55歳内野聖陽、“大御所扱い”に違和感の理由「まだ悩んだり、もがいてる部分が多いですから」

俳優の内野聖陽(55)が『春画先生』(10月13日公開、塩田明彦監督)に主演した。演じたのは、江戸時代、「笑い絵」とも称された春画をこよなく愛する風変わりな研究者。『臨場』『きのう何食べた?』に続く当たり役となった。50代半ばでトップを走る、その現在位置は?

インタビューに応じた内野聖陽【写真:荒川祐史】
インタビューに応じた内野聖陽【写真:荒川祐史】

春画は「笑って楽しむ芸術」

 俳優の内野聖陽(55)が『春画先生』(10月13日公開、塩田明彦監督)に主演した。演じたのは、江戸時代、「笑い絵」とも称された春画をこよなく愛する風変わりな研究者。『臨場』『きのう何食べた?』に続く当たり役となった。50代半ばでトップを走る、その現在位置は?(取材・文=平辻哲也)

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『臨場』では重い過去を背負った検視官・倉石義男、『きのう何食べた?』ではオネエ言葉がキュートなゲイの美容師ケンジなど多彩な役をこなしてきたベテランの内野。本作は、春画一筋に情熱を傾ける変わり者の春画先生、芳賀一郎と、しっかり者の弟子、弓子(北香那)のユニークな師弟愛を描く。春画先生は真面目で、エロチック、しかも、おかしい。まさに春画のような人物だ。

「春画というエロティックな世界には関心がありましたし、初めは淫靡(いんび)な世界かと思っていましたが、実は春画って人の心を解放させる力があるんです。笑って楽しむ芸術、性愛についておおらかで寛容な気持ちにさせてくれるとても明るい世界観なんです」

 役作りでは、役と自分との共通点を見つけながら進めていくのがルーティン。

「実は自分と似ていない部分を探ることが役をより深く理解する手がかりになるんです。具体的なことを言うとネタバレになってしまうんですけど、Mの感受性をどう表現するか、難しかったです。多くの本を読みましたし、監督からもMとSの心地いい関係性について講義を受けましたが、それでも完全に理解するには深い世界ですね」

 監督は『月光の囁き』や『害虫』などユニークな世界観を醸し出してきた塩田明彦だ。

「監督の作品はどれも一つ一つに非常に執着し、細やかでセンシティブで、そして美しく作り上げています。今回の『春画先生』でも、地震のカットを半日以上かけて撮り続けるなど、ワンシーンにかける気合いとこだわりは並々ならないと感じました。そういう監督との仕事は本当に幸せでした」

 劇中では、春画への偏愛が語られるが、内野が夢中になってきたのは演技だという。

「ある意味、演技に対する“変態”かもしれませんね(笑)。ただ、幼少期は引っ込み思案でした。幼稚園の先生からは、『内野くんが役者になるなんて思わなかった』と言われます。中学や高校になると、ちょっとした勉強家で、優等生っぽい部分もありました。担任の先生からは級長を振られたり……。目立ちたくないタイプなのに、これほどの表舞台に立つ職業に就くなんて、自分でも不思議です」と振り返る。

 93年にデビューし、森田芳光監督の『(ハル)』、NHK大河ドラマ『風林火山』、『真田丸』を始め、『臨場』、『JIN-仁-』『とんび』などさまざまな役をこなしてきた。50代半ばという年齢はどう捉えているのか。

「50代は危険なお年頃だと感じています。現場で働くメンバーがだいたい年下になってきて、敬語を使われることも多くなりました。一見『大御所』のように扱われることもありますが、正直、違和感があるんです。50歳になってもまだ悩んだり、もがいてる部分が多いですから」

 現場の中で心がけているのは、後輩たちとの交流。本作でも、弓子役の北香那の演技には胸を打つものがあったという。

「コロナの影響もあって、価値観や働き方が大きく変わっている現在、若者たちの話を聞くことで新しい気づきもありますね。今の時代の若者はこうなんだぁ、こう考えるんだぁ、とか面白いですね。現場で出会った若者たちの価値観や生き方に耳を傾けるのは好きで、よく質問攻撃してますね(笑)」

 まだまだ発展中という内野だが、目標とする人物はいるのか。

「目標などとはおこがましいですが、仲代達矢さんはいつも凄いなと思いますね。御年90になられますが、舞台に立ち続けられています。自分自身が舞台公演などで厳しい局面に立たされた時、仲代さんの奮闘に勇気づけられることはあります。同じ舞台で演じたことはありませんが、自分も弱音を吐かず、頑張らなくちゃって襟を正す存在ですね」

 最近、演技でテーマにしているのは、「ゆるさ」を持つことだという。それが遺憾なく発揮されたのが、『きのう何食べた?』のケンジや『春画先生』の主人公なのだろう。

「ケンジ役は、自分の中の男性文化を一旦捨て去り、自由でいられる部分を大事にしました。その中で、『いい加減さ』や『ゆるさ』を出せた部分もあったかもしれません。仕事に真剣であることは大切ですが、演技や現場での居方においては、ちょっといい加減にリラックスしてやっている方が僕の場合はいいのかな。力を抜いて、自由に演技できるかが、今の僕にとって大きなテーマかもしれません」。味のある演技で魅了する内野の演技の秘密がここにある。

□内野聖陽(うちの・せいよう)1968年9月16日、神奈川県生まれ。『(ハル)』(96)で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。演技派俳優として映画やドラマ、舞台と幅広く活躍。主な出演作には、テレビドラマでは、大河ドラマ『風林火山』(07)、『真田丸』(16)、『臨場』(09/EX)、『JIN-仁-』(09/TBS)、『とんび』(13/TBS)、『きのう何食べた?』(19/TX)がある。映画では、『臨場 劇場版』(12)、『家路』(14)、『罪の余白』(15)、『海難1890』(15)、『初恋』(19)、『ホムンクルス』(21)、『劇場版 きのう何食べた?』(21)、『鋼の錬金術師』(22)などがある。北香那とは『罪の余白』(15)以来の二度目の共演となる。

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