによる不確実性が高まる中、早めに進路を決めておきたいという気持ちからチャレンジの機会が多い私立を志向する層が増えています。就職活動で例えるなら、『早い段階で内定を勝ち取って安心したい』といった心理が働いているようです」

――もう1つの理由は。

「20年から導入された就学支援金制度の拡充です。24年から授業料減免等を中間層まで拡大する見込みで、国からの支援の結果、国公立大と私立大の授業料の差が縮小することが背景にあるのではないでしょうか」

――東海エリアで名城大のランクが高いですね。

「名城大は大正時代に創設された名古屋高等理工科講習所が起源で、その名の通り、理工系が強い大学として発展してきました。16年には外国語学部国際英語学科を設置して、17年には人間学部人間学科と大学院人間学研究科人間学専攻が天白キャンパスから、都市情報学部都市情報学科と大学院都市情報学研究科都市情報学専攻が可児キャンパスからそれぞれナゴヤドーム前キャンパスに移転しました。もともと理系男子に人気だった大学が、都市部へのキャンパス移転によって女子からの人気も上がってきました。東海エリアの受験生は家から通学するという意識が強いのでそれも大きな要因です」

――都心部へのキャンパス移転でイメージが向上したのでしょうか。

「その通りです。ただ、リクルート進学総研が発表したのは『志願したい大学』であり、『憧れる大学』ではありません。例えば、さまざまな大学調査で東大が『ブランド力1位』などと呼ばれていますが、現実問題、東大を受験してもなかなか合格は難しい。だから、自分が受かりそうな定員規模が大きかったり、学部学科の数が多かったり、学びたい分野のラインナップがそろっていたり、通いやすかったり、就職に強かったりなど、いろいろな要因を見て志願大学を決めているというふうに考えてください。『ある程度規模が大きくて文系理系がそろっている』など、教育界のおけるポジションが確立している大学が志願される。それは自然なことだと思います」

――名城大の就職はどのような状況ですか。

「かなり好調と聞いています。以前は『志願したい大学』調査の東海エリアで名古屋大が1位の時もありました。ノーベル物理学賞で名大の赤崎勇名誉教授と天野浩教授の受賞が決まり、『研究ができる大学』というイメージが広がったことも要因の1つかと思っています。今は名城大が16年に学部領域を拡大したことで1位になり、7年連続で1位になっています。東海エリアの難関私大としては南山大が有名ですが、理系文系のバランスという点で名城大が注目されているのだと思います。政府としても3000億円の予算を使って成長分野の理工農系学部を強化しようとしているのも後押しとなっています。偏差値ランキングだけで選ばれているわけではありません」

――関西エリアでの関西大の1位はどう見ていますか。

「関大は“強い”の一言ですね。千里山の丘陵地に広がる千里山キャンパスには、法・文・経済・商・社会・政策創造・外国語・システム理工・環境都市工・化学生命工学部など、文系理系がバランスよくそろっています。キャンパスもキレイでアクセスも良いです。関大は男子の大学、いわゆる昔のバンカラ系と言われていた大学ですが、学部を充実させて女子からの人気も高まってきました。ただ、関西は変動が激しいです。理系人気の中、2位の大阪公立大が今後注目されます。以前は大阪市立大と大阪府立大がありましたが、両校が統合して一気に関西エリアの理系トップに躍り出ています。16年から30年までを計算すると全国で18歳人口が12%減少するというデータがありますが、関西は15%減少、大阪府は17%とかなり深刻です。ですから、関西の大学は非常に危機感があり、強みを見極め、差別化を図っていくことで大学のブランド力を強化しています。その中で関大は活気があって親しみやすいイメージがあります。学部学科のラインナップ、学びたい分野がそろっている。企業で言うと商品ラインナップがそろっているということですね」

――ところで、女子から人気を集めるために各大学ともトイレの美化に努力していると聞きました。

「その動きは10年以上前からあります。2000年に明治大がリバティタワーを竣工した際、私は当時の学長にインタビューをしました。その際は、女子学生確保の強化に向けて、トイレにパウダールームを設置したりと、改修したトイレの話で時間の半分を使うくらいでした。関西エリアの『志願したい大学』2位の近大もそうです。昔は男性のイメージが強かったですが、外国語学部を創設したり、女子だけ利用できる24時間自習室を開設したりしました。日本で1番に始めるというのが近大の取り組みの特徴です。試験前やリポート作成、卒業論文提出前は大勢の女子が集まり、セキュリティーもしっかりしているので保護者も安心できます。多額のコストをかけてキャンパスを全部作り直すほど徹底しています。そういった取り組みの結果が、『2位』というわけです」

――『志願したい大学』ランキングは今後、変動する可能性がありますか。

「私はこの調査に15年取り組んできました。今年で16年目になりますが、大学のブランド力を向上させる『4つのドライバー』を整理しています。1つ目が商品ラインナップ。企業の商品にあたりますが、時代に合致した学生の学びたい学部学科がそろっているか。2つ目が大学の出口にあたる就職を見据えたキャリアサポート。3つ目は学ぶ場の価値創造。集まる価値があるキャンパスの立地やアクセスを指します。最後の4つ目は強みの創造と差別化戦略。これまでは偏差値という序列の中で併願構造が決められる傾向がありましたが、多様化が進んでいます。東京農大の生物産業学部は北海道・網走にあります。クリオネとかアザラシとかエゾリスとか、オホーツクでしか学べない生物の研究のため全国各地から学生が集まっています。同じように近大はマグロ、立命館は小学校から大学まで全部含めてベンチャースピリット、アントレプレナーシップを育てることを打ち出しています。そのような大学ごとの特色が明示され始めていると思います」

――終身雇用が崩れてきていることも関係していますか。

「以前は偏差値の高い大学に入れば、有名企業に入社できて一生安泰でした。ところが最近は必ずしもそうではありません。みんなが知っている有名企業に入ったからといって、その会社が社員の面倒を一生見てくれるかどうか疑問です。大学だけではなく高校にもキャリア教育というカリキュラムが浸透していますので、就職先を選ぶ際、学生の視線は厳しくなっていくと思います」

――そうなると、『東大や早慶も安泰としてはいられない』ということですか。

「おそらく就職先企業ランキングだけを見ているのではなく、『世界の大学とどう戦うか』を考えていると思います。世界最高水準の研究大学をつくるために政府が創設した10兆円規模の大学ファンドの支援対象に東北大が選ばれました。また、東京工業大が東京医科歯科大と統合するのも将来の大学経営を見据えてです。世界と戦う大学を見据えながら、どういう戦略を作っていくのか、というところが大学のこれからの生き残り策になると思います」

□小林浩(こばやし・ひろし) 1964年、埼玉県生まれ。早大法学部卒。88年、リクルートに入社。グループ統括担当や『ケイコとマナブ』商品企画マネジャー、大学ソリューション営業、社団法人経済同友会出向(教育問題担当)、会長秘書、大学ソリューション推進室長などを経て、2007年4月から現職。文部科学省中央教育審議会高大接続特別部会委員、高大接続システム改革会議委員などを歴任。現、中央教育審議会大学分科会臨時委員。『リクルートカレッジマネジメント』編集長。

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