名バイプレーヤー小野武彦、81歳も「体力的なしんどさはない」 俳優生活57年で映画初主演
『踊る大捜査線』を始め、舞台、テレビ、映画で名脇役として活躍してきた小野武彦(81)が『シェアの法則』(10月14日公開、監督・久万真路)で初の映画主演を務めた。撮影時は俳優生活57年目。初主演はどんな体験だったのか。
『踊る大捜査線』や三谷幸喜作品で名演
『踊る大捜査線』を始め、舞台、テレビ、映画で名脇役として活躍してきた小野武彦(81)が『シェアの法則』(10月14日公開、監督・久万真路)で初の映画主演を務めた。撮影時は俳優生活57年目。初主演はどんな体験だったのか。(取材・文=平辻哲也)
小野は今年8月に81歳を迎えた大ベテラン。1964年に俳優座養成所を経て、文学座に入った。60年代は脇役として活躍し、70年代は倉本聰作品、『大都会』シリーズ、90年代は三谷幸喜作品や『踊る大捜査線』の主人公の直属の上司・袴田健吾役が当たり役にもなり、北村総一朗、斉藤暁との『スリーアミーゴス』が話題になった。
『シェアの法則』は劇団青年座が2021年に上演した岩瀬顕子作の同名舞台の映画化。東京の一軒家を改装したシェアハウスで、年齢も職業も国籍もバラバラで個性的な住人たちが繰り広げる群像劇だ。
「最初は頑固だったおじさんが最後、家族だけではなくて、シェアハウスの住人たちとも打ち解けることができていて、温かい話だなと思いました。主演はうれしいけど、群像劇だったので、肩肘を張った感じはなかったですね。だから、いつもの感じで演じることができました」
小野が演じたのは、税理士を務める少々堅物な主人、秀夫。個性豊かな住人たちの母親的な存在だった妻・喜代子(宮崎美子)が不慮の事故で入院することになり、妻の代わりに管理人を務める。秀夫は自分の価値観で物事を判断し、誰とも打ち解けようとはせず、キャバクラ勤務の美穂(貫地谷しほり)ら住民と衝突するが、交流を通じて、その心情にも変化が現れていく……。
「秀夫には受け入れられない価値観がありますね。それは僕にも重なる気がしていました。世の中の流れを理解し、それに対応したい気持ちはあるけど、価値観を転換できない自分もいる。秀夫を通じて、今後の価値観との向き合い方を考えさせられました。ただ僕は、秀夫ほど頑固ではないかな」と笑い。
最近、人気のシェアハウスだが、個人的にはどうか。
「オーナーも入居する側も無理かな。そういうことがやれる人ってすごいなと思います。人間関係って一番厄介じゃないですか。特にオーナーの場合はまとめたり、協調せざるを得ない部分もあるので、とても自信ないです。役だから、やっていけたのかな」
シェアハウスだけではなく、作品の撮影でも「合う」「合わない」はあるのだという。
「でも、我々の仕事はクランクインからクランクアップまで。そこで卒業していくわけ。役者は恵まれた仕事だなと思う。これが会社だったら、大変ですよ。気の合わない上司とずっと過ごさなくてはいけないわけですから」
長い俳優生活の中で大切にしてきたものはなにか。
「これと言ってないけど、強いて言えば身体に気を付ける事くらいかな。ただ、若い頃と違うとは思います。若いときは自分のことで精いっぱい。人様のありがたみはよく分からなかった。振り返ってみたら、本当に恥ずかしいけど、いろんな方にフォローしてもらったおかげで、今がある。最近は、仕事するってことはいかにありがたいことかを、ひしひしと感じます」
小野にとって、俳優という仕事は一番面白いものだという。
「飽きっぽい僕が飽きていないのはコレしかない。60代の頃、宇津井健さんから『70代になると、またちょっと面白くなるよ』と言われたことが頭に残っています。だんだん、このことを言っていたのかと感じるようになってきました。感性が違う役者たちが集まって、息が合うと、お客さんが喜んでくれる。若い頃はこういう感覚は分からなかったから。この年で、主役をできたことはよかったです』
年を重ねるにつれ、セリフ覚えは悪くなったというが、その原因は老化だけではないと分析する。
「脳が退化するだけではなくて、批評精神がでてきたんだろうね。普通はこういう言い方しないんじゃないかとか、もっとシンプルに伝える言い方があるんじゃないかと思っちゃう。ただ、セリフは監督と合意しない限りは変えないですね。それはマナーだと思うから。役を演じる上で体力的なしんどさは今のところあんまりない。出来るだけやれる時間を長くするために、体のケアをしていきたい」と生涯現役を誓った。
□小野武彦(おの・たけひこ)1942年、東京都出身。俳優座養成所、文学座を経て、60年代後半から映画、TVドラマで活動。『王様のレストラン』、『踊る大捜査線』シリーズ、NHK大河ドラマ『新選組!』、『科捜研の女』シリーズ、『DOCTORS ~最強の名医~』シリーズなど話題のテレビドラマに多数出演。近年の作品に映画『半世界』(2019)、『一度も撃ってません』(2020)、『仮面病棟』(2020)、舞台『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』(2019)、『にんげん日記』(2021)、『海の木馬』(2023)など。