「格闘技一本で食えていない」 世界に挑んだ27歳・神田コウヤが明かす“格闘家のリアル”「このままでは終われない」
27歳・神田コウヤ(パラエストラ柏)にとっての2023年は変化であり、転機の年となった。2月にDEEPフェザー級の暫定王座戴冠。その後「Road to UFC(RTU) シーズン2」で国際戦を2戦経験した。10月にはジムの近くで一人暮らしをスタート。文字通り新生活を送っている神田が葛藤や心に秘めた目標を明かした。
“神田コウヤ”の名前の広がりを実感
27歳・神田コウヤ(パラエストラ柏)にとっての2023年は変化であり、転機の年となった。2月にDEEPフェザー級の暫定王座戴冠。その後「Road to UFC(RTU) シーズン2」で国際戦を2戦経験した。10月にはジムの近くで一人暮らしをスタート。文字通り新生活を送っている神田が葛藤や心に秘めた目標を明かした。(取材・文=島田将斗)
「全勝していればもっと稼げた。でも負けるのもこの仕事の一部」――。若くもなく、老いてもいない。27歳は人生の転機とも言われている。いままでの選択は合っていたのか。現実と向き合い、もがく一人の格闘家がいた。
街で声をかけられることことが増えるたび“神田コウヤ”の名前の広がりを実感する。一方で現状に納得いっていない自分もいた。
「バンって人気が出て、そのまま続いていく人と一瞬で終わる人がいる。自分も戦い続けなければ忘れられるだけだし、現役として強い選手と戦わないと道は残されていないと思います。飯も食っていけないので」
そう語る神田はRTU2トーナメント準決勝の直前に「いまの生活水準に満足していない」という言葉を残した。認知は感じつつも現在に甘んじているわけではない。「自業自得」と言いつつも胸の内を明かした。
「一般的に考えたら、大学を卒業して就職して生活をしていたらボーナスも入るだろうし、早い人だと結婚もして、家を買って車も買って、子どももいる。でも自分はその生活には程遠い。平均的な生活を送れてはいない。それって将来目指そうと思われる存在なのかなって」
小学生のころから夢は「格闘技チャンピオン」。山本“KID”徳郁に、五味隆典に、青木真也に憧れた。ふと“あの頃”の自分が頭によぎる瞬間がある。「こんなんじゃ嫌だよって言われたくない」と唇をかむ。
一般企業で働く友人が輝いて見える。「福利厚生もいいなぁ。年金とか、税金とか全部自腹なので……」と苦笑いする。
神田は格闘家の傍ら指導者としても生計を立てている。そんな自分に「二足の草鞋って言うと美談に聞こえる」と喝。現実について淡々と口にした。
「他の格闘家でも自分より稼いでいる人間はいるし、もっと大きいことを言うと他のスポーツ選手の方が稼いでいる。そう考えると格闘家としてもっと稼がないといけないよなと思います。格闘技一本で食えていない。試合だけで食えていない。そこをまず食えるようにしたいです」
やりたい相手は「松嶋こよみ選手」と「朝倉未来選手」
それでも今年は2勝1敗。ベルトを手にし、国際戦を2戦経験する飛躍の年だった。悲観する瞬間はあれど、得たものもある。
「経験から立場を得ました。チャンピオンという立場を得られましたし、RTUに出場できるって立場を得られました。立場って人の心とか行動を作っていくもの。より良い未来につながったと思います」
いままでにないほど「自信」もみなぎっている。人との関わり方に変化があった前を向く。
「人と話す機会が増えました。生きているなかで、気が付いても話さないことって多いじゃないですか。例えば『服新しいですね』『髪型変えましたね』とか。そういう些細なことを今までは面倒で話さなくていいやって思ってたんですけど、そういうのがなくなりました。ブレーキというか人に対しての壁がなくなった感じです」
2度の国際戦で視野も広がった。「格闘技に熱中している人間が世界にこれだけいるんだな」と自分の目で見てこれた。世界への挑戦は「またしたい」と気合いは十分だ。
今年は国内フェザー級を外から見ることができた。神田がRTUに参戦している間、国内フェザー級は大きく動いた。7月には松嶋こよみが日本復帰。RIZINでは鈴木千裕が世界的強豪を1R・KO。ヴガール・ケラモフが朝倉未来に1R・一本勝ちし王者に。9月には“鬼神”クレベル・コイケに40歳・金原正徳が快勝した。
「カイウェンとどっちが強いのかなって。ブラックコンバットとDEEPの対抗戦は複雑でした」と神田。
今後、どのような再起を考えているのか。戦いたい選手に2人のファイターの名前を挙げた。
「RIZINでもどこでも。DEEPだったら松嶋こよみ選手ですね。それ以外だと朝倉未来選手。すぐにというわけではないのですが、同じ階級で同じ時代に活動しているわけですから自分が引退するまで、もしくは朝倉選手が引退するまでにはやりたいです」
“朝倉未来”。格闘家のほか実業家、YouTuberとして活動しており年収は30億円とも公言している。日本で最も知名度のあるファイターと言っても過言ではない。意外とも言える選手の名前を出したが、話題に乗っているわけではなかった。「BreakingDownのおかげでジムが潤っている」と発言したこともある神田が理由を明かす。
「朝倉未来選手がいなければ、日本の格闘技、フェザー級、自分の階級が注目される階級にはならなかった。国内で1番熱い階級になった発端は確実に朝倉選手。だからやってみたい。戦ってみたいです」
海外MMAサイトの作るフェザー級ランキングがある。RTU1回戦の勝利で神田のランクが一時的に未来を抜いた。ここでより強く意識するようになった。
「ランキングで抜いたから朝倉選手より強いとは全く思っていないんです。でも、昔よりは勝負論のある立場になってきたのかなと、自分の中では実感がわいてきました。海外サイトが正しいとかではなく、数字として見えたときに手の届かない存在じゃないんだって。遠い存在ではあると思うんですけど、それが故に戦ってみたい」
まずは年内に再起戦。「もちろんこのままで終われないし、死にたくない」と目の色が変わる。もがきながらも、神田は次へ進んでいくようだ。