珠城りょう、宝塚退団後初のミュージカル主演「大きな挑戦」「成長した姿を見せたい」
俳優の珠城りょう(34)が宝塚歌劇団の退団後初めてミュージカルに主演する。『天翔ける風に』(9月29日~10月9日まで、東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウス)で、自身の正義を貫いたものの、その罪に揺らぐ主人公を演じる珠城は「私にとって大きな挑戦」と位置づける。その理由とは?
野田秀樹氏手がけた『贋作・罪と罰』のミュージカル化
俳優の珠城りょう(34)が宝塚歌劇団の退団後初めてミュージカルに主演する。『天翔ける風に』(9月29日~10月9日まで、東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウス)で、自身の正義を貫いたものの、その罪に揺らぐ主人公を演じる珠城は「私にとって大きな挑戦」と位置づける。その理由とは?(取材・文=平辻哲也)
宝塚歌劇団入団から9年という異例の早さで月組トップスターに就任し、2021年8月の退団後は、『8人の女たち』『マヌエラ』で強い女性を演じてきた珠城。本作は退団後初のミュージカル出演となった。
「実を言うと、ミュージカルに出演することは考えていませんでした。しかし、この『天翔ける風に』という素晴らしい作品のお話をいただき、非常にありがたい機会だと感じました」
『天翔ける風に』は、ロシアの文豪ドストエフスキーの『罪と罰』(1866年発表)を原作に、野田秀樹氏が江戸時代の日本に置き換えた『贋作・罪と罰』のミュージカル化。『罪と罰』は、独自の哲学を持つ頭脳明晰な元大学生ラスコーリニコフが自らの正義感によって、高利貸しの老女殺しを計画するが、実行当日に老婆の妹まで手をかけたことで、その罪の意識にさいなまれる物語だ。
「野田さんが書き換えられたものを知って、とても面白いと感じました。ロシア文学が題材になった時代を日本に置き換えると、ちょうど幕末だったんですね。そして、主人公を女性にすることで、女性だからこその葛藤や、男社会の中での過酷さを表現できる部分が新しい魅力だと感じています」
演出・振付を手掛けるのは宝塚歌劇団出身の謝珠栄(しゃ・たまえ)氏。これまで謝氏の演出によって、2001年、03年、09年には香寿たつき、13年には朝海ひかるが主演を務めている。謝氏とは宝塚歌劇団時代からの付き合いで、2016年の月組全国ツアーでも演出・振付を担当している。
「私が宝塚を卒業することを発表した際、謝さんはとても驚かれました。『これからも一緒に仕事をしたい』との言葉をいただいたことが、今回のきっかけにもなりました。ミュージカルは自分にとって挑戦の場ですが、謝さんの期待に応えたいと思いました。謝さんから『先入観を持たずに役を捉えてほしい』とのアドバイスがあり、映像資料なども見ないようにしています」
珠城が演じるのは、理想を夢見て、男だらけの江戸開成所で孤軍奮闘している塾生、三条英(さんじょう・はなぶさ)。彼女なりの正義感が沸き立ち、生活から苦しい人々から法外な利息を取る高利貸しの老婆殺しを計画するが、偶然、居合わせた老婆の妹まで手をかけることになり、心をかき乱されてしまう……。
「英はとても複雑なキャラクターです。特殊な思考を持っていますが、同時に家族への深い愛情や他者への優しさも持っています。台本だけではなく、原作の小説にもその側面が描かれています。彼女が抱える罪の意識や闇、それをどのように他者との関係性に織り込んでいくのか、演じる上での課題として捉えています」
珠城は原作を読み、インターネット上の考察記事なども参考にしながら、役を作り上げていった。
「すごく面白くて、この主人公の人物像をどう紐解けるかなと思っています。彼女は非常に複雑な人物で非凡である一方、普通の感覚も持っています。多面的な性格は演じる上での挑戦ですが、それがこの役の魅力でもあります。どのように表現していけるのか、私自身も楽しみにしています」
義憤に駆られ、罪を犯し、その罪に苦悩する主人公だが、自身との共通点はあるのか。
「大切な人に対して優しさや愛情を注ぐ部分、困っている人がいたら助けたくなる感覚も自分の中にあるので、そういう部分は似ていると思います。作品の中では妹に『何でも人に決めてもらうような人間になってどうするの?』と叱る場面がありますが、私自身も何かを決める時や決断する時は最終的には自分で決めたいタイプです」
退団後もボイストレーニングは欠かせない。早々と譜面も受け取り、本番に向け、個人的にも練習も重ねてきた。本作の音楽には、太鼓、津軽三味線も加わり、壮大な世界観を見せていく。宝塚歌劇団時代には三味線を2年間習ったこともある。
「2年前の自分だったら歌えないと思う楽曲もあって、新しい楽曲を歌う中で自分が成長していると感じています。大変さはありますが、玉麻(尚一)さんの本当に素晴らしい曲がたくさんあるので、それを歌える喜びもあります。謝さんの音楽は重厚で力強い。太鼓や三味線がどういう風に融合してくるのか、とても楽しみです。負けない演技をしなければと思います」
『天翔ける風に』でのミュージカル初主演は珠城にとっても大きな挑戦になりそうだ。
「この舞台の成果が、今後の私の役者人生にも影響すると感じています。この作品に携わってきた方々にとっても、大切な作品なので、その期待に応えたいと思っています。謝さんからも、新しい風を吹かせるようにとの期待を受けているので、2023年版の『天翔ける風に』を皆様にお届けできたらと」と意気込む。19世紀から語り継がれてきた名作で、新風を吹き込む覚悟だ。
■珠城(たまき)りょう、10月4日、愛知県蒲郡出身。08年宝塚歌劇団94期生として入団。月組に配属され、入団3年目で新人公演の初主演に抜てきされ、9年目で月組トップスターにスピード就任。21年に退団後は舞台「Greatest Moment」「マヌエラ」、TBS系連続ドラマ「マイファミリー」「VIVANT」、映画「わたしの幸せな結婚」など多数出演。