「毎日料理をやめる」生き方、“良妻賢母”縛り付けからの解放…53歳で作家デビューした主婦
一般の主婦が53歳で作家デビュー、「限りある命で自分を最優先」の生き方追求でたどりついた答えとは――。作家だけでなく、イラストレーター・防災士・料理研究家の顔を持つ草野かおるさんのライフスタイルが注目を集めている。2人の娘の子育てを終え、65歳になった今、50代・60代の女性に向けて伝えたいことがあるという。異色の作家人生や“自分ファースト”の極意を聞いた。
料理は「2日に1度、家族各自がセルフサービス」の新スタイル提案
一般の主婦が53歳で作家デビュー、「限りある命で自分を最優先」の生き方追求でたどりついた答えとは――。作家だけでなく、イラストレーター・防災士・料理研究家の顔を持つ草野かおるさんのライフスタイルが注目を集めている。2人の娘の子育てを終え、65歳になった今、50代・60代の女性に向けて伝えたいことがあるという。異色の作家人生や“自分ファースト”の極意を聞いた。(取材・文=吉原知也)
「『自分勝手』は周りに迷惑をかけてしまうのでダメですが、『自分ファースト』は好きなことに熱中・没頭したり、やりたいことに自分の時間を使うことです。自分の考えをリセットすることもできます。心が解放されます。自分自身が幸せであれば、自分だけでなく自分の周りも幸せにすることなんです」。草野さんは優しい笑顔を浮かべながら語る。
このほど、『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』(ぴあ株式会社)を上梓した。「私はいつも半径5メートル以内の生活の事柄を取り上げています。今回はママ友のために書きました」。イラストとエッセーで構成された著書には「テレビショッピングは1日おいてから買う」「毎日料理するのをやめる」「洋服の捨て活」など、女性の悩みを解消し、主婦業の負担やストレスを和らげてくれるようなアドバイスがたくさん詰まっている。
とりわけ、家事における料理は、世の中にはまだ“ママの仕事”という捉え方が残っていると言える。草野さんの世代は「良妻賢母」のイメージに縛られていたそうだが、新たなスタイルとして自分の時間を確保するために「料理は2日に1度、出来たてにこだわらない、家族各自が基本セルフサービス」などの考え方を提案している。
「昔、丸一日PTAの用事で学校で作業している時も、在宅の夫に温かいご飯を食べさせるためにお昼に抜けて自宅に帰っているママ友がいました。旅行に行きたくても、夫のご飯を作らなければならないので、諦めているママもいました。その当時は当たり前に受け入れていましたが、今考えると理不尽な状態だったんですね。いわゆる良妻賢母のママ友ほど、台所に縛り付けられている感がありました。毎日料理をすることをやめるのは、『誰かのためにご飯を考えなくていい時間や日』を作ることです」と話す。それに、「平日にとりあえず空腹を満たすようなメニューが多めだったら、週末は体にいいもの・手の込んだものを出す。そうやってバランスを取っていければ、気持ちが楽になりますよ」とアドバイスを送る。
そもそも、草野さんは遅咲きの作家デビューまでどんな半生を歩んできたのか。
幼少期からイラスト好きで、出版社に勤務。結婚して退社し、子育てに専念した。PTAや自治会の役員を務める中で、高層団地内で連絡事項を伝える「自治会のお知らせ」を頼まれたことが「自分の表現」につながったという。「それまでワープロの文字だけで注意事項などが書かれていたのですが、難しくて頭に入らなくて。そこで自分でカンタンなイラストを付けたり、トラブルを4コマ漫画にして紹介することにしたんです。『分かりやすく伝えたい』。これが私の原点なんです」。不審火の注意喚起や落下物の実例、空き巣の防犯対策の紹介……。防犯・防災・ご近所トラブルについて、なじみやすい言葉と柔らかなタッチのイラストで表現した。
すると、住民たちの間で大好評を博すように。防災訓練の呼びかけには、集会所に入りきれないほど参加者が激増した。あるとき、エレベーターに乗り合わせた見知らぬ住民が「これ(お知らせ)を読むために、エレベーターから降りないときもあるぐらい」と話す場面に遭遇し、降りた瞬間にガッツポーズを決めたことが思い出に残っているという。
「母から1人暮らしを始める娘に伝える」を合言葉に執筆活動
そして、まな娘の存在が人生を変えた。2011年の東日本大震災の際、「テレビ・ラジオから次々と流れてくる新しい防災の情報をメモしている私に、当時大学生の長女がブログにすることを勧めたのです」。このブログが出版関係者の目に留まり、作家デビューにつながった。その後は「母から1人暮らしを始める娘に伝える」を合言葉に一口コンロの狭小キッチンで作るレシピ本や、非常食のアイデアをまとめた本など、イラストを交えて「身近な誰かに分かりやすく伝える、ひと目で分かる」をテーマに据えた書籍を次々と出版し、ヒットメーカーになっていった。
自分の好きなことを仕事に――。人生100年時代、50歳過ぎて見つけた、理想の生き方だ。
草野さんには師匠のような存在がいる。多趣味でお酒もたしなむ元気な88歳の友人。スキーや登山、海外旅行を目いっぱい楽しむその女性に、東北まで会いに行くことで、活力をもらっているという。師匠から学ぶ「好奇心」。それが大きな原動力だ。
草野さんは「私にとって、もともとくすぶっていた火種があって、その情熱が燃え上がったような感覚です。私たちは、親の世代からの『自己犠牲精神』が残っている時代を生きてきました。夫の言うことを聞く、しゅうとめの言うことを聞く。『妻は夫の所有物』のように扱われた時代です。もしかしたら、今になって自分の好きなことの見つけ方が分からないという人がいるかもしれません。子どもの頃や若かった頃にやりたかったこと、見たかった景色、食べてみたかったもの、行ってみたかった場所を思い出してみましょう。意外と自分の周りにあるものですよ。どうしても体は衰えていきますが、心と頭を自由に解放して、人生を終わる間際に後悔しないように。お金も心も独立して、少女のよう遊びましょう」と話している。
□草野かおる(くさの・かおる)主婦から53歳で作家デビュー。防災本『4コマですぐわかる みんなの防災ハンドブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)やレシピ本『激せまキッチンで楽ウマごはん』(ぴあ株式会社)、最新著書『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』などの著書がある。防災についての講演活動を行うほか、テレビやラジオの出演も多数。