【週末は女子プロレス♯122】KAIRIが無期限休業へ 世界中からのオファー告白「熱意あるとこで残りのキャリアを」
元WWEスーパースターのKAIRI(WWEでのリングネームはカイリ・セイン)が8月7日に都内で会見をおこない、9月末での「無期限休業」を発表した。
ラストはスターダムの生え抜きと
元WWEスーパースターのKAIRI(WWEでのリングネームはカイリ・セイン)が8月7日に都内で会見を行い、9月末での「無期限休業」を発表した。
KAIRIは2012年1月にスターダムでデビュー。スターダムでのリングネームは宝城カイリで、15年3月に最高峰のワールド・オブ・スターダム王座に到達、存続が危ぶまれる中、団体の救世主となった。16年5月には念願のワンダー・オブ・スターダム王座も獲得し、17年6月4日のアーティスト・オブ・スターダム王座戦と10人掛けシングルマッチを最後にスターダムを退団、“海賊王女”は独自の表現で「世界への長い旅」に出航した。
その後明らかになった行先は、世界最大のプロレス団体、米WWE。しかも未知の世界で数々のハンディを乗り越え、多くの偉業を達成した。WWEデビューの「メイ・ヤング・クラシック」優勝を皮切りに、メインロースター昇格後には、同じ日本人スーパースター、ASUKAとのカブキウォリアーズでPPVのメインイベントも経験した。
年間最大イベント「レッスルマニア」のリングにも女子タッグ王者として立った彼女だが、20年7月20日のベイリー戦、翌週の「ロウ」登場を最後にWWEを離れた。
その後帰国し、WWEとの契約終了後、22年3月に古巣スターダムでフリーとして復帰。スターダムのビッグマッチを中心に、今年9月20日のGLEATまで20試合をこなしてきた。そして、スターダム10・9名古屋での6人タッグマッチ、岩谷麻優&高橋奈七永&KAIRI組vs葉月&コグマ&飯田沙耶組をもって休業に入ることになる。
当初は9月いっぱいとしていたKAIRIだが、最後は古巣で生え抜きの選手と闘いたいと希望した。また、10・9名古屋の会場ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)は昨年8月21日に出場予定も、コロナ陽性で無念の欠場となってしまった。後悔を残さないため、彼女は独断で期限を“延期”。10・9名古屋が、ひとつの大きな区切りとなる。
約3年間のWWEでの活動から1年半のブランクを経て日本で復帰。そしてここまで約1年半、古巣スターダムを中心に闘ってきた。試合数こそ限定されているが、ビッグマッチが中心でタイトル戦線にも加わった。それだけに濃密な時間を過ごせたというものの、最初はブランクもあり、かなりの葛藤があったという。
「日本復帰にあたり、団体に所属するかどうか、まずはそこから悩みましたよね。自分のジム(神奈川県藤沢市、湘南江の島駅直結のPARA-FIT24)も立ち上げたし、ブランクも長かった。まずは試合勘を取り戻さないといけないと思ったんですけど、日本のプロレスにしっかり対応できるようにしたいし、その上で単純に日本のプロレスに染まるだけでなくアメリカで学んだプロレスをどこまで融合できるか、期待と不安で始まりました」
KAIRIが残りのキャリアを過ごす国とは
21年3月の両国2連戦が本格復帰のリングだった。ビッグマッチの連続を(見た目には)難なくこなせたのも、WWEでの経験が生きたからだろう。そこにレスラーとして生まれ育った古巣に懐かしさも感じた。かつての仲間たちとの再会と新戦力との出会いが、KAIRIの心境に大きな変化をもたらしたようだ。
「(スターライト・)キッドやAZMちゃんはキッズの頃から見てたけど、振る舞い方とか自己プロデュース面で全然変わったなと思いました。両国で対戦した(林下)詩美ちゃんも堂々とどっしりしていて、(紫雷)イオさん(現イヨ・スカイ)に似たものを持ってる。ブレない感じがすごいなと思いました。また、上谷(沙弥)さんの能力には驚かされましたね。私は(タイトル戦で)ヒールとしてやったわけですけど、私たち2人の世界観が表現できたと思ってるし、印象に大きく残りましたね」
「ベルトが泣いてる」との挑発は、米国で学んだプロモーションの成果でもあった。上谷の感情を引き出し、それを反映させた試合では日本流のハードヒット。スターダムでの闘いを通じ、KAIRIは当初の不安を払拭(ふっしょく)していったのである。その中でもタイトル戦線に絡み、新日本プロレスで新設されたIWGP女子王座のベルトを巻いた。王座の趣旨からしても、初代王者としてベルトの価値を高めることこそ、世界を体感した自分の使命と考えた。
「いずれは引退というかゴールを決めないといけない。そう考えていた中で新しいベルトの話を聞き、初代王者として価値を高め一緒に成長して燃え尽きたいというのがありました。それこそが自分にとって最後の役割じゃないかと思ったんです」
新日本とスターダムの合同興行、そのメインでおこなわれた岩谷麻優とのトーナメント決勝戦で勝利。KAIRIは新日本発祥のIWGPの名のもとに、世界に打って出る権利を再び手に入れた。しかし、思いのほか早い段階でベルトを手放してしまう。今年2月、サンノゼにて元WWEのサーシャ・バンクスことメルセデス・モネに敗れたのだ。
「東京ドームのリングにも上がらせてもらえて経験を積ませていただきましたけど、自分が思い描くチャンピオンロードはまだまだ長くて、そこに至るまでにはなりませんでした。喪失感が大きくて、これからどうしようとの思いになりましたね」
とはいえ、安納サオリ、なつぽいとトリオを組み、心機一転。新人時代に他団体から修行に来ていた2人には思い入れがあった。チーム名はREstart。出直しの意味も込めた闘いで、アーティスト王座を一発奪取に成功した。しかし、一度も防衛せずにこのベルトも失った。そんな頃だ、KAIRIはあくまでもフリーのプロレスラー、世界中のさまざまな団体から参戦オファーが届いたのである。
「REstartの3人でコスチューム新しくしようとしていた中でベルトなくして、う~んとなってたときに、ホントにビックリするくらい、いろんなところからオファーが来たんですよ。アメリカはもちろん、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス。中東もありました。日本からもありましたね。国内では赤、白のベルトも取って悔いなくやってこれたと思ってるし、これからの若い子たちを応援したい気持ちもある中で、この輪に入っていく意味も考えました。そんなときにいろいろオファーをいただいて、動けるうちに自分を必要としてくれるところでやってみたいなという気持ちにもなりました。だったら、一番の熱意をもって声をかけてくれたところで残りのキャリアを過ごそうかなと思ったんです」
どこの国のリングに上がるのか夢は広がるが、まずは国内ラストマッチの10・9名古屋だ。
「さよならってムードにはしたくないし、ただの壮行試合で終わらせたくはないと思っています」とKAIRI。スターダム生え抜きの葉月&コグマ&飯田が最後の相手に名乗りを挙げた。なかでも葉月は、前回の壮行試合となった10人掛けで唯一KAIRIからピンフォールを奪った選手だ。また、七海里復活をアピールした奈七永は、タッグを組むことでKAIRIを開眼させた。当たりの強い打撃で顔面が大きく腫れたこともあった。同時に、「プロレスの楽しさ」を身を持って教えてくれたのも奈七永だ。そしてこのカードは、壮行試合以上に世代闘争の側面を持ち合わせている。KAIRIが伝えたい部分はむしろそちらにあるのではないか。
日本復帰から通算21試合目。KAIRIは1年半の思いすべてをこの試合にぶつけてくるだろう。その先に広がる、新たなる航海を見据えて――。