ブレイク真っただ中の歌手を襲った病「絶望的な気持ちや不安」 樋口了一が語る闘病の日々

『いまダンスするのは誰だ?』(10月7日公開、古新舜監督)で映画初主演を果たしたシンガー・ソングライターの樋口了一(59)。本作では、若年性パーキンソン病と診断され、自らの生き方を見つめ直していく主人公を演じた。自身もパーキンソン病と闘う樋口が、不調のきっかけ、病名が確定したときの思いを語った。

インタビューに応じた樋口了一【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた樋口了一【写真:ENCOUNT編集部】

原因不明で2年間14の病院通い

『いまダンスするのは誰だ?』(10月7日公開、古新舜監督)で映画初主演を果たしたシンガー・ソングライターの樋口了一(59)。本作では、若年性パーキンソン病と診断され、自らの生き方を見つめ直していく主人公を演じた。自身もパーキンソン病と闘う樋口が、不調のきっかけ、病名が確定したときの思いを語った。(取材・文=平辻哲也)

 樋口が体の不調を感じ始めたのは2007年のことだった。

「部屋でパソコンを使っていました。キーボードを打っている手は問題なかったのですが、もう一方の肩甲骨周辺が重く感じ、上げられないような状態でした。四十肩や五十肩だと思っていて、翌日には近くの整体でマッサージを受けたんです。一時的には良くなったように感じたものの、夜に再び同じ症状が現れました」

 最初は整体や鍼に通い続けた。その後はギターが弾きにくくなり、声も思うようには出せなくなった。

「それでも、パーキンソン病のことは全く考えていませんでした。私のイメージでは、パーキンソン病は手が震える病気だと思っていたので、私の症状とは違っていたんです」

 整形外科ではさまざまな施術や治療法を紹介された。

「でも納得感や確信を得ることができませんでした。例えば『関節の中の水が減少しています』といった診断を受けるも、その意味がよく分からず、多くの専門家が独自の見解を持っている中、何が正解なのか迷ってしまいました」

 結局、神経内科など14の病院へ行っても原因が分からないという経験をする。もしかしたら、パーキンソン病かもしれないと思い始めたのは、インターネット検索していたときだった。

「大阪に住むパーキンソン病の女性の日記にたどり着きました。その方の症状の進行と私の体験が非常に似ていて、初めて『震えがないパーキンソン病』というものを知りました。それから、病院での診断を受けることにしました。しかし、医師の診断は特定の動作や姿勢を繰り返すことによって、その部位にのみ症状が現れる『ジストニア』でした。しかし、私の症状は全身に現れていたため、自分の中で納得がいきませんでした」

 さらに別の病院で「心筋シンチグラフィー」という検査を受けたところ、異常値が確認され、医師からパーキンソン病との診断を受けた。体の不調から2年が経過した09年のことだった。

「聞いたときは絶望的な気持ちや不安もありましたが、それ以上にやっと原因が分かったという安堵感が強かったです。将来のことは心配でしたが、病気が確定すれば対症療法でずっと付き合ってできるということは分かっていましたから」

 当時は『手紙~親愛なる子供たちへ~』が大ヒットし、年末には第51回日本レコード大賞最優秀作品賞を受賞。その成功を喜びながらも、複雑な思いがあったのだという。

「すごくうれしいことと、病気という逆のことが同時に起こるというのは、かなり強烈でした。レコード大賞を取ったときに、歌を思うように歌えないと感じたのは、自分の人生のテーマかもしれないと感じました」

 パーキンソン病が確定した後も3年間、公にはしなかった。

「自分の弱みを見せたくない、という動物的な本能があるんです。ミュージシャンとしての僕の作品が先入観を持たずに受け止められることが大切だとも思っていました。NHKの番組の話が来たのを機に公表を決意しました。この病気は、私にとっても何かの役割やメッセージがあるのかもしれません。この経験が他の人のきっかけになればと思います」

 その病気を隠してきた心境は、映画『いまダンスするのは誰だ?』の主人公とも重なる部分はあったという。

「心の葛藤や感情としては、かなり近いものがありました。パーキンソン病になった人の中には、公表してない方や、公表するのに時間がかかったという人の話をよく聞きます。この映画がパーキンソン病の理解につながり、病と闘っている方々の背中を押す作品にもなればいいと思っています」。樋口は映画主演に使命感を持って臨んだ。現在は投薬で症状を抑え、音楽活動を続けている。

□樋口了一(ひぐち・りょういち)熊本県出身。1993年『いまでも』で東芝EMIからデビュー。『水曜どうでしょう』エンディングテーマの『1/6の夢旅人2002』はインディーズながらCD15万枚を売り上げ、『手紙~親愛なる子供たちへ~』は16万枚を超えるヒットとなり、日本レコード大賞優秀作品賞、日本有線大賞有線音楽優秀賞を受賞。SMAP、郷ひろみ、石川さゆり、中島美嘉らに楽曲を提供している。

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