世界のフェンダー、東京でガチンコ勝負のワケ “初の旗艦店”が大繁盛 ギター初心者“気軽に入れる”を意識

世界的な楽器メーカーが、日本市場に熱い思いを注いでいる。ギター・ベース・アンプ製造元の代表的存在である『フェンダー』(米国)が、ブランド創設から77年の歴史において初となる旗艦店を東京都内にオープンさせた。その場所は、流行の発信地である原宿・表参道エリア。開店から約4か月、狙いは大成功で、訪日観光客(インバウンド)を含めて来店者数は10万人を超えている。波及効果も抜群で、市場シェアが拡大しているという。新型コロナウイルス禍で楽器ブームが起きた中で、“ガチンコ勝負”に打って出た背景とは。フェンダー日本法人(アジアパシフィック統括)のエドワード・コール社長がヒットの秘密を明かした。

フェンダー初の旗艦店『FENDER FLAGSHIP TOKYO』には夢と魅力が詰まっている【写真:ENCOUNT編集部】
フェンダー初の旗艦店『FENDER FLAGSHIP TOKYO』には夢と魅力が詰まっている【写真:ENCOUNT編集部】

ブランド創設77年の歴史で初となるフェンダー旗艦店 最高級エレキギターを90本そろえる圧巻ラインアップ

 世界的な楽器メーカーが、日本市場に熱い思いを注いでいる。ギター・ベース・アンプ製造元の代表的存在である『フェンダー』(米国)が、ブランド創設から77年の歴史において初となる旗艦店を東京都内にオープンさせた。その場所は、流行の発信地である原宿・表参道エリア。開店から約4か月、狙いは大成功で、訪日観光客(インバウンド)を含めて来店者数は10万人を超えている。波及効果も抜群で、市場シェアが拡大しているという。新型コロナウイルス禍で楽器ブームが起きた中で、“ガチンコ勝負”に打って出た背景とは。フェンダー日本法人(アジアパシフィック統括)のエドワード・コール社長がヒットの秘密を明かした。(取材・文=吉原知也)

「開店以来、期待値をすべて達成できています。来店者数、売上、反響、すべてがポジティブ。我々は『すべてのミュージシャンの音楽の旅をサポートしていきたい』というミッションを掲げています。ギターをプレイするインスピレーションを与えてくれるこの店で、フェンダーブランドの体験を味わってもらいたいです。人が集まってワクワクするこの場所で、初心者、愛好家、プロ、皆さんに最良のサービスを提供していきます」。コール社長は充実感あふれる笑顔を見せた。

 レオ・フェンダー氏が創設したフェンダーは、エレキギター分野の先駆けでもあり、特に『テレキャスター』『ストラトキャスター』の2大モデルが有名。“ギターの神様”エリック・クラプトンはストラトキャスター(通称ブラッキーやブラウニーなど)を愛用しており、国内外の多くのミュージシャンに支持されている。米国とメキシコの生産工場が主軸だが、近年では日本の国産シリーズ『メイド・イン・ジャパン』が世界の愛好家から注目されている。

 今年6月30日、フェンダー初の旗艦店『FENDER FLAGSHIP TOKYO』がオープンした。カフェを併設した地下1階から地上3階の4フロアに及ぶ大規模店舗。1階は、初心者やギターを手にしたことがない人でも気軽に入れるよう、おしゃれでオープンなデザインになっており、オリジナルのアパレルも販売している。2階は、ミュージシャンと共同開発されたシグネチャーモデル商品が魅力的。3階には、ファン・収集家垂ぜんのコーナーが。職人の中の職人とされる『ビルダー』たちが手掛けた、『フェンダーカスタムショップ』と呼ばれる最高級エレキギターを90本以上展示販売。さらに、『ドリームファクトリー』と称される部屋を併設。貴重部品を組み合わせて世界に1つだけのオリジナルモデルをオーダーすることができる。フラッグシップの名にふさわしい店づくりは圧巻だ。

 ファッション・若者の街のイメージが強い「原宿・表参道」に出店した理由。キーワードは「最先端」だ。「日本の若者文化の中心地であり、ファッション、音楽、アートなどに興味を持つ若者を引きつけることで知られています。フェンダーは、特にギターや音楽文化について若い世代の関心を高めることも非常に重要だと考えています。アジアで最も人気のショッピング目的地の一つである日本は、ギターマーケットにおいても重要な位置を占めており、ここに実店舗を設立することでブランド認知度を高め、販売促進を目指しています」と強調する。

フェンダー日本法人のエドワード・コール社長がとっておきの秘密を明かした【写真:フェンダー提供】
フェンダー日本法人のエドワード・コール社長がとっておきの秘密を明かした【写真:フェンダー提供】

販売スタッフは約半数が女性 英語・中国語・スペイン語など外国語を話せる人員も充実

 平日夕方の取材日。大きなガラス扉の玄関から入ると、スーツ姿の中年男性だけでなく、若い世代や女性客が多く見られた。学校帰りの制服姿の学生が友達と連れ立ってアコースティックギターを試奏している姿もあった。海外客もひっきりなしに訪れていた。

 こうした多様な来店客に合わせた接客サービス体制を整備。女性の販売スタッフは約半数で、英語や中国語、スペイン語など外国語を話せるスタッフも充実しているといい、「新しくギターを始める人の5割が女性というデータがあります。女性のプレーヤーが増えてきています。また、日本は今後インバウンドがかなり増える見込みなので、いろいろなお客様に対して最適で充実したサービスを提供する能力が必要だと考えました」と説明する。気兼ねなく店に入れてギターに触れることのできる“敷居の低さ”も魅力の1つのようだ。

 訴求力の高い新商品の投入などもあり、日本市場におけるフェンダーの存在感は、より一層高まっている。一般的にはメーカーであるフェンダーが製造した楽器を、販売店(ディーラー)が顧客に売るというビジネスモデルが主流だ。コール社長は、日本で営業している各ディーラー企業との共存関係が良好であることをポイントに挙げた。そのうえで、旗艦店の業界全体における役割にも言及する。

「まず、旗艦店の購入客層の一番は日本人の方々です。次に、日本法人(フェンダー・ミュージック株式会社)が2014年に開業して以来、2ケタ成長を続けてきました。日本において、ディーラービジネスがかなり伸びたのが大きいです。今年のデータを見ると、昨年に比べてディーラービジネスだけで35%以上アップしています。さらに旗艦店の開店によって、ブランドの存在感や認知度がより高まったと考えています。お客様はギターを実際に買う前に、オンラインで調べたり、実店舗に見に行ったりすることを平均6~7回繰り返すと言われています。その意味では、この旗艦店もマーケティング戦略のほんの一部なのです。ディーラーは我々のパートナーであり、旗艦店は全体のマーケティングを通して強化構築につながっています。これはフェンダーに限らず、業界全体に旗艦店のプラス効果が生まれていると考えています」。

原宿・表参道エリアに軒を構えるフェンダー旗艦店はスタイリッシュな店づくりが印象的だ【写真:ENCOUNT編集部】
原宿・表参道エリアに軒を構えるフェンダー旗艦店はスタイリッシュな店づくりが印象的だ【写真:ENCOUNT編集部】

世界で2か所しか置いていない“開発用ギター” わざわざ来日する愛好家も

 新型コロナ禍の“巣ごもり需要”によって楽器への関心度は世界的に高まったと言われている。コール社長はプラットフォームによる音楽配信の伸長や、コロナ禍前から顕著だった音楽ライブ市場の活況などを挙げ、「コロナ禍のギタービジネスはかなり伸びました」と認める。

 一方で、世界情勢などの影響による高騰化、楽器製造に不可欠な木材の資源問題、日本では少子高齢化の課題があることも確かだ。「日本は人口減少の社会課題があるとは言え、財務的に安定し、豊かで将来有望の市場です」と断言。「木材においては、環境に最大限に配慮し、枯渇しないように使っていく責任ある調達を重視しています」と付け加えた。

 実は旗艦店3階のカスタムショップには、激レアのカスタム専用の“開発用ギター”が置いてある。世界を見渡しても、米国本社と旗艦店の2か所だけというから驚きだ。海外からわざわざ来日してギターをオーダーメードする外国人客もいるという。インバウンドの需要取り込みはより重要度が増してくるだろう。

 コール社長は「アジア各地、ヨーロッパ、アメリカ、中東からも多くのお客様が来て、旗艦店の多彩な商品やサービスを楽しんでもらっています。外国の方々は日本観光で京都に行きたい、日本食を味わいたい、良質なサービスを体験したい、いろいろな目的を持っていますが、一番の理由は買い物です。東京は最も洗練された小売り環境です。何度も申し上げますが、日本のお客様は非常に大切です。もちろん、魅力ある日本に旗艦店があるからこそ、グローバルなお客様にも満足していただきたいです」と力を込めた。

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