「限界オタク」「ぼっち飯」から考えるプラス思考 若い女性の間で流行の「蛙化」「蛇化」は終焉か
若い女性の間で、「蛙(カエル)化現象」「蛇(ヘビ)化現象」という言葉が流行している。「蛙化」とはずっと好きだった男性と両想いになった途端に「気持ちが冷める」ことで、男性に対し「気持ち悪い」「キモい」と思ってしまう現象を指す。「蛇化」とは好きな男性のどんな姿も受け入れて「かわいい」と思ってしまう心理だ。『若者言葉の研究 SNS時代の言語変化』(九州大学出版会)などの著書がある宇都宮大の堀尾佳以講師(現代日本語学)は、こうした言葉の流行を確認。一方で、若者の孤独を表す「ぼっち飯」がポジティブな意味に変化していることも指摘した。
『若者言葉の研究 SNS時代の言語変化』の著者・宇都宮大の堀尾佳以講師
若い女性の間で、「蛙(カエル)化現象」「蛇(ヘビ)化現象」という言葉が流行している。「蛙化」とはずっと好きだった男性と両想いになった途端に「気持ちが冷める」ことで、男性に対し「気持ち悪い」「キモい」と思ってしまう現象を指す。「蛇化」とは好きな男性のどんな姿も受け入れて「かわいい」と思ってしまう心理だ。『若者言葉の研究 SNS時代の言語変化』(九州大学出版会)などの著書がある宇都宮大の堀尾佳以講師(現代日本語学)は、こうした言葉の流行を確認。一方で、若者の孤独を表す「ぼっち飯」がポジティブな意味に変化していることも指摘した。(取材・文=鄭孝俊)
「蛙化」の由来はグリム童話の『カエルの王様』だ。ある国の王女が金の毬(まり)を泉に落としてしまうと、泉の中から醜いカエルが現れる。カエルは「自分と暮らしてくれたら毬を水中から拾ってあげる」と提案。王女は受け入れ、毬を拾ってもらったが、カエルとの約束を無視して城に帰ってしまう。翌日、カエルが城にやってきて約束を守るよう王女に迫ると、父親の王は何とカエルに同調。王女は嫌々ながらもカエルと寝室に行くが、嫌悪感からカエルを壁に投げつけてしまう。すると、魔法が解けたカエルは立派な王子の姿に戻った。王女は王子と恋に落ち結婚して幸せになった―。気持ち悪いカエルが真逆の素敵な存在になったことから、転じて女性心理の急変を表現する言葉となったようだ。堀尾さん具体例を示して解説した。
「『蛙化現象』とは、相手の男性が振り向いてくれた途端に気持ち悪いと感じてしまう心理を意味します。彼の行動に嫌悪感を抱いた時に『気まずくて蛙化する』などと言ったりします。女性がデートでレストランに行った時、『相手の男性がお釣りの3円を募金箱に入れず、財布にしまった姿を見て幻滅した』といった出来事が事例として挙げられます。100年の恋も一瞬で冷めることを表す言葉で、2023年上半期を代表する言葉となりました。今は使い方が少し変わり、物事に幻滅する行為全般を指すようになっています」
これとは反対の言葉が「蛇化」だ。一瞬で冷めてしまうのではなく、相手の男性の何気ない仕草や表情、ダサく見える瞬間も含めてすべてが「かわいい」「チャーミング」と感じてしまい、何でも受け入れてしまう態度を指す。ただ、「蛙化」も「蛇化」も過去のいじらしい自分を振り返り、ほっこりした気持ちになった場合に使われることが多いという。つまり、当時の自分から一歩成長した自分を前提とした心理表現なのだ。
「『蛙化』『蛇化』は対義語の関係にあり、心理学の知識が元にあるので、その言葉を使うことで自身を知的に見せているような気がします。カエルからヘビ、という派生形の作り方は言葉遊びの一環ではあると思いますが、こうした『現象』系の言葉は終焉(しゅうえん)を迎えつつあるのかな、と見ています。理由は簡単で、出過ぎてしまったから。ネットで検索すると『蛙化』というワードはめちゃくちゃ出てきます。内輪で使っていた特徴的な言葉が広く一般に認知されると若者から見放されやすいです。『そもそも3円を財布にしまったことでキモいと感じるなんてあなた何様?』という批判もあります。学生からのヒアリングやSNSを見る限り、セオリー通りに若者はこの言葉をもう手放しつつあります」
YouTuberのきりまるが「蛙化現象」について持論を投稿したところ、「本来の蛙化現象の意味とかけ離れている」と批判を浴びて炎上した事件があった。最近では「きりまる化現象」という新たな言葉まで生まれている。「蛙化現象」は片思いから両想いに変わった瞬間に発生するが、「きりまる化現象」は交際中の異性の些細な行動にドン引きする心理を指すようだ。
「『きりまる化現象』という言葉自体は面白いですが、一般的にはあまり聞かない気がします。『激おこぷんぷん』『○○ナウ』が滅亡したように、『この言葉も同じ運命をたどるのでは』と見ています。タイプミスから発生した『きまz』(きまずい)もピークを超えたようですが、誤字脱字まで楽しんでいるところが面白いです」
一方、アニメキャラやK-POPアイドルへの推し活が広がっている昨今、「限界オタク」という言葉が使われているという。
「もともとは『推しに興奮しておかしくなってしまう』『そんな自分を見ているのが限界』という自虐ネタで使われていましたが、最近は『推しへの愛ゆえに語彙(ごい)力や表現力が限界を迎えてしまったオタク』というポジティブな使われ方が増えています。自身の行動をポジティブに捉えているという意味においては、かなりプラス思考になっているのかなと思います」
プラス思考といえば、否定的に使われていた「ぼっち」の意味が変容しつつある。「ぼっち」とは「1人ぼっち」の略語。例えば「ぼっち飯」が出始めた頃は、1人でいるところを見られたくないため、個室のトイレで弁当を食べる行動を指すこともあった。
「今は『トイレでご飯を食べる』という意味ではなくなっています。1人でラーメン店に行くことも『ぼっち飯』と言っています。『ぼっち』を嫌うのは日本人の群れ気質が関係していると思いますが、『別に1人で行動してもいいのではないか』という思考の変化が起きているようです。確かに、外食産業でも1人用の焼肉チェーン店が繁盛しています。友達や家族で行くのも楽しいけど、それではない楽しみ方もあるという前向きな捉え方です」
加えて最近の若者言葉には、アジア系言語の影響が感じられるという。
「『ギョプる』『このYouTubeのミュージックビデオ、好ハオ』ってご存知ですか? 前者は韓国料理のサムギョプサルを食べること、後者の『好ハオ』は、中国語の『好(ハオ)』に由来します。韓国や中国のエンタメコンテンツが人気なので、こうした外国語とのチャンポンが生まれているのです。もちろん全員ではありませんが、このような言葉を聞くと欧米重視の時代が過ぎて最近はアジアに若者の目が向いていることが分かります。時代の流れの中で日本の若者がおおらかに、そして、オープンになってきているのかもしれません」
何かと内にこもりがちに見える若者たちだが、案外、ポジティブに生きているのかもしれない。