GLAY・TAKUROが語ったバンドの現在地 メンバーの意見を尊重、音楽性の違いは無関係「それが今のGLAY」
来年デビュー30周年のGLAYが、今月27日にEP『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』をリリースした。コロナ禍で集合できなかった時期、メンバー個々に曲作りを進めながら完成させた作品だという。この機に、ENCOUNTはリーダーでギタリストのTAKUROにインタビュー。「前編」は新作のポイント、4人が目指すライブの形について聞いた。
最新作EP『HC 2023 episode 2』を27日にリリース
来年デビュー30周年のGLAYが、今月27日にEP『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』をリリースした。コロナ禍で集合できなかった時期、メンバー個々に曲作りを進めながら完成させた作品だという。この機に、ENCOUNTはリーダーでギタリストのTAKUROにインタビュー。「前編」は新作のポイント、4人が目指すライブの形について聞いた。(取材・文=福嶋剛)
――今年のGLAYは“HC(ハイコミュニケーション)”をテーマに2作品をリリース。春にホールツアーを展開し、11月からはアリーナツアーが始まります。
「今回のテーマは30周年を前にした作品とライブです。来年の30周年はGLAYの誕生日を口実にファンのみなさんにめちゃくちゃ楽しんでもらえるようなことを考えています。その前に今年は僕たちが心から誇りに思うことや時代の記録をドキュメントとして残しておきたいという思いがありました」
――具体的には。
「1つはGLAYの音楽的な一面です。これまで振り幅の大きい作品を数多く残してきて、『今まであまり日の目を見なかった曲たちにスポットライトを当てることでGLAYの面白さをもっと多くの人に伝えられるのでないか』と考えました。ファンのみなさん、それぞれの“思い出の再生”とは別の“新しいGLAYの楽しみ方”という壮大な実験です」
――それが、今年のツアーにつながっているんですね。
「はい。その発想の原点は、昔、たまたま入った小さなライブハウスの出来事です。見ず知らずのミュージシャンたちが知らない曲を演奏しているのに、次第に体が揺れていつの間にか内なる自分が解放されていくような感覚を味わいました。知らないからこそ余計に演奏に集中できて、生き生きとしたミュージシャンたちの演奏が曲をキラキラと輝かせていることに気が付きました。そして、『これこそがバンドにとっての充実感だ』と感じました。そこで僕たちもヒット曲とか今までのお約束は全部忘れて、知らない曲でも面白さを感じられる『みんなのGLAYを取り戻そう』。そう、思いました」
――実際にその思いでライブをした感想はいかがでしたか。
「前回の61作目のシングル(『HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-』)でJIROが作った『THE GHOST』というキャッチ―な曲が僕たちにとっての大きなきっかけになり、『“THE GHOST”を今年のテーマにして昔ライブハウスでやっていたシアトリカルなライブに挑戦してみよう』と決めました。やってみると、最初は少し戸惑う人もいたんだけど、『一緒にステップを踏んでみよう』とTERUがみんなを導いていくと徐々に一体感が生まれ、あまり知られていない曲を演奏しても代表曲と変らないくらい盛り上がりました。僕たちの演奏の切れ味もどんどん増していき、20年前や30年前にはなかった喜びを今このステージで味わうことができました」
――「原点回帰のようで、新たなGLAYの一面が見えた」と。
「そうかもしれないです。今年の春の全国32公演では、僕らの代表曲に染みついたイメージやみなさんの思い出みたいなものを取り払いました。そして、映画や推理小説みたいにラストシーンまで目が離せないステージを展開しました。メンバーも全員が『こういうライブっていいよね』と言って、めちゃくちゃ盛り上がりました。新鮮な体験を提供できたこともうれしかったですし、バンドとして楽しめたことも大きかった。それで『まだまだこの感覚を味わいたい』と思い、11月からアリーナツアーを全国で13公演やろうと決めました」
ここ数年で感じたことをドキュメントとして曲にした新作
――そして、アリーナツアーを前に9月にEP『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』をリリース。
「今年のもう1つのテーマは、『GLAYのコロナ禍を終わらせること』です。30年やってきたバンドでさえコロナ禍の影響は大きくて我々も環境の変化を強いられました。そんなここ数年で感じたことや逆境を乗り越えて成長したことをそのままドキュメントとして曲にしたかった。前作の『episode 1』では、JIROが『THE GHOST』で特大ホームランを打ってGLAYの新しい可能性を広げるきっかけを作りました。『episode 2』にも、新たなリミックスバージョンが入っていますが、今度はHISASHIが『Pianista』という曲でGLAYの新しい一面を見せてくれました。まるで、高校時代の文化祭で『この曲をやるから覚えてよ』と言って、いきなり譜面を渡されたような感覚で僕にはないタイプの曲なんです。だけれど、この曲を作ったHISASHIの目はキラキラと輝いていて、それだけで十分に伝わるんです。音楽性の違いだとかイメージに合う、合わないとかそんなものは関係ない。『今、俺はこれをやりたい。この表現で前に進みたいんだ』と4人のうち誰かがそう思ったら、『OK! やろうぜ』と言って前に進む。それが今のGLAYなんです」
――TAKUROさんは4曲書き下ろしました。どんな思いで曲を作りましたか。
「1曲目の『Buddy』は、昔からのファンも最近好きになってくれたファンもみんなと来年の30周年はフレンドリーな1年にしたいので、そんなテーマで作りました。『U・TA・KA・TA』は憧れのヒーローたちに思いをはせていた無邪気な10代の自分に戻って作ってみました。音楽に詳しい人ならすぐにお気付きでしょうが、アル・クーパーとマイク・ブルームフィールドの『フィルモアの奇跡』の1曲目『59番街橋の歌』とオリジナルのサイモンとガーファンクルをオマージュしています。今までドラマーのTOSHIと一緒にデモテープを作っていたんだけどコロナ禍でそれができなくなり、HISASHIやTERUに教わりながらデスクトップで音楽を作り始めました。最後のピアノのインスト曲『Ghost of GLAY 愛のテーマ』は2000年代に作った曲をツアーメンバーの村山☆潤に弾いてもらいました。僕のヒーローでこれまで直接たくさんの影響を受けてき坂本龍一さんにこの曲を通して感謝を伝えたいと思いました」
――そして、TERUさんの書いた『刻は波のように』は故郷への愛を感じられる曲です。
「TERUの“心の旅”みたいなものをすごく感じる曲です。今までニューヨークやロサンゼルスの最新設備のスタジオでレコーディングしてきましたが、TERUは50歳を前にして『やっぱり、函館で歌いたい』と言って故郷にスタジオを建てました。そのこだわりが如実に歌に表れていて、函館で録音するようになってからのTERUの歌は、過去のどの作品よりも僕は一番良いと感じます。キャリアのピークが50代ってすごくないですか? 彼は緊張感を強いられる東京のレコーディングを減らし函館での歌入れを選択し、その延長で歌った方がいい歌が歌えると信じて勝負に出ました。そして、見事に勝ったんです。過去には『COLORS』(2019年)で父親のことを歌ったんだけど、TERUは優しい人だから今度は母親のことを書いたんじゃないのかな。子どもの頃に遊んだ海の音も入っていて、コロナ禍で生まれ、ふるさと函館に帰っていくという“心の旅”ですよ」
30年目を迎えた現在も互いを尊敬し、刺激し合いながら前進する4人。インタビュー「後編」では、チームワークが手に取るように分かるエピソードを交えながら、TAKUROの考えるヒット曲の定義を紹介する。
□TAKURO(タクロウ)1971年5月26日、北海道・函館市生まれ。88年にGLAYを結成したリーダーでギタリスト。『HOWEVER』『誘惑』『Winter,again』『SOUL LOVE』など数々のミリオンセラーをはじめ、GLAY楽曲の大半を手掛けている。最近では、ソロプロジェクトとして、TAKURO名義でインストアルバムのリリースやライブツアーで全国を回るなど、表現の場を広げている。